表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ABSOLUTE CONTROL ~リアルの呪文をあげる  作者: メイズ
鬼胡桃高校 1ーD
68/221

甦る記憶〈永井イネリ〉

 私の目の前で、ルルスちゃんが悲しそうな顔をしている。


 可哀想なルルスちゃん。


 私、出来るだけのことをしてあげなければ。

 だって、この子は小さな時からひとり、苦労してきたに違いないんだもの。


 私たちの知らない所で。


 最初に彼女の顔を見かけた時、あれって思った。

 だって、その面差しは昔のよっちゃんを連想させたの。


 私の大切な姉、永井ヨネリ。私の大好きなよっちゃんに。


 それで気がついたのよ。ルルスちゃんのこと。



 ーーー私の忘れかけていた、あの書類に記された二人のサインの文字の記憶は徐々に呼び戻されたの。


 


 よっちゃんはいつだって私に優しいの。小さな頃から・・・



 私は昔から気が弱くて泣き虫だった。


 だから物心ついた頃から、とても厳しいお母さんのことが怖くて怖くてびくびくして毎日を過ごしていた。


 ほんの些細な失敗で叩かれ、お友だちよりホンの少し出来が悪いだけで罵られて生活して来た。

 それは姉のヨネリにも同じで、年上のよっちゃんには私よりももっと厳しく接していて、それに耐えているよっちゃんはすごいっていつも思っていた。


 お父さんはお母さんの言うことには何でも従っていて、全てに於いて追随するだけだった。お母さんが私に怒れば一緒になって私を責め、褒めれば、同調して褒める。そんな人。



 私はいくら怒られても、それでもお母さんのことは好きだったし、お父さんも好きだった。


 そう、私の心は両親の愛を求めていた。ずっと。


 ただ、そんな気持ちも月日を追うごとに薄れて行ったのだけれど・・・


 お母さんはただ厳しいだけじゃなくて、優しい時もあったし、寝る前には毎日、世界や日本の昔から伝わっている楽しい物語や不思議な物語の読み聞かせをしてくれていた。


 今思うとそれがあったから、何とか毎日をやり過ごせていたのかもしれない。


 よっちゃんと二人、並んでお布団でぬくぬくしながら、その時間だけは幸せだったのを今もたまに思い出す・・・



 お母さんが褒めてくれればお父さんも褒めてくれるから、私は少しでも褒められるようにと、ピアノのレッスンも勉強もお習字教室もがんばった。


 幼稚園から家に帰れば、今度はお母さんの望む通りに行動しなければ怒鳴られる。


 私はそうしたくはなくても言う通りに従う。


 もし口答えすれば倍になって返って来る。私が泣いても叫んでも私の思い通りになることはない。私が口先だけでも謝らなければそれは終わらない。


 私は小学校に入るまで、どのおうちも同じ感じで、お父さんとお母さんというものはこういうものなんだと思っていた。



 けど、それは違っていた。


 小学校のお友だちの話では、友だちのお母さんは毎日怒鳴ることはないと知った。


 テーブルの上のコップの水をうっかり倒してしまっても怒鳴られる事はないし、80点のテストを見せてもお母さんからバカ呼ばわりされ小言を言われることはないらしいと知った。


 遊んでて公園から帰るのが遅くなったりすると怒られるらしいけど、私とよっちゃんみたいに、ほほを叩かれたり、蹴られたり、怒鳴られたりすることはないらしかった。



 私はある時、よっちゃんと一緒にお風呂に浸かりながらその事をそっと話してみた。


 声をひそめながら。



 よっちゃんは私の耳元で、囁くように答えてくれた。


『私たちはね、親ガチャにハズれたんだよ。私もいっちゃんも選んでこの家に生まれてきた訳じゃないでしょう?』


『うん、覚えてないけど、気がついたらここにいたのかな・・・わかんないよ』


『・・・これは秘密だよ? 私はどうやらお父さんやお母さんよりも頭がいいかも知れないんだ。だから、もうしばらく我慢して。必ず私がいっちゃんも自分も助けるから。ねっ?』



 よっちゃんは私の肩を両腕でそっと抱きしめた。


 ちゃぽんと湯船のお湯が音を立てた。



『・・・・・ほんとに?』


 私は嬉しくなってよっちゃんの濡れた肩に顔を埋めて泣いてしまった。


 お風呂場の外に聞こえないように、今頃は二人で居間でくつろいでいるであろうお母さんとお父さんに聞かれないよう声を押し殺して。



 私がほほを乗せたよっちゃんの素肌の肩はひんやりして気持ちいい。



『泣かないで、いっちゃん。お姉ちゃんの言う通りにしていれば大丈夫だよ? いい? 今のこと、絶対に誰にも言ったらダメだよ? まだまだ何年もかかるだろうけど、私を信じてね。私、家族でいっちゃんのことだけが大好きだよ。いっちゃんのことだけ信じてる』




 よっちゃんと私は生活のすべてを母親に支配されていた。



 まるで私たちは操り人形。


 私たちを使って私たちの人生を私たちに成り代わって生きている母親。


 あなたの人生で得られなかったものを私たちの人生を奪って得ようとしているあなた。



 私たちはあなたの持ち物ではないの


 私たちの人生は私たちのものなの


 私たちには意思があるの


 お願いします


 私たちに私たちの人生を返して下さい



 トリカエシガツカナクナルマエニ



 私はあの時の、湯船に浸かりながらよっちゃんとした指切りげんまんをずっと守っている。



 それは永遠に続く。



 約束通り私を両親から解放してくれた、私の大切な姉 ヨネリとの幼き頃の秘密の契り。










評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ