そして夏休みへ〈ルルス〉
7月に入ると、私のクラスでの立ち位置は浮いたものになっていた。
みんな私に気を使っている。そして密やかに避けているのを感じる。
このクラスの中心人物、金谷ライダくんが私のこと誤解して敵視しているから。
君は確かにクラスで信頼されているものね。
表面的な物の見方で判断して、私を悪者に仕立て上げる気なのね。
何もわかってはいないくせに。
私はクラスを良い方に導いてあげてるだけなのよ。
私がいなかったらこの教室の秩序はもっと乱れていたはず。
短絡的凡人の君には理解ないよね。
私の理念と、構築しようとしている理想的な学校環境の事なんて。
古典の授業中、永井先生が他の人を指す前に私は自ら手を上げ答えを言う。
これが私の古典の授業時間を無駄にしないための解決策。
だって、大抵の人はチンタラ立ち上がったと思えば『・・・わかりません』しか言わないから、それって時間の無駄だもの。
だったらさっさと私が答えて先に進んでもらわないと。
私は忙しいのよ。やるべきことが山積みだわ。
それに私、一つ永井先生に頼らざるを得ない事があるし、授業で先生に協力すれば私にも協力を得やすいと思うのよね。
実は、先生には私が立ち上げようとしているボランティアの会の顧問をお願いしているの。
運営は私がすべて仕切るから名前だけでいいのだけど、最初の立ち上げの認可だけは先生を通して申請しなければならない。
それとあのこと、言い逃れ出来ないような証拠を手に入れておく必要がある。今後のために。
私は永井先生の視線の向きと金谷くんを注意深く観察。
二人は授業中何回目線が合うのかしら・・・ね?
あら?
金谷くんが私の方を見た。
うふふ。私にはバレバレなのよ。
私が勘づいてること、気づいた?
まだ大丈夫よ? だからって私は決して口にはしないから。
だって、みんなが知ってしまったら私の手札が減ってしまうもの。
価値ある情報の使い所はまだ先の話。いつ使えるのかは状況によって私が判断する。
それまでは、どうぞ。秘密の恋に浸っていればいい。
私を気にしながら。
私はクラスに影響力を持つ金谷くんと水面下で静かなるバトル。
君と私は互角じゃない。私のこの圧倒的優位。
君はまさか、私のボランティアを止められるでも思っているのかしら?
クラスの心配は私に任せて自分の心配してた方が良くない?
私、本来は金谷くんのプライベートのことなんて興味などないのよ?
でもね、金谷くんが私に口出ししようとするなら、私と君は敵同士ですね。
わかっていますか? 金谷くんと先生のしている事は褒められたこととは言えないし、本来は罰に値するものなのよ?
学年では追随を許さない圧倒的トップの成績を修めて1学期を終えることとなった私。
担任の不知火先生は他の先生方には鼻高々で上機嫌。
今学期最終のHRでは私のことを福の神のごとく称賛し、我が校の誇りと褒め称えた。
うふふ、クラスのみんなはこれで私の立ち位置をよーく理解出来たみたいね。
持ちクラスの生徒が優秀であれば、先生間で相当の名誉となるの。他の先生方にずいぶんと羨まらしがられてるとか。
校内一の優秀な教え子を担任しているという栄誉を保ち続けるために、私のことは大事にしてくださいね。
それは暗黙のギブアンドテイク。
私と金谷くんは密かなる膠着状態のまま夏休みに入った。
金谷くんはやはりバスケ部に入ったとか。
私はバスケ部には関わりたくないからその辺の所はノータッチ。
体育館での練習のバスケ部とは、私 すれ違う事も無さそうね。
一時休戦。
私は夏休みに入ってからも何日か登校してる。新しい同好会を始める準備があるから。
『鬼高フィランソロピーの会』
philo:愛する、と anthropos:人間、という言葉が語源になっているフィランソロピー。慈善的社会貢献の会よ。
人の役に立つことが私の生きる道なの。
顧問は副担の永井先生にお願いしてる。
先生の誰かに責任者として名前を貸して貰わなければ申請できない。
期末テストの結果も出て、素点確認も終わり落ち着いた頃に相談した。
永井先生は私にはとても親切だった。
先生は私に賛同してくれて、協力してくれてると二つ返事で約束してくれた。
なぜだか私を見る目が他の生徒に向ける目とは違うような・・・?
私に向けてくるその優しげな暖かい眼差しと微笑み。
何か気を使ってる・・みたいな?
まさか、身の上に同情? だったら御無用ですが、気のせいですか?
たぶん、永井先生は私みたいな真面目な優等生が好きなだけなんだろうけど。
ま、先生方はほぼみんなそうだから。体育教師以外は。
"鬼高フィランソロピーの会" については、今年中には軌道に乗せるつもりよ。
まだ私一人きりだけれど、同志は夏休み明けから募っていく。
この善意に賛同してくれる人は必ずいるはずだもの。
夏休み中も、ずっと忙しい。塾の夏期講習も受ける予定だし。
成績維持も楽じゃないよ。全国模試の判定だってそこまで当てになるもんじゃないもの。本番までは油断大敵よ。
普通の優等生レベルの私のライバルは、全国の普通の優等生たち。それ相応の努力が必要だわ。
7月も後わずか。
今日も朝から暑いわね。
蝉時雨。
ギラギラの日差しとアスファルトに出来た濃い影。
今ごろの日差しは目にも痛いわ。
私がいつもよりも1時間以上ゆっくり登校する頃には、既に運動部の互いにかけ合う合図の声がグラウンドの方から響いてた。
校舎からは吹奏楽部の一斉のロングトーン、合唱部の男女混声のスケール。
体育館からは剣道部の竹刀が激しくぶつかり合う音と気合いの声が脇の道路にまで響いて来ていた。
いいよね。こういうのって。みんな頑張ってる音。
私だって!
私は足を早めて昨夜家で悩みながら書いた『鬼高フィランソロピーの会』立ち上げの企画書の書類を持って職員室に向かった。




