救いの女神 = サイコパス少女〈ふうら〉
『シロイさんには性格に難があったんだってさ。"嘘つき" っていうさ。ステルスなサイコパスっていうの? そんな感じの』
如月くんの友だちはこう語ったそうだーーー
一緒にクラスで過ごしている生徒はそんなこと皆、常識として知ってるに決まってんじゃん。だって、もうその時は9月だったんだからさ。4月からもう半年も経ってんだし。シロイさんの嘘の被害者数は既に二桁になってたと思うぜ。
たとえばどんなことがあったかというと・・・仲良し二人組のミドリさんとキミドリさんそれぞれに、片方がひどい悪口を言っていたとささやいて亀裂を入れたり、アオイくんがロッカー荒らししてるのを見た人がいるらしいと言いふらしたり。
最初の4月に始まり5月6月頃までは皆、シロイさんがそんなサイコパスだと気づいている人はほとんどいなかったと思う。
このヤンキー校って呼ばれているこの学校に来た成績優秀で真面目な、ここではトップエリートであるシロイさんをみんな信用していたんだ。
だけど、時間経ってきてさ、他のクラスから漏れ伝わってくる噂話からシロイさんに対して次第に疑念が起こってきてさ、みんな、ん?ってさ、気がついてきてさ、シロイさんの嘘は徐々にバレていったっていうか。
『私の席の前後にミドリさんとキミドリさんがいてさ、自分を越しておしゃべりする二人が超うざい、氏ね! あいつら』とシロイさんが言っていた、との他クラスの生徒からの話が流れてきた。
ミドリさんとキミドリさんは、『きっとシロイさんは私たちを仲違いさせようとして嘘を言ったんだ!』と思い当たったのさ。
だからといってミドリさんは、自分は口臭と体臭がヤバい人なのではないか、と気にしない日は無くなった。
いつも自分をクンクンしてる。
フィジカルディスタンスは誰とでも必ず1.5メートル取るようになったしな。
キミドリさんはというとさ、誰かと目が合う度に、私の顔は密かに嗤われているんじゃないかと気に病むようになっていて、日に日にメイクも濃くなっていって、そのメイクがヤバ過ぎになっていって、みんな見ちゃったら嗤うか引くかしかないので見ないふりし出して、そしたらキミドリさんは、私の顔は見らんないくらいひどいんだ! と更に病んで・・・という負のスパイラルをたどっていったんだ。
素顔のままで十二分にイケてたのに。
『私がノートをとっている時にさ、アオイくんが机にぶつかってきたから手がぶれてページがシワになっちゃったんだよ? なのにアオイくんは知らん顔して行っちゃってさ。あの男ムカつく!天誅与える』と言っていた、という証言も出てきた。
『ああ、それでシロイさんは仕返しでアオイくんの悪い噂を流したんだね』
クラスのみんなはアオイを慰めたんだけどさ。
アオイはもう疑心暗鬼になっちゃててさ。いまだにみんなが自分を変な目で見てるって思い込んでんだ。
みんなアオイはシロイさんの被害者だってわかってる。
あの噂はフェイクだってさ。
そうなんだけど、その前に噂を信じ込んでたイメージってどっか頭の隅にあるんだよね。
クラスで貴重品の紛失が起こる度に一旦アオイの名前が浮かんじゃってたんだよな。
たぶん、アオイはそれを感じ取って心に傷負ってさ、闇落ちしたままなんだ。
・・・・・ってまあ、こんな感じでさ。
俺らのクラス、苦い経験値もらっちゃたやつら結構いてさ、だからクラスの人たちは彼女とは話さなくなっていった。
"触らぬ神に祟りなし"
彼女の機嫌を損ねると何されるかわからないし。
次第に彼女は恐れられる存在になって、クラスの "祟り神" 扱いになった。
何せ彼女はこの学校では珍重な真面目で成績優秀な模範生徒なんだから。
全ての先生方からの信頼は厚い。
シロイさんが仮にこの偏差値31の高校からMARCH 大学に合格出来ればこの高校にとっては快挙だ。
それを喧伝すればその次年度の入学希望者だって増えるに違いないしな。
このヤンキー高校の名誉回復のチャンスは近い。
この募集定員割れしてる高校にとってシロイさんは正に "救いの女神様" だろ?
学校はなんとしてもシロイさんを護らなければならないんだ。
彼女はこの高校の至宝なんだ。
彼女に害をなす存在は容赦なく学校から消されるのは必至さ。
この学校に彼女より貴重な人はいないんだから。
新米先生なんかよりずっと学校のためになる存在だ。
下っぱ教師よりもシロイさんの方がずーっと偉いんだ。
そんな矢先のクロイさんの出来事だった。
クロイさんは友だちのグレイさんに相談したんだ。
『あたしがいくら言ったって永井先生は聞いてくれないよ! なんでシロイさんはこんな嘘言うんだろ? あたしもう、死にたい・・・・くっすん』
グレイさんが同情してさ、自分の情報網を駆使して聞き回った所、概要が見えてきた。
それによるとこんなくだらねぇ事でさ・・・・・
クラスのイケメン男子、ゴールドくんによれば、夏休み明け早々、シロイさんからコクられたそうだ。
でも、ゴールドくんは『ごめんね、俺、実は付き合ってる子がいるから無理。シロイさんがキライだとかそういう訳ではないから』と、大変気を使って断ったそうだ。
シロイさんの恨みを買って理不尽な仕返しをされたらたまらない。こいつには一切関わりたくないと思ったという。
でもゴールドくんは、『本当は誰とも付き合ってはいなかったんだけどね』ってグレイさんには言ったそうだ。
そこで、この際なので前からいいな、と思ってたクロイさんに思いきってコクったそうだ。
そして、めでたくカップルが成立した。
ゴールドくんは早速クロイさんと付き合ってることをカミングアウトしてクラス公認となったのだった。
その矢先の今回のいじめ騒動だったんだ。
一方シロイさんは・・・
『クロイさんて、いつもあたしリア充でーす!みたいな顔してさ、楽しそうでなんかイラつくよね、ああいう子。そーねー、たまには不幸もないとさ、幸せも実感出来なくなっちゃうかもね? そう思わない?』と、他のクラス友だちに意味深な言葉を残していた。
ーーーっていうことがグレイさんの尽力により判明したんだって。
シロイさんの他のクラスの友だちは、そのまた友だちにシロイさんの事を話すから、シロイさんの言ってることは次第にみんなに広まってる。
そのこと知らないのはシロイさんだけ wwwwwww
って状態だった。
だって、当時はその子しか友だちいなかったみたいで。
「・・・ってのが、元1年D組だったライダに聞いた話」
如月くんはここまで言うとコーラをがぶ飲みした。