鬼高フィランソロピーの会 始動!〈ルルス〉
私は、友だち思いで、行動的で、衝動的で、でも賢いとは言えない榛原さんと根津さんにベランダに呼び出され、黒鳥さんを陥れたかのような言いがかりをつけられたけれど、軽くいなしておいた。
ちょっと現実を教えてあげたらすぐに大人しくなりました。
怯えなくても大丈夫よ? 私、あなたたちの面倒は見てあげる用意はあるから。
私はクラスを、学ぶ環境を良くするボランティアをするためにここに来たんだもの。考えが足りない子を導いてあげるのは当然なの。
休みがちだった黒鳥さんも、容疑が晴れて学校に戻って来ました。
私のことを遠くから3人揃って困惑顔で見ているわ。
黒鳥さんと金谷くんの仲も微妙になっているようね?
それはそうよね? お互いひどすぎだと思うわよ?
黒鳥さんが受難の時に金谷くんは知らんぷり。
永井先生が黒鳥さんを責めるなんて想定外だったでしょう?
さぞや胸中困惑していたことでしょう。
黒鳥さんも外でチャラ男と暇潰し していたみたいだし、お互い様ね。
榛原さんと根津さんのお家の人が遂に呼び出される事になった。
帰りのSHRが終わった後、担任の先生にその旨、通告された二人。
もしかして、退学を勧告されるんじゃないかとびくびくのお二人様は、最後の砦となるべく私に、焦って相談してきた。
両脇でガシッと腕を掴まれ、ベランダに拉致されて連れて来られてた私。
「・・・ねぇ、宇良川さん。私たちどうなんの? 辞めさせられると思う?」
「私たち、何でこんなことになっちゃうのさ! あんたのせいなんだから何とかしなさいよ!」
あらあら、半泣きの榛原さんに逆ギレの根津さん。
教室内から心配顔で、こちらを窺っていた黒鳥さんまでじゃじゃーんと登場よ。
「ねぇ、宇良川さん! この子たちはあたしのこと思ってくれただけなんだよ? かわいそうじゃん。あんただってこうなっちゃったことに関係あるじゃん! 責任あるじゃん。助けてあげてよっ。お願いっ!」
もちろんいいわよ? 私はみんなをいい方向に導くボランティアのためにここにいるのだから。ダメな子を切り捨てるためではないよ。
「・・・仕方ないな・・・わかったよ。今回の事は榛原さんと根津さんが変に誤解してしまったための不幸な行き違いだっただけだし。私が先生に説明してあげるわ」
早速職員室に榛原さんと根津さんと私の3人で行くことにした。この二人には、反省の言葉以外口にしないように、口答えなど一切言わないように、私の言うことには黙って頷くように言い含めた。
私たちが突然押しかけたにも関わらず、担任の不知火先生と教頭先生が職員室の隣の応接室で話を聞いてくれた。
「ーーーーーというわけなので、どうか榛原さんと根津さんを責めないで下さい! 彼女たちは今回の事を反省してこれからはちゃんと勉強すると言っていますし、私がこれから榛原さんと根津さんの勉強も助けてあげようと思っています。二人もこれからは授業は真剣に受けると反省しています」
「ほお・・・で、それはどれくらいの決意なのかね?」
私の必死の弁護にも関わらず、教頭先生は疑いの目を榛原さんと根津さんに向けた。
何と答えればいいのか窮して目をきょときょとさせながら私に合図を送って来る二人。
ここは勝負どころよ!
「次回の・・・中間考査では無理ですが、期末考査の古典のテストでは60点以上を約束してくれると思います。ここの平均は30点台ですからこの目標は素晴らしいと思います。ねっ? そうだよね?」
こくこく頷く二人。
「古典だけですか?」
「もっ、もちろん他の教科もがんばると思います。ねっ、そうだよね、榛原さん、根津さんっ!」
「はっ、はい! 他のも平均点以上取れるようにがんばりまーす」
「私もでーす!教頭せんせー、不知火せんせー!」
「私が責任を持って二人をフォローしますのでどうか、信用してください!」
ーーーかくして
さあ! "鬼高フィランソロピーの会" は早速活動開始なの。
私は滑り出しから、とてもやりがいのあるボランティアのお仕事を引き受けることとなった!
自分の塾の時間を遅くずらす事になったけれど、かまわないわ。
放課後の榛原さんと根津さんは私の管理下で毎日勉強会よ。
ついでに黒鳥さんも加わった。
とりあえず、期末考査に間に合わせるためにポイントは絞り、短期集中でがんばりましょう。
驚いたことに彼女たちは中学の問題さえ解けない有り様で、知識も無いし、今まで何して来たのかしら?
あきれたわ。これくらい授業を聞き流す程度でも普通、理解出来るよね? 中学の数学なんて所詮2次関数止まりだし。これって基本よ。復習を終えたら、後は様々な出題パターンを経験値として解かなくてはだめよ。
国語系なんて、読書さえしていれば特別な勉強さえしなくてもテストだって小論文だって楽勝じゃない? とにかく古今東西のよい文章にたくさん触れることね。
何かの待ち時間とか、通学の電車の中とか、隙間時間を無駄にしちゃダメよ。
そうね、英語は日本語にはあり得ない発音に加え、曖昧さに寛容ではない言語だし、語順こそが命だし、とにかく馴れよ。日本語とはかけ離れてるもの。毎日コツコツよ。
他の教科は丸暗記しとけばオッケー。数回思い返す訓練が有効なの。記憶が定着しているか時折確認しなくちゃダメよ。
私はありえないほど簡単なことを質問してくるこの3人に、カルチャーショックさえ覚えたけれど、私の役割はしっかりと遂行よ。
鬼高フィランソロピーの会の活動は順調に始動出来たし、金谷くんと永井先生による風紀の乱れも是正できたし、一時期空回りしていた私の歯車は順調に進み出した。
永井先生は休職してしまったけれど、これでよかったと思うわ。
だってあの人絶対教師に向いていないもの。
早目に気づかせてあげた私ってとても親切だと思うの。
ね? 永井先生。
お伝え出来なくて残念ですが、たくさん私の役に立ってくれたことに感謝します。
ふと、よぎる永井先生の面影。
先生の私を見る目は、どこか・・・?
先生の姿が見えなくなった今、どこか遠慮がちでやさしいあの微笑みが 私の脳裏に、浮かぶの・・・・・




