永井先生と俺〈金谷ライダ〉
俺は超絶ビックリして、自分の心臓が "ヒッ" と叫んだ声が聞こえたかのような瞬間だった。
戸を開けたら真ん前にあの、宇良川ルルスがいきなり立っていたんだから!
普段は一見冷たく見えるその切れ長の瞳に、いかにも楽しげな嘲笑の笑みを浮かべながら。
「おはよう。金谷くん」
彼女は立てた人差し指を口許に当てながら言った。
なっ?!
俺の心臓はいきなりバクバクだ! なんでこんな所によりにもよってコイツがいるんだよ?
見てた?
俺がここで永井先生と会っていたのを?
俺は思わず自分の服装の乱れがないか目視チェックした。
何でここがわかった? いや、まだ決まった訳じゃない。
ここはとりあえず誤魔化す!
まだ見られたって決まった訳じゃない。
「なっ、何してんだよ? ここは男子更衣室だぜ?」
「・・・・・そうよね、女子が来る所じゃないよね。普通」
宇良川ルルスは今度は氷のように冷たく言い放った。
どういう意味を込めて言ってるんだ? ソレ。
「私ね、より良い高校生活を送りたいの。秩序を保ち決まりを守ってみんなが公平で、真面目な人や弱い子が被害者にならない環境を作るのが目標なのよ」
宇良川ルルスは俺の目をじっと見て言った。
「邪魔する人は容赦しないから」
俺を牽制してる。
どういう理由で起こしてんのかは謎だったんだけど、コイツによってクラスのやつらが次々闇落ちさせられてる。
あまりにひどいからさすがの俺も以前、宇良川さんに注意した事がある。
それが理由? 宇良川さんの言ってる事はいい感じに響くけどさ、でもさ、クラスじゃどっちかっていうと秩序乱してんの宇良川さんでそれによる被害者多数なんだけど・・・
・・・・・とにかく、先生と俺のことは肯定するわけにはいかない。絶対に!
「・・・あーっと・・・何か誤解してるんじゃないかな? 宇良川さん」
「・・・・・」
凍えるような軽蔑の視線を俺に向けると、彼女はそのまま立ち去った。
・・・バレバレじゃん、俺。
俺、超ヤバいかもしれない。永井先生も。
そうさ、俺は永井先生と付き合っている。
俺はクラス委員長と古典教科担当で、永井先生と話す機会がしょっちゅうだった。
古典の授業はクラスのみんな、数人以外ほぼ聞いてなかった。
それというのも永井先生は真面目な年上のお姉さんって感じで他の先生方とは違っていた。
強面で生徒をビビらせるとか、生徒に迎合し、くっだらねぇギャグで生徒の気を引きながらとか、授業の進め方は先生それぞれだ。
永井先生はこれまでよっぽど真面目に品行方正に生きて来たんだろうな。
たわいもねぇ冗談も通じねーし、面白いこと言うわけでもねーし、どこかいつもおどおどしてるし。
最初の自己紹介ん時も男子どものどうってことねぇくっだらねぇ冷やかしをマジに受け取って固まっちまって見てらんなかった。
大人のくせに。
先生がよく口にするのは先生の姉ちゃんの "よっちゃん" の話。
よっちゃんの言うことはいつも正しくて、間違いなどなくって、先生は小さい頃からずっと助けられて来たとか。
学校の事ではよっちゃんには頼れないから心細いだの言って。
そんなこと言ってる先生は俺から見ても、精神的にすごく子供っぽい感じがした。
ーーー授業が上手く行かない。進め方の研究だってしてるし、研修だって何回もしてるのに・・・何がいけないの? どうすればいいの?
それで先生は悩んでいて、生徒の気持ちを知りたいとか言われて相談に乗っているうちに何となく俺とそうなって。
あの先生は頼りなくってすがるものを探している感じだった。頼られたら俺だって何とか力になってやろうと思った。
俺は先生が好きだとかそういう訳ではないんだけど、こういう学校でのシチュエーションってドキドキして楽しいじゃん。
ただそれだけなんだけど。
俺、ちゃんとクラスに気になってる子いるし。
あーあ・・・・・
ここまで完全バレちまったらもう先生とはお仕舞いだよな。
このスリルと快感を手放すのはすっげー残念なんだけど。
・・・ま、いっか。あんな姉ちゃん。
宇良川ルルスの事は俺、警戒はしてたんだけどさ。
あいつ、俺のこと何でか知んねぇけど、敵視してるようだったし。
それにしても・・・あの態度、気に入らねぇ。
・・・・俺だってやられっぱなしは気に食わねーよ。
くっそ! あの女・・・・・
俺は何とかやり返す事は出来ないもんかと悶々としながら学校を後にした。




