地元民金谷ライダくん〈ルルス〉
入学式が終わり次の日は日曜日でお休みだった。
そしてその週明けの月曜日。
いよいよ高校生活のスタート!
自分で選択したこの鬼胡桃高校。
私は密かなる決意を胸に、結構気に入ってるこの制服、紺色ブレザーとかわいいタータンチェックのスカートを春の強風になびかせながら門を通り抜けた。
教室では男子数人がかたまって気安い感じでしゃべってる。同じ中学から来た子たちかもね。
ちらほら来ている他の子たちはとりあえずは自分の席に座って様子見してるみたい。
私も席に着いて、荷物整頓したり、最初に提出しなければならない個人表だの、健康観察表だの、緊急時連絡カードだの、たくさんの用紙を確認をしている内に始業のチャイムが鳴り、続けてお知らせのアナウンスが響いた。
私たちはその校内放送の指示により体育館に移動して、全校生徒で始業式。
その後、各クラスに戻り2限目には最初のHRが始まった。
さっそく生徒たちは、出席番号順に自己紹介よ。
私は配られたクラス名簿のプリントにマークをつけながら一人一人よーく観察。
はあ、さすが鬼胡桃高校ね。
自己主張を個性的に派手に表に出すのが好きな子が多い。
入学早々、髪色もカラフルね。もう入学デビューで染めてる子もチラホラ。女子もとんでもなくミニスカートになってる子が数人。
ねえ、あなた。
スカート、短すぎ。スパッツは はいてるだろうけど、そんなにふくよかな脚を規則を破ってまでわざわざご披露する意味ってなんなのかな? 校則は知っているよね?
決まり事は守れるように私がきちんと矯正してあげます。
ねえ、君。
その長い前髪、見ていてうざいわよ? 本人カッコいいつもりなのかしら? いちいち巻き舌のそのしゃべり方もうざいわね。聞いててイラつくわ。
近いうちに私が人前での礼儀を授けます。
私は面接官のように一人一人チェックしていく。
だって、私がここでボランティアをするためにはクラスメイトのことをよーく知っておかなければならないの。
成果を上げるためには情報は必須よ。
みんな、校則規約の説明は受けたわよね?
決められたルールを守れないのはおバカさんのする事なのよ。
そんなんじゃ世間では信頼されないよ?
特に先生から信頼されるって重要事項だっていうのに、この人たちは何にも分かっていないの。
だから私が体験型で陰ながら皆さんを調教して差し上げるね。
これはすべて善意のボランティア。
ボランティアこそ私のレーゾンデートル。
この1ーDのみんな、私と同じクラスになれてラッキーよ。
金谷ライダくん。
彼はこのクラスの中では一番マトモに見える男子。
雰囲気は一見爽やか系でイケてる感じ。
自己紹介では、自宅がこの高校の近所で登校に便利だからこの高校に来たとか言っていた。
全員の自己紹介が終わった後の役員決めで、金谷くんは自ら立候補し、クラス委員長となった。
一年間も担当する係決めだもの。みんな、楽そうなの狙ってる。
各委員会の係より教科担当係の方が圧倒的に人気がない。
そうよね、いちいち授業毎ごと先生に御用聞きなんて面倒だし。
私はコミ英と英1の教科担当係に立候補し、そのまま決まった。
私は次のコミ英と英1の授業の予定を先生に確認し、次回授業内容や持ち物をクラスに伝えるメッセンジャー。
英語の先生と仲良くなれればメリットは大きい。
英会話は実践が一番の上達への近道だもの。
残った教科担当係はなり手がいなくて、金谷くんはクラス委員長と古典教科担当との兼務。副委員長の赤岩さんが現文教科担当との兼務に決まった。
普段は教室にはあまり来ない副担は新任の永井先生。今日も姿は見えない。
永井先生はこのクラスと隣のE組の掛け持ち副担。
一番最初見たのは、二日前の土曜日に行われた体育館での入学式の時。1学年の先生方の紹介で舞台に横一列に並ぶ中の一人としてちらりと見た。
新任教師だとか。
生徒の私から見ても壇上で緊張しているのがわかった。
式の後、担任となる中堅の男性教師の担任 不知火先生の引率の下、生徒は二列で式場退場し そのまま一度教室に戻った。
その時に不知火先生は改めて自己紹介し、その後遅れて教室に現れて扉の横に静かに佇んでいた永井先生に自己紹介を促した。
永井先生は不知火先生とアイコンタクトをして小さくうなずいてから教卓の前まで進み出た、
永井先生が前に立つだけでひゅーひゅーという男子からの冷やかしが飛ぶ。
永井先生は身長も私たち女子の中でも小さい方。首の後ろで一つ結びにされたストレートの黒髪。
「あ、あのっ、皆さん! ご入学おめでとうございますっ。私はD組とE組の副担任と古典の担当になりました永井イネリです。よろしくお願いします。」
頬を染めて緊張をあらわに頑張って声を出してる永井先生はまるで真面目な女学生がそのまま先生になったって感じ。
私はこの副担、いいと思った。
真面目に頑張っている人は応援したいじゃない?
私は心の中で永井先生にエールを送った。
先生が黒板に自分の名前を書いていると数人の男子生徒が騒ぎ始めた。
「せんせーっ! 何歳ですかーっ?」
「せんせーっ! 彼氏いんのー?」
「せんせーっ! 最後にやったのいつー?」
「ねーっ、せんせーっ!・・・・・」
「・・・・・・・!」
「・・・・・・・!」
永井先生はしょっぱなからの男子生徒からの下品なヤジに戸惑い、不知火先生に助けを求めて視線を泳がせた。
最低。
不知火先生までニヤニヤして永井先生を見てる。
私、初っぱなから目立ちたくはないけど、こういうのは許せないと思った。
立ち上がって注意しようと机の上に置いた両手の平に力を込めた時の事よ。
「お前ら、静かにしろよ」
私の右の後ろの方から落ち着いた男子の声が飛んだ。
「ったく、なんだよ? 面白いとこだったのに」
「そうだぜ? ライダ」
それはこの後、クラス委員長となった金谷ライダくんの声だったわけだけど。
永井先生の顔は赤くなるどころか蒼白になっていた。
私はその時思った。
この男子が既にクラスの一部を掌握してるのは何故なのかなって。
彼の今日の自己紹介によれば、やはりこの辺りの地元民なのね。
その影響力。
これはリサーチが必要だわ。




