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復讐魔王~勇者は皆殺し~  作者: ケイ


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***


「うっ、これは」


「……っ」


冒険家ギルドの調査隊。

その面々は、洞窟の中に広がっていた光景に息を飲んだ。


“「勇者様御一行が帰ってこない」”


そんな話しを冒険家ギルドの受付けから聞いた、調査隊。

話しを聞いた当初は道に迷った程度だと思っていた面々。


たが、実際は想像の遥か上を行っていた。


飛び散った血肉。

折れた剣。

遺された迅雷勇者イライザの物とおぼしき遺留品。


「この辺りの魔物はさして強くはない。いくら勇者様が未熟だとはいえ、仲間と共に来たとなれば敗北は考えづらい」


折れた剣を拾い上げ、調査隊の男は首を傾げる。


「だとすれば――」


「不慮の事故。もしくは想像できなかったことが起こった。この有り様なら後者が正しいかと」


調査隊の面々は憶測し、目の前に広がる光景から得られる情報で様々なことを推理していく。


そしてその中の一人がゆっくりと――


「もしかして“魔王”の仕業か?」


そんな声を発する。


途端。

静まり返る、洞窟内。


調査隊のリーダーは今一度、凄惨な光景を眺めちいさく頷き言葉を発した。


「もしそうであるなら……此度の魔王は、勇者様に相当な恨みをもっている」


洞窟内に響く声。

それはこれからはじまる魔王の蹂躙に怯えているかのようだった。


***


「焔勇者。創水勇者。迅雷勇者。そして……疾風勇者」


「短期間で四人もの勇者が何者かに殺された。これは魔王の仕業といってまず間違いないでしょう」


「うむ」


「だとすれば、人類側としても手を打たなければなりませぬな」


「騎士団の派遣。魔法協会からの支援。打てる手は全て打ち、魔王の思い通りにさせぬよう計らいましょう」


大聖堂。

そこに在る、巨大なホール。

その壇上に大聖堂の主たる教祖が佇んでいた。


その教祖の眼下。


そこには黒のローブや白のローブに身を包んだ面々が立ち並び、口々に魔王への対策について意見を述べていた。


そんな人々を見つめる、教祖。

その白髭をたくわえた教祖の傍らに、聖光勇者に選ばれたうソフィーナという名の銀髪の少女が佇んでいた。


震える、ソフィーナ。

教祖は、そのソフィーナの頭を優しく撫でる。


そして――


「なに、心配はいらん。いくら魔王とてこの大聖堂には容易に手出しはできん」


そう声をかけ、余裕に満ちた微笑みをたたえた。


ソフィーナ。

大聖堂の教祖の娘にして、聖光勇者。


ソフィーナはしかし、魔王を怯える。


既に四人が魔王に敗れている。

しかも、圧倒的な力で完膚なきままに。


死にたくない。

死にたくない。


ソフィーナは教祖の袖を掴み、涙をこらえる。


怖い。魔王が、恐い。


怯える、聖光勇者ソフィーナ

だが、その瞳の奥には底知れぬ悪意が揺らいでいた。


***


聖光勇者ソフィーナ

その慈悲深き微笑みは他者の心を穏やかにし、その無垢なる眼差しは見る者全ての心を浄化する。 


大聖堂。

そして、その教祖の娘。

社会的な地位は高く、ソフィーナ自身を神と崇め教えを乞う者も存在した。


だが、ジークにとってソフィーナは加虐者以外の何者でもない。


歩みを止め。

ジークは、聖光勇者のありがたい御言葉と行動を思い出す。


~~~


“「ジーク。他者に虐められることであなたの価値は更に磨きがかかる。生まれもっての被虐体質。それを拒んではならない。虐められることを受け入れるの。そうすれば、ジークの無価値な生は価値ある生へと変わる」”


学園の魔法実技試験。

その試験中にボロ雑巾のように弄ばれ、踞っていたジーク。

そのジークにかけられた、ソフィーナの言葉。


不快な微笑みをたたえ――


“「さぁ、ジーク。立ち上がりなさい。虐めはあなたを成長させる為に皆が仕方なく行っているの。ここで逃げたら、あなたは更に負け犬になる」”


そう言い。

ソフィーナは、ジークの震える背中を悪意ある手つきで撫でた。


~~~


聖光勇者ソフィーナ。てめぇらの虐めから逃げずに来てやったぞ」


漏れる、ジークの声。

そこに込められているのは勇者に対する憎悪と殺意だった。


大聖堂。

その聳え立つ神聖なる聖堂。

その純白を基調とした巨大な建物。


それを見上げ、魔王ジークは感謝を述べる。


心の内で――


“奴等を勇者に選んでくれて、ありがとな。おかげで順調に勇者共をぶち殺すことができている”


込み上げる思いに、その唇を歪ませながら。


踏みしめられる、ジークの足。

漆黒が染み、じわりと石畳が黒く侵されていく。

それと呼応するかように日が隠れ下界が陰へと落ちる。


その陰の下。

ジークは、魔王の瞳をもって大聖堂を見つめた。


そして、声を聞く。


“「ソフィーナよ。我が娘にして、聖光勇者。他の勇者が敗れたとしても、お前だけは敗れさせることはない」”


“「で……でも、わたしはまだ勇者として」”


“「未熟。それもまた、成長の糧となる」”


”「……っ」“


”「泣くな、ソフィーナ。これもまたしれ――」”


これ以上、聞く価値もない。

そう判断し、ジークは声を遮断した。


容赦などしない。

成長などさせるつもりもない。

魔王として、聖光勇者ソフィーナを倒し。

被虐者として、ソフィーナに復讐をする。


大聖堂もろとも破壊することもできる。

だが、それでは意味はない。

他の勇者共にそうしたように。

聖光勇者もまた、同じように弄んでやる。


揺らぐ、闇色のオーラ。

それを纏い。

ジークは、大聖堂に向け決して折れぬことのない復讐心を固定した。

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