臼井碧子さんと木見戸リンさん〈ルルス〉
私は入学早々、目には見えないトラブルに遭わされた。
それはたまたまそういう日もあるかもしれないと思ってその日は我慢した。
その次の日は特に問題はなくて、昨日のニンニク臭いのは、たまたまだったんだと思った。
だけど、そのまた次の日になると今度は・・・これはネギ?らしき臭い。ねぇ? 歯磨きちゃんとしてる?
そしてその次は汗臭い。何でも朝遅れそうになって全力疾走で走って来たとか。
ーーーこんな感じで無自覚なまま、臭いで人に迷惑をかけていた私の前の席の臼井碧子さん。
きっと毎朝ギリまで寝ていて時間が無くてエチケットに気を使う余裕がないのね。
本当に何かと臭かった。近くにいる人たちは皆 気付いてるくせに、彼女に気を使って何も言わない。
仲の良い木見戸リンさんさえ。
そう、臼井さんは臭い以外ではいい人なの。
気さくで飾った所はないし、明るくておしゃべりも上手いし楽しい人だよね。
でもね、臼井さんから席ひとつ離れていればそれほどの被害はなかっただろうけど私は真後ろなのよ。
臼井さんの前の席だった鵜飼くんは言った。
『先生、俺目が悪いので席、一番前にして下さい』
入学してちょっとたった頃だったね。そう言って一番前の席だった蒼井くんと席を変えて貰ったよね。
嘘ばっかり。
鵜飼くん、いつもコンタクト使ってるのに見えないなんてあり?
席をかわりたかった理由は私にはわかってるわよ。
そう言うことよ。
だから私の後ろの席だった木見戸リンさんは、わざと私の席を挟んで距離をおいて臼井碧子さんとおしゃべりしていたのよ。
私はいい迷惑よ。
前の席で臼井さんにこっち向かれて喋られたら余計臭いじゃない。
木見戸さん、親友だったら臼井さんにエチケット教えてあげれば良かったのに。
取り巻き男子に陰で愚痴ってないで。
私にも言ったよね?
『碧子さ、朝からペペロンチーノだったんだって。今日は近寄るとマジ臭ヤバイよね。宇良川さん後ろの席でかわいそう。前の席の子はもっとだけど』
陰で言われているのは、臼井さん、かわいそうじゃない?
だから私がその事も合わせて臼井碧子さんに教えてあげたのよ。
私ってとても親切で誠実じゃないかな?
ほら、それに私が何回も言ってあげたから臼井さん、エチケットに気を使うようになって最近じゃ臭わなくなったでしょ?
本人も周りも助かったじゃない?
私に多大な迷惑をかけた木見戸リンさんにも、それなりの報いが必要だね。
じゃないとイーブンじゃない。
私は何にしてもフェアなのよ。公平に正しく、決められたルールは守るの。
だから私、木見戸リンさんにちょっとした言葉遊びでお返し。ちょっとした魔法のスペル。
『木見戸さんて和風美人だよね。目が細くて』
彼女はやたらと瞳を強調したアイドル顔とはまた違う美しさの女の子。
私はそういう意味で言ってみただけなのよ?
そう、彼女は落ち着いた柔らかな儚げな雰囲気の美人だもの。私は好きよ。あなたの綺麗なそのお顔。
そしたら彼女、次の日から、どうみても目尻からはみ出し過ぎでしょっていう極太アイラインでその清楚な瞳を台無しにして登校してきた。
ねえ、それまさか油性ペンで描いてる?って感じの。
私の魔法のスペルは効果抜群ね。
それからすぐのことよ。
『リンは和風顔美人なのに、黒鳥さんみたいな盛りメイクと並ぶと地味に霞んじゃって残念だよね』
木見戸さんが気になる素振りを示していた白銀くんに向かって臼井さんがそう言ってたのを偶然聞いたの。
臼井碧子さんは男子に人気の木見戸リンさんのこと心の隅では妬んでるのはバレバレよ。
この仲のいい二人は、お互いに感じてたささやかな不服を嫌みに包んで、陰で誰かしらに洩らしていた。
私、早速木見戸さんに教えてあげなくちゃ。だって陰で親友にこんなこと言われてるなんてかわいそうじゃない?
『これ、ナイショだよ? 昨日碧子さんがさ、リンって何かちょっと残念な美人だよねって白銀くんに言ってたの聞いちゃった。昔っぽい地味顔だって』
そしたらすっごくショックな顔してたから慰めの言葉をかけてあげたよ。
『きっと木見戸さんがアイライン入れて余計綺麗になったからジェラシーだよね。気にしない方がいいよ』
他にもお知らせはあるんだよ。
臼井さんが木見戸さんへのこんな嫌みを私に話して来たもんだから。
『リンってさ、美人じゃん? でもさ、あの子ジャンクフード好きじゃん? だからさ、肌が荒れちゃってさ、最近肌ぶつぶつ出来てるよね。せっかくの美人が台無しでもったいないよ。そんなのばっか食べてたら毛穴も油たまっちゃってヤバない?』
私は速報告してあげたのよ。
『この間さ、臼井さんが私にね、木見戸さんて毛穴が目立つよね。あれで美人も台無しだよねって言ってきたから、私、そんなのファンデでかくせるから関係ないよっと言っといたよ。木見戸さん美人だから嫉妬されてるんだよ。臼井さんには気をつけた方がいいよ』
私が慰めをいう度に木見戸さんのメイクはどんどん盛られてもう元のきれいなお顔の原形さえとどめなくなって行った。
ま、本人がそれで満足ならいいんじゃない?
美的感覚は人それぞれだもの。
これは罰になったのかわからないね。でもいいの。
この二人の仲がだんだん微妙になってきてお喋りも減ったし、そうこうしてるうちに席替えになったし。
あらら、木見戸さんは臼井さんと決別したみたい。
あんなに気の合っていたお友だちとはすっかり気まずくなっちゃったね。
人に迷惑をかけたら、その分戻って来る。
それで公平なのよ。
迷惑をかけていといて知らんぷりは良くないよ。
体験してわかってくれてたらいいけれど。
これで私は臼井さんと木見戸さんとはイーブンになった。
プラマイ0ってことでこれでお仕舞い。
ーーーーーほらね、私本当の事しか言ってはいない。嘘なんてついてない。いつだって。




