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ABSOLUTE CONTROL ~リアルの呪文をあげる  作者: メイズ
鬼胡桃高校 1ーD
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甦る記憶その4〈イネリ〉

 その日はとても冷え込んでいた。


 2月のあの運命の日の夜。


 それは、よっちゃんの二十歳のお誕生日を二人だけでささやかに祝った三日後にそれは決行された。



 11時過ぎにいつものようにお父さんが帰宅した。

 お父さんがお風呂に入っている間にそれはセットされた。


 お父さんの部屋。


 必要な道具はここに最初からある。



 それはこの部屋で使っていた延長コード。



 よっちゃんはクローゼットの扉を開けて、ハンガーに几帳面に吊るされたスーツを左右にかき分け隙間を作ると、延長コードをかけて輪っかを作った。


『さて、あの人の選択はどうなるのかしらね?』


よっちゃんは、どうと言うことでも無さそうに独り言を言った。



この、日常のボーダーラインを越えてしまった部屋の中で。





 三日前の夜、私はイチゴショートケーキ二つと、ふわふわの小さなぬいぐるみを用意してよっちゃんの二十歳の誕生日をお祝いしたのだけど、その後、よっちゃんが大切なお話がある、と言って私を居間のソファーに誘った。


『これから話すことは誰にも言ってはダメよ。もし、誰かに一言でも話したら私はイネリのお姉さんではなくなるの』


 隣同士に座った私の右手を両手で祈るように包み込んで自分の頬に当ててから放した。


 私は無言で頷いた。さわさわと不穏が近づいてくるのを感じ取りながら。



 その大きな黒目の視線は私の瞳をとらえてから話し始めた。


『いっちゃん。いい? 驚かないで聞いてね。あのね・・・お父さんには秘密があるの』


『秘密?』


『そうよ。お父さんにはね、他に家族がいるの。ずーっと前から』


『え? 他に家族って・・・?』


『お父さんはね、ずーっと私たちを裏切っていたのよ』



 どういうことなの? うまく飲み込めない。



『私たちがあの女からの虐待に耐えているその時に、あの男はもう一つの家庭で幸せな時間を過ごしていたのよ』



 急に私の中で、ドキドキと鼓動が始まった。



 お母さんが私たちを怒れば同調して私たちを責め、褒めればついでに褒めていたお父さん。


 お母さんの私たちに対する理不尽から守ってくれたことなど一度も無かったお父さん。


 その裏側で? 本当なの? そんなこといくらなんでも信じられないよ。



『秘密の奥さんと、子どもだっているのよ。お父さんはそっちの方で幸せだったの。だから私たちのことなんてどうでも良かったの。ずーっとね。それを知って私たちの母親は病んで自殺してしまったのよ』



 ・・・嘘よ。


 でも事実と噛み合ってる・・・?



『秘密の奥さんと子ども・・・』


『そうよ、昔イネリにも教えてあげた事があったでしょう? その人との間に女の子がいたのよ。今は確か・・・小学校3年生よ』


『う・・・そ』



 私はにわかには信じられなかった。


 そんなこと! でも、なんて具体的なの?


『信じられないみたいだね。でも事実なのよ? 私はずっと前から知っていたの。あの女が死んだ後、自由になってから自分でも調べたから、これは間違いないことなのよ』



よっちゃんが? いつの間に? 私、全然気づかなかった。



『私・・・信じられないよ・・・お父さんが・・・?』


『じゃあ、事実を暴いてみせようか?』


 思案するようにように可愛らしく小首を傾げて見せた。


 よっちゃんのサラサラの黒髪が揺れる。



『・・・どうやって? お父さんに直接聞くの?』


『そうよ。お互い命を賭けてってどう? 3人揃って今までの人生の事実をさらけだそうよ。私たち家族の総決算よ? 面白そうでしょう?』


『命って・・・』


『・・・私は許さない。私とイネリのこと見て見ぬふりして来たあの男のことを。自分だけは安らぐ場所を作っておいて、私たちはあの女の生け贄にされたのよ。自分から目をそらせておくためにね。とんでもなく無責任で卑怯な男だと思わない?』


 よっちゃんは私の表情を伺うように見た。


 口調は普通のお話しているみたいなよっちゃん。だけど、その瞳からは怒りが漏れだしていた。


 心の深部に鋭い氷で出来た(つるぎ)を隠し持っているよっちゃん。



 それは溶かせば跡形もなく消えてしまって、存在していた事さえ証明出来はしないの。







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