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ABSOLUTE CONTROL ~リアルの呪文をあげる  作者: メイズ
穏当な帰結と当惑の帰趨
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拘束完全解除の時〈ヨネリ〉

 父の死は衝動的な発作的自殺ということで穏便に片付いた。


 でもその事で、前に住んでいた団地にも、警察の聞き込みが来たらしくて、団地に住むイネリの彼氏からイネリの元へ連絡が来た。


 母が亡くなって引っ越しが決まったことをイネリが報告した時に告白されたとかで、いつの間にか妹には彼氏がいたのよ。

 その子はイネリの同級生の須須原(すすはら)カルラだった。私ももちろん顔は知ってる。


 私はその時までそんなことは全然知らなくて驚いたけど、イネリも自由になれた証拠ね。私はそっと見守るだけ。


 その須須原さんによれば、警察は特に何か怪しんでいる様子もなくて、それは形式的なもののようだったとか。他の住人もそう言っていたらしい。


 当たり前よ。


 あの人は間違いなく自死したんだもの。


 愛人と隠し子のこと、バレなくてよかったわ。余計なこと探られたら面倒くなってしまう。


 あの人は自分だけが死ぬことで、愛人と隠し子には自分の生命保険金と平穏な生活を捧げる事を選択したのよ。


 私に大事なものを踏み荒らされる前に。


 それって、自分の命よりも大事なものだったようで。


 今更だけど、その死にはイネリと私への謝罪も含まれていた事を祈るわ。



 私はその選択された死に報いて、約束はきっちり遂行した。


 噂も落ち着き、警察の目も全く無くなったと確信した頃、私は弁護士に相談し手続きを開始した。


 お父さんの生命保険金が下りてから更に半年後のことだった。


 遺品整理で存在を知った父の隠し子に、受け取った父の保険金を贈りたいと申し出たのよ。


 あなたはずいぶんと功徳の人だと弁護士には驚かれたけど、私が父の夢のお告げを見たとか真剣に語ってみたら、感心したように神妙にうなずいてた。


 腹の中ではバカな女だって嗤っていた顔が透けて見えてたけど。


 この弁護士もこんな楽な仕事でずいぶん儲かってんじゃない。

 私がお支払するこの手数料。

 さらに贈与税もずいぶんとかかってしまうようだけど、仕方がない。


 依頼人に感情を読まれてるようじゃどう見ても敏腕弁護士とは言えないけれど、この程度の依頼、さっさと粗相なく片付けなさいよね。


 父親の霊を信じる滑稽な娘を演じつつ、腹の中で毒づいていた私。


 こんな恥をかきながらもきっちり約束を遂行してる私って、ほんと親孝行だと思うわ。



 事務的に手続きは進められた。


 その子は父に認知されていなかった模様。



 名前しか知らない存在。



 宇良川るい


 宇良川ルルス



 彼女の母親のるいは、今後自分たちに何ら接触も干渉もしないのなら受けとると言っているらしい。


 但し、偶発的、若しくは向こうから何らかの接触があった場合にはこの限りではないとした。


 私はあなたたちに興味など全くないから。これ以降関わる事なんてない。



 これで私の責務は果たしたわよ、お父さん。彼岸から見えているかしら?


 あの世ってのがあればの話だけどね。



 全てが片付いた。私たちはもう自由! イネリ、私たちにはめられていた手枷足枷は完全に消えたのよ!


 父の他界から約1年経っていた。



 私たちは事故物件となった部屋の回復代として、大家から大金をぼったくられつつも、新天地となる駅近の高層マンションへと引っ越しした。

 


 引っ越して1年の後、私は教員免許を取得して無事大学を卒業し、上位高を目指す 主に上級国民の子どもを顧客としているプロ教師のみの個別学習塾へと就職した。



 父の死から6年が過ぎた。


 イネリも高校を卒業し、大学では教員免許を取得した。そして高倍率をくぐり抜け、念願の公立高校の古典の教師として採用された。


 教師となって夢を叶えたイネリ。


 なのにイネリは新任1年目の半年余りで休職してしまった。


 そういえばその夏の頃は、イネリは沈んだ顔をしている事が多かったような気がしたけれど、私が話しかければいつも笑顔を返してくれていたし、私の配属されたのはプロ家庭教師の部門で、あちこちと飛び回っていてとても忙しい時期だったし、余裕も無くて特に気にも留めていなかった。


 私は、4月から10月までのたった半年で休職になった理由を心配して尋ねたけれど、イネリは、


『私の熱意が空回りしてしまったの。やんちゃな生徒が多い高校だったから上手く行かなくて、つい禁じ手を使ってしまって。それを一人の女子生徒に変に誤解されて追い込まれてしまったの‥‥‥』


 具体的ではないから何が起きたのか全然わからない回答だったけれど、きっと私に言いたくない出来事だからなのね。


 どうしてこうなる前に私に相談しなかったのか聞いたら、


『私はいつまでも自分の事でよっちゃんに頼る訳にもいかないでしょ? 自分の力で解決したかったの。だって、私‥‥‥カラルさんから、あの‥‥プロポーズされているの。お互いの仕事が軌道に乗ったら結婚しようって』


 頬を染めて、おずおずと私に話すイネリ。


 まあ! やっとそこまで来てたのね。じれったく見ていたのよ、


 私は驚きと同時に喜びに包まれた。


 大切なイネリが幸せを掴むのなら私の願いも叶うってこと。私から離れて行ってしまうのはすごく寂しいけれど、ずっと私たちが深い絆で結ばれた姉妹なのは変わる事はないの。



 そんな矢先、須須原カラルが東京本社からバンコクの提携企業に1年間の予定で出向することになった。


 ただでさえ休職に追い込まれ精神的にダメージを受けているイネリには相当なショックなニュースだった。


 イネリはカラルさんについて行きたかったようだけど、イネリはやっとの事で手に入れた公立の教師の職は失いたくはなかった。

 まだ、夢のスタートラインに立ったきり、何も成してはいない状態だったから。


 仕事は挫折中、恋人は海外へ。


 このままではイネリの心が更に弱ってしまう‥‥‥


 私はその時決心したのよ!


 イネリをバンコクに語学留学させるって。


 そしてカラルくんとすごせばいい。たった1年だもの。


 資金だってある。


 私は、両親が残して行った預貯金の資産とお母さんの生命保険金の一部で資産運用を始めていた。


 庶民ゆえ、既存する横繋がりの先行するリーク的情報には欠いてはいたけれど、数学的知識を用いて期待値を求め、チャート上ラインにフィボナッチ数で求めたポイントとトレンドラインを組み合わせ、自己流で分析することでそれなりの利益は出していた。



 私は精神が弱っているイネリに提案した。



『私たち、入れ替わりましょう。私になって私のパスポートを取りなさい。そしてイネリは私になってタイに留学しなさい。物価も日本よりずっと安いし何も心配いらないわ。私はこっちでイネリになって待っている。私は家庭教師なんて辞めてもどうってことないしここでイネリとして生活するの。1年後にまた入れ替わればいいよ』



 私たちは海外に行った事がないから未だパスポートを持っていなかった。これは幸いだわね。


 私たちは、わりと似ているの。


 背丈も体型もほぼ同じ。メイクも髪型も同じにすれば見知らぬ人から見れば同一人物に見えなくもないんじゃないかしら?


 ただし、知り合いは誤魔化せないだろうけど。この辺についてはやり方次第でどうにでもなるわ。生体認証で検証されない限りは。



 


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