My wounded pride 〈ルルス〉
私は新入部員の後輩の一人に、見張りを頼んでいた。
その男子は私にとても憧れているらしい。
なので、私の言いつけは忠犬のごとく遂行してくれる。
私に認められたくて。
こんな風に思われるってくすぐったいわ。
悪い気はしない。
ま、きっとそれは相手によるものだわよね。
私にはその子に対して特に興味はないけれど、いい子にしていればそれなりに可愛がってあげる。
その子の名は望月ハオリ。
私の周りの子たちはみんな私に褒められたがっている。
出会った時には私に対抗心をぶつけてきた榛原さんに根津さん、黒鳥さんだってみんなそう。
今では彼女たちは、私の実力を肌で認識出来るレベルに来たから私をリスペクトしている。
自分たちが努力しても決して追い付くことの出来ない場所にいる私のことを。
今まで親や教師から注意されたり怒られることばかりで、褒められた記憶さえおぼろげなあの子たちは自己肯定があまり出来てはいない。
だから格上の私に認められ褒められることはあの子たちの心のビタミン剤よ。
以前は外見的なスタイルで自己主張していた彼女たちだけど今は中身から変わって来てる。
私のボランティアの成果よ。
でもね、与えた分のいくらかは返してもらう。いくらボランティアだからって全くの無償の訳ないでしょ。
その分、少しくらいは私の役に立ちなさいな。
今日の出番は望月ハオリ。あなたよ。
今回お願いする私的な任務は、なるべく人に知られたくなかった。特に同級生女子には。
だから、事前に今日のフィランソロピー部は休みにしておいた。
これを上手く片付けたらハオリにはご褒美をあげる約束。
何を欲しがるかしら?
次の部長の座? それとも私の特製1学年時のテスト要点まとめノート? これがあればハオリなら高得点は確実ね。
私は明かりもつけていない暗い部室にひとりきり、ハオリからの連絡が来るのを待つ。
今にも雨が降りだしそうな空を窓から見上げつつ、いくぶんかの緊張をまといながら。
私の手の中のスマホ画面がフっと明るくなった。
『ルルス先輩! 今、ターゲットT&K2名、SS室入りました』
・・・来た。 ありがとう、ハオリ。
一人きりの部室から、私は即座に進路資料室へ入った模様の金谷ライダに通話をかけた。
私の想定通り、津田沼くんはおまけの金谷くんも連れて来てた。
私は津田沼くんに会う気なんてさらさらない。
昔の傷口を意味無く、わざわざなぞる必要なんてないの。
津田沼くん、きっと金谷くんに唆されたのね。
今さら、パンドラの箱を開けようとしてる津田沼くん。
触れることなくそっとしておけば良かったものを。
ちゃるらりぽことうるさい呼び出し音が止まった。
あら、早速出てくれたようね。
『もしもしー、宇良川さん?』
「そうだよ。今、津田沼くんと資料室にいるの?」
『・・・ああ、そうだけど』
その声。突然の私からの電話にずいぶんと戸惑っているみたいね。
「だと思った。津田沼くん、一人じゃ来れないって。ふふふっ」
『・・・宇良川さん、早く来いよ』
私がおめおめとそんな所に行くわけないでしょう?
津田沼くんは直接私のことを責めようとしてるんだもの。
私だって、女の子なのよ。かつて好きだった人に直接何か言われたら心乱れてしまう可能性がある。
そんなのは不本意よ。君子危うきに近寄らず。
「話があるならこのまま聞くわ。津田沼くんに代わってくれない?」
『わかった』
すぐに津田沼くんの声に変わった。
『もしもし、俺、津田沼だけど』
・・・津田沼くんってこんな声だったっけ?
お話するのは中2のあの日以来。まさか向こうから接触してくるなんてね?
私をブロックしておきながら。
本当に勝手だと思わない? 津田沼くん。
「・・・一体何かな? 私とはもうお話したく無かったんじゃないのかな?」
『ちょっと聞きたいことがあって』
「うん、聞いたよ。中3の頃のあの噂話のこと聞きたいんだってね」
私は津田沼くんに真実を教えてあげた。
だって私は今まで嘘をついて誰かを騙したことなんてないから。
神に誓って。
私はあの時、津田沼くんたちの悪口は言ってない。
私の放った魔法のスペルがああいったあなたたちの中傷へと変わっていったのは、全部自分たちのせいなのよ。
あなた方の存在が、態度が、言動が、回りに与えていたの。
劣等感と屈辱を。
それがなければ私の魔法のスペルの効力なんて所詮ゼロなのよ。
あれはあなたたちが人を傷つけた分と、利息のプラスαの結果よ。
それを私のせいにするなんて、見当違いもいいところ。
「・・・それは私のせいじゃないよ? 伝言ゲームは正確に伝わらないからゲームになるの。途中で誰かが間違えたからって、それは私のせいじゃないよ?」
どんな言葉にも気持ちは宿っているの。
無責任な噂話ほど心の奥に隠した気持ちが影響するし、醜い願望が上乗せされるものでしょう?
『ああなること、狙ってた?』
もちろんよ。私が深く傷つき、私を傷つけた人たちも同じように傷ついた。それでイーブン。おあいこよ。
「津田沼くんがどう思おうと勝手よ? 私は嘘は言っていない。いつだって」
『嘘は言っていないって? それがもう嘘だろ?』
「津田沼くんがどう捉えようと構わないわ」
ああ、津田沼くんみたいな人とはエターナルにわかりあえないね。
どうしてあの時好きになっちゃったんだろう?
あんたみたいな人。
最後に言わせてもらうね。
きっとこれは最初で最後の機会。
もう、私たち交わることなんて一生無いから。
「・・・たぶん、あれは天罰だったんじゃないのかな? 私に長い髪は似合わないの。でもね、私、あの時頑張って毎日トリートメントして伸ばしたの。それが向岸ヤシロさんの模倣だなんて知らずに」
『・・・えっ?』
「私、わかっちゃったんだよね。だから」
・・・脳裏によみがえる。あの時の痛さ。
『・・・・・』
「うふふふ・・・・・わかるよね? 天罰だよ?」
そう、あの時あなたたちが受けた痛みは単なるギブアンドテイク。与えた分受け取っただけ。
『あれは・・・・・』
「もういいよ? 津田沼くん、もう天誅は済んでいるから。だからね、後はもう私に構わないで」
『・・・・・』
「返事は?」
『・・・・・わかった。あの・・・』
「何?」
『・・・ゴメン、宇良川さん」』
「・・・・・」
私はその言葉を聞いて通話を切った。
ーーー今さら謝って来るなんて。
ずっとヒドい人のままでいてくれた方が良かった。
津田沼くんはいつだってズルい・・・
いつの間にか雨風は強まって、窓には大粒の雨が打ち付けてる。
スマホ片手に窓を背にして立つ私の目からは、なぜだか涙が流れ出す。
部室の戸に、ノックが響いてハオリが戻って来た。
私、連絡を入れたらもう帰っていいって言っておいたよね?
「・・・ルルス先輩?」
近づいて来ないで。
私は窓の方に向きを変えた。
本当はこんなにも弱い私を、誰にも見せたくはないから。




