対立〈ルルス〉
私は金谷ライダを牽制しておいた。
ああ面白かった。あの焦りを必死で隠したつもりのあの顔と態度。
私、冷ややかな顔すんのも楽じゃなかったわよ? 金谷ライダくん。
さてと、職員室に行ってこの書類を出さなくっちゃ。最初の認可さえ取れればそれでもう成功よ。後は私がどうとでも。
私は渡り廊下をゆっくり歩く。
私の今の目撃は決定的な間接証拠、と 言えますね。
・・・永井先生、生徒とお付き合いするなんて公序良俗に反します。人倫に悖る行為です。
先生のくせに生徒を誘惑するなんて。
でも、その前に私のために役に立って下さいね。
職員室に入ると永井先生がデスクにいるのが見えた。
私はさっそく書類を提出し、先生は、かわいらしい親しみを感じさせる笑顔を私に向けながら受け取ってくれた。
「いつ頃認可されるのですか?」
「そうね、私も初めてでよくわからないけど、早く認可されるようにお願いしておくね」
・・・ついさっきの事が嘘みたいなその清楚な顔。
人って、本当に怖いね。
「ありがとうございます。私、ボランティアが生き甲斐なんです。人の役に立つって幸せだな生き方だと思います」
「・・・宇良川さんみたいな生徒ばっかりだったらいいのに。うふふ」
「やだぁ、先生ったら。私、褒められすぎで恥ずかしいです。では失礼します」
私は会釈し、きびすを返した時、
「あっ、待ってっ! ルルスちゃんっ」
え? "ルルスちゃん" って、先生?
「あっっ! ごめんなさい。私ったら・・・やだわ。宇良川さんが私の知っている人に似ていたものだからつい・・・もう行っていいわ。大丈夫よ、これは私に任せてね」
永井先生は机の上にある私が託したクリアファイルに挟んだ書類をポンっと叩いて誤魔化すような取り繕いの笑みを浮かべてから机に向き直った。
・・・そうだったんだ。
あの感じていた私に向けられていた笑みは、私が先生の知り合いに似ていたからなんだ?
・・・・・はっ、下らないことね。
私は職員室を後にしながら独り言。
「それに・・・私みたいな人がもう1人いたら、きっと私の邪魔になると思うのよね」
だって、イニシアチブを取るのは1人だけで足りるの。
誰にも邪魔はさせないし、鬼高では出来はしない。
私がこの荒れ地を改良するの。実りある土壌となるように。
その為に私はここに来たの。
つくつくぼうしの声が聞こえてる夏休みの終わり頃、永井先生から私のボランティアの会『鬼高フィランソロピーの会』は認可された、と 連絡が来た。
先生、ありがとう。
これで後は休み明けから賛同してくれる人を募ればいいだけ。
これで皆に人の役に立つ喜びを教えてあげられるね。
ここまでは順調ね。
ーーーそう思っていたのに。
夏休み明けには苦難が待ち構えていたのよ。
2学期が始まり数日たった頃、私も忘れかけてたのに。
『宇良川さんってさ、金谷くんのこと好きなんだって』
『宇良川さんがライダのストーカーしてるらしいぜ』
ピアノ少女ミキちゃんだ! 私が金谷くんのことあれこれミキちゃんに聞いたから。
今頃とはね・・・あれって入学直後のことだったよね。
でも、ストーカーって? それ、どこから出たのかな?
私はこれはとりあえず放って置くことにした。とても忌々しい噂だけれど。
聞かれたら否定する。後は知らない。
そんなことよりも私はいけない行為をしている永井先生に反省を求めなければならない。
私たちのお手本となるべき先生がこれでは私たちはどうすればいいのかしら?
先生になら、直接問い詰めてもいいかもしれない。
どうして、金谷くんとそんなことになったのかを。
私がひとり席に着いて思案している横から、聞き捨てならない噂が耳に飛び込んで来た。
『ライダくんがさー、黒鳥さんにコクってさー、付き合うことになったんだってよ!』
どういうことなの?
金谷くんは永井先生と付き合っていたのに。
私に気づかれて別れたの? それとも・・・・・
私は幾つかの可能性を考える。
その中で濃厚なのは・・・
そうね、私は金谷くんに、永井先生のこと知ってるってハッキリ伝えた訳じゃない。
先生とのことを誤魔化す為に表面上は黒鳥さんを彼女にしたとか?
それとも私にばれた事を見越して先生とは既に手を切ったの?
・・・黒鳥さんはダミーという可能性は捨てきれないね。
黒鳥さんは派手なメイク美人のギャルで、わりと優しくて親切だし友だちも多い、けれど・・・IQはめっちゃ低そうな子。
だから金谷くんにいいように騙されて利用されてるんじゃないかな?
何かありそうな気がするわ。
金谷くん、本当に先生とは切れてるの?
これは確かめてみなきゃダメ。
私は事実確認開始。
とりあえず、金谷くんと黒鳥さんが付き合い始めたことは事実だ、ということだけはすぐに確認出来た。
先生とはどうなっているのかは不明。
私が初めて気づいた時のような特別な雰囲気は感じられないけど、判断は保留。
でもね、私このままにはしておけないわ。
年上の先生をも短期間で落としたあの男も男。
次から次のふしだらな金谷くんの悪の手から、おバカな黒鳥さんを救ってあげなくっちゃ。
これも学校の風紀と秩序を守るためのボランティアの一環。
さあ、またまたミキちゃんの出番だよ。
今は私のあの噂もあるし、私が直接忠告するのもはばかれるのよね。まるで焼きもち焼いてるみたいだもん。
そんな風に思われたら腹立たしいよ。
『黒鳥さんて、今リア充みたいだね。毎日楽しそうだよね。でもさ、そういう時って気を付けた方がいいと思うのよね。いいことの後には悪い事が起きるっていうしさ。幸せな時ほどいろいろ注意した方がいいと思うんだ。ねぇ、そう思わない?』
私はそう言ったのに・・・・
『黒鳥さんて、いつもあたしリア充でーす!みたいな顔してさ、楽しそうでなんかイラつくよね、ああいう子。そーねー、たまには不幸もないとさ、幸せも実感出来なくなっちゃうかもね? そう思わない?』
そんな風に変わっていた。
やめて! これではまるで私が黒鳥さんを妬んでいるかの如し。何とかこれ以上拡散阻止出来ないものかしら?
これは誰の悪意が作用しているの? 誰の所で変えられたの?
おまけにこんな追加の噂話が。
お手洗いの個室に入っていた時聞こえたの。
『宇良川ルルスっていいのは頭だけ、他んとこは残念だよなって金谷くんが言ってたらしいけど、私は宇良川さんわりとイケてると思うけどね。クール系女子とかで』
『悪いね、そんな言い方。金谷くんたら。あの祟りの噂がホントだったら宇良川さんに呪われちゃうかもよ?』
『それな! それに宇良川さんの言うことって、全てが嘘臭いから気を付けろってさ。金谷くんによると、蒼井くんとか木見戸さんを闇落ちしさせたの宇良川さんに間違いないらしいよ?』
『うちもそれ聞いたことあるよ。それ他からも聞いた?』
『んー? 2、3人から聞いた』
この噂は事実と誰かさんの主観と思い込みの産物。
だから絶対に嘘、とは言えないね。
感じるわ。見えざる敵と悪意。金谷くんの主観。
は~ん? どういうつもり?
思考が浅すぎて自分の劣勢が見えていないらしいね。
とても可哀想です。
どうやら "後悔後に立たず" って言葉も知らないみたい。
その人。




