キサラは癒し系〈ライダ〉
4月。
俺は2年生に進級した。今度はB組。
そしてクラス委員長となり、生徒会にも立候補し、会計となった。
新しいクラスは快適だ。だって宇良川ルルスがいないんだから。
6月に入って最初の金曜日の昼休み。
キサラが俺を呼びに隣のB組まで来た。
「なあ、ライダ。ちょい、いい?」
「いいけど、どうした?」
昼休みに俺に用なんて珍しい。
「あのさ、永井先生って去年いたじゃん? ライダ知ってるだろ? 副担だったしさ」
俺はギクッとした。まさか俺と永井先生のこと?
いや、宇良川さん以外にはバレてないはずだ。その宇良川さんは、なぜだか誰にも言ってはいないようだし。
たぶん俺とまたやり合う時のかくし球にしてんだろうけど。
でもな、時間も経てばそんなのうやむやだし、永井先生も もういない。何の役にも立たないぜ。そんな過去のことなんて。
「ああ、知ってるけど。何で?」
「えっとな、俺の中学ん時の友だちがさ、今落花生高校にいるんだけど、担任が永井先生なんだって。でな、その先生が何か変な先生だとかでさ、去年はどんな先生だったのか教えて欲しいって言われてさ」
「ふーん・・・何がどう変なんだろうな? 確かに頼りなさげな先生だったけど。また何かやらかしたのか?」
「さあな。詳しい事は知らんけど・・・確か秋頃から休職してたよな?」
俺は都合の悪い所は、もちろんカットして表面的な事だけを話すことにした。
キサラには去年のD組のことは一切話した事無かった。
だって、俺、キサラとは楽しいことだけ共有したい。俺の大切なキサラにこんな毒盛ったような話をしようなんて全く思わなかった。でもキサラから聞いて来たんなら話さなきゃな。話せる所は。
宇良川ルルスの数々の悪行と、その被害でD組がひどいことになってたこと。その宇良川さんに嘘を吹き込まれ、真に受けた永井先生が自爆したんだ。
ちょうど今年も同じクラスになった宇良川ルルスの被害者の臼井碧子さんがいたので、キサラに話を聞かせてあげようと思って呼んでやった。
あのD組の祟り神 宇良川ルルスによって、永井先生も含めひどい目に遭った人はたくさんいる。
キサラは臼井さんの語りで宇良川ルルスの祟りに興味を持ったみたいで、彼女の勧めで他の被害者 E組の木見戸リンにも話を聞きに行った。
臼井さんが、キサラが行った後 俺に言った。
「ねぇ、津田沼くんっていい人だよね。話したらちょっと癒された感じ・・・」
なんてさ。
そうさ、キサラはホント気持ちのいい奴。俺の親友。怪我させた俺を恨むこともせず、相変わらず友情を保ってくれてる。
キサラが木見戸と話して俺んとこに戻って来た時はもう、昼休みも終わりそうだった。ついでに放課後、被害者の蒼井のとこにも行ってみるよう勧めた。蒼井もいまだ病んでっからキサラエキスをちょい分けてやろうと思って。
放課後、キサラは蒼井んとこにも行って話を聞いた後、約束通り俺のクラスに来た。
俺は永井先生に責められた黒鳥さんや榛原さん、根津さんの情報を追加し、今の彼女たち3人は何故か宇良川さんの部下のように成り果ててるってことも話しておいた。
これで俺、少しはキサラの役に立てたかな?
俺、お前のためなら・・・何だって出来るぜ?
その二日後の日曜日の夜。
俺のスマホに木見戸リンからメッセージが来た。
『急にごめんね。お話したいことがあるの。今、ビデオ通話出来る?』
突然なんだろな? まさか、俺に告るとか?
止めてくれよ。無理だろ。あのトンでもメイク。並んで歩くだけだって嫌だ。ヤバい。なんて言って断ろう? こういうの、逆恨みされると厄介だよな。めっちゃ悪口流されるし。
俺は過去のムカつく事例を思い出し、身構えた。
『いいぜ。どうしたんだよ?』
ミートに切り替えた俺たち。
そこに写し出されたのは・・・・清楚な美少女だった!
「・・・どうかな? 私」
恥ずかしそうな笑みを浮かべながら長いサイドの髪を指先でささっと とかした。
・・・今、俺フリーだし。
「どうって・・・あのメイク止めたんだ。かわいいじゃん。こっちの方がずっといいぜ」
「本当に? 家族もそう言ってくれるけど、自信がなくて怖いの。ライダくんがそう言ってくれるならちょっとだけ安心した」
「ちょっとだけかよ? はん?」
やっとルルスの呪いが解けたんだ。でも、何で突然?
「うん。あの・・・突然なんだけど、津田沼くんと仲いいんでしょ? あの・・・津田沼くんって彼女いるのかな? 好きな人いるのかな?」
・・・そういうこと?
金曜日にキサラが木見戸に話を聞きに行ったんだっけ。それでだ! さすがキサラ。誰にも解けなかった木見戸の呪いをこんなに簡単に解いちまうなんて! なんて奴だよ!
「さあな、俺の知ってる限りじゃ いないみたいだけどな」
「ホントに? じゃあ、私にも見込みあると思う?」
ディスプレイ越しにも頬が赤らむのがハッキリ見える。
キサラに恋する乙女か・・・
木見戸さんって1年の1学期はまだ素顔だったから人気あったんだよな。でも、あのメイク始めちゃったから・・・
キサラになら俺が負けてもしょうがない。
だが、いいか? 木見戸リン。キサラへの想いが中途半端な気持ちだったら俺は許さない。だって、俺だって本当は・・・
「本気なのか? いい加減な気持ちじゃねーだろうな? キサラはかっけーし、ちょっとチャラく見えるけど女の子には真面目なんだ。ただの気まぐれだったら止めてくれよ」
俺の顔、これ、怖いっ。
ディスプレイに映る自分を見てビビった。
「そっ、そんなんじゃないよっ! 私、すっごい悩んで、すっごい勇気出してこうしてライダくんに連絡したの! 津田沼くんは私を救ってくれた王子様なの。私・・・本気なのよ・・・ふぇっ・・・ふぇーんっ」
木見戸が泣き出した。
「・・・ごっ、ごめんなさい。私・・・ふぇっ・・・泣いたりして・・・ぐずっ・・・」
ティッシュで涙を押さえつつ、木見戸は画面から退場した。
ヤベェ・・・泣かせちまった。
仕方ねぇな。
木見戸にスペシャルインフォメーションしてやっか。
『今度の金曜日、キサラのバースデー!』
木見戸にメッセージを送った。
木見戸はキサラに呪いが解けたお礼をしたいから、その日のお弁当を作らせて欲しいと俺に頼んで来た。
俺の分も合わせて作るから二人で食べて欲しいって。
俺は了解した。
きっとその弁当で木見戸さんのキサラへの本気度がわかるだろう。
それで俺が味方するか判断する。
後はキサラの気持ち次第だな。




