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ABSOLUTE CONTROL ~リアルの呪文をあげる  作者: メイズ
穏当な帰結と当惑の帰趨
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幸せにはさせない〈ヨネリ〉

 私は予定通り、夜遅く戻って来た父親に仕掛けた。


 本気度を見せるため、クローゼットに延長コードなんか かけたりして、これ見よがしの細工までした。


 ま、こんな細い紐じゃ苦しすぎて途中で挫折しちゃうでしょうけど。


 イネリを人質にナイフで脅し、父親を追及してからイネリを部屋から追い出した。



 ここまではただの茶番劇。

 二人きりになったそれからが本番だった。



『私、お父さんの仮面を剥ぐ用意が出来てるんだ』


『私の仮面・・・?』


『私さ、高校生になってやっとスマホを買って貰ったじゃない? それでまず一番にしたことは何かっていうと、ドキュメンタリー作りよ。私とイネリ視点でのこれまでの生活。お母さんの高圧的言動と体罰、あなたの家庭での存在は不在の証明。隠し撮りで上手く仕上がっているの。見たい?』


『・・・何だって?』


『もう、複数のサイトに投稿準備は出来てるよ?』


『バカな事は止めなさい! 取り返しがつかなくなるぞ』


『・・・それにね、私、小学校の3年生のころから秘密で日記を書いていたの。私の被虐ダイアリー。その頃、裁判ではそういうものがとても有効な証拠になるって知ったのよ』 



 私の置かれた環境は、私を年相応な子どものままではいさせなかった。


 私は苦しみから逃れたいがため、いつも道を探っていたし、改善への情報と知識を求めていた。


 私は児童相談所という子どもを助けてくれる施設の存在も知っていた。


 学校で長期の休み前には必ず悩み相談のフリーダイアルのカードやリーフレットを配るから。


 でも相談することなんてあり得なかった。


 だってテレビで流れてくる児童虐待のニュースによれば、頼ったところで何の頼りにもならないどころか、返って悪化させてるみたいだったから。


 大人なんてなんの頼りにもならないことはとっくに気づいていた。


 子どもの心からの主張より、親の権利が優先されることにも。


 最新の情報とわずかな知識を得られるのは朝、お母さんが時計がわりにつけているTVの情報ニュース番組と、読んでいても怒られない新聞から。


 電子辞書だけは買って貰えたから、知らない言葉は一つずつ調べながら必死で読んだ新聞。当時の私には難解な部分もあったけれどすぐに慣れた。


 そんな私は勉強熱心だと母は満足していた。


 私が、イネリと私を守るために、まだ未熟な頭脳を懸命に働かせていたなんて、知りもしなかったことでしょうね。


 お陰で私は今、頭脳は明晰になれた模様よ?



 結局私は、母の過剰な干渉と支配に我慢し、いい大学を出て就職したら家を出て、イネリを私の元に保護するのが最善だとありきたりな決断をしていた。


 でも、父の浮気と母の隠された神経衰弱を知り、臨機応変に方向転換した。


 そして母がクスリに頼るようになり自滅した後の父の行動は憎むべきものだった。



 父の再婚発言により、私たち歪んだ家族の総決算をすべき時を迎えた。


 それは、父と私の対決。


『私たちに償う気持ちがあるのなら、お母さんの呪われた保険金で向こう側で幸せになろうなんて思わないことね。あっちにもお母さんを死なせた責任はあるのよ? せめて私が大学を卒業するまで私たちに対して責任を持つことを約束するって出来ないのかな?』


『許してくれ。お前たちと同様に私だって長年耐えて来たんだ。母さんの面影の残るお前たちを見て暮らして行くのはつらいんだ。成長して、ますます似てきたお前たちを・・・』


『お母さんも私たちのことも、そこまで毛嫌いしていたんだ?』


『いっ、いや、死んでしまったことを思い出して悲しくて・・・』


『言い訳がましい男ね? もし、あんただけが秘密の家族と幸せになるっていうのなら私とイネリはあんたも、愛人も、その子どもも許さない。母さんだってその人たちを呪いながら死んで行ったのよ。考え直した方がいいわよ? たった後2年じゃない。待てないの? それくらい』


『落ち着いて考えてくれ。実は向こうも大変なんだ。母さんが死んだことでショックを受けているし、ルルスだってまだ小学生なのにいつも家でひとりぼっちで・・・』


『あんた、ふざけてんの? そんなの結局はオールあんたの不徳の致したところじゃない。罪深いあんただけはのうのうと幸せになんかさせないからそのつもりで。今の発言でもう、2年の執行猶予という酌量さえ撤回せざるをえないから』


 

 そうよ、もしその時父がしのげたとしてもそれは延命に過ぎなかった。


 最終的には私が就職し独立出来たあかつきには、どっちにしろこの男に(やいば)を突きつけるつもりでいたから。


 父の運命が大きく変わる可能性なんてこの時点では既に皆無だった。



『私のこの動画が公開されたらどうなると思う? 母さんのただの事故は疑惑を持たれ、あんたも愛人も疑惑の対象になるわよね? さらに私が死ねば、もうあんたも愛人も子どもも世間への生け贄よ? かわいいイネリだけは同情されて助かる確率は高いから、私は一向に構わないのだけれど?』


『や・・・止めてくれっ! るいとルルスには罪は無いんだっ、そっとしておいてくれ・・・頼む。お前たちを苦しめて来たことは謝る。母さんの保険金は放棄する。それで許してくれ』


『そんなことで許されていたら道徳も徳義も崩壊するね。私を止めたいのなら自分で自分にしかできない最善の方法を取ればいい。』


『・・・どうしたらいいんだ?』


『そんなこと私に聞くなんて愚問だね。教師のくせに。はぁ~・・・明日の朝までに自分で決着をつけることね。私としてはあなたの存在自体は必要はないってことは伝えておこうかな。』


『・・・どういう意味だ?』


『どうしても再婚したいのならどうぞ、ご自由に。私は単にあんたが幸せになることを断固拒否するだけよ。このくだらない私の命を懸けてこれは本気よ!』


『・・・そこまで私を憎んでいるのか・・・ヨネリ』


『そうゆうことね。この状況から抜け出す道筋を何通りもシミュレーションしてみたらどうかしら? 愛人親子を守りたいのなら私のお勧めはあのクローゼットよ。あんたの卑怯な命と引き換えの保険金は、あっちの家族へ熨斗(のし)をつけてきっちり渡すことを確約する。じゃ、さよなら。私、行くわ』



 私に向けられた怒りと恐れと惑いの落ち着かない視線。


 青ざめた父の顔。震える手。



 でもね、残念。この私には憐憫(れんびん)の情など1滴もないよ。



 構わず部屋を出た。


 そして、最期のひとこと。


 この私がずっと心の中で思っていること。私の本心を是非聞いてくださいな。


 あなたたちの かつては愛の結晶であったはずの私は空虚な失敗作に仕上がった。


 私の心は無機質。愛なんて知らない。



『私、この世に生まれてきた事を心底残念に思っているの。だから私はいつ死んだって構わない。積極的に死ぬ気はないけれど、積極的に生きていたいとも思っていないから。どっちにしろ、あんたが生きていたところで不幸しか残らないのよ』



 私は言いたいことは全て伝えたつもり。


 生きているうちに言っておかなくちゃ意味が無いし。


 お互いにね。







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