なぜだか賽ノ宮くん〈ふうら〉
前回の出来事をふうら視点で。
ヤシロは夕べ、ベッドの上にて、白茅にセクシーをさらした事は1ミリも覚えていないようだ。
脱いで足先にかかったワンピをポイっと蹴って白茅に渡したヤシロ。
しかも寝ぼけてて弟と間違えてた。
ヤシロは普段から家ではああなのだろうか?
仮にそうだとしたら一体、弟はヤシロを見てどう思っているのだろう?
ボクには兄弟がいないから想像出来ないな。
幼い時から一緒にいるからあまり気にしないのかな?
だが今回、そこにいたのは他人の成人男性の白茅。
この事をヤシロが知ったらかなりのショックだろう。
ボクが悪いのか? ボクが白茅を呼んだから。
だって、あんなことが起きるなんてボクにだって想定外。
でも、ヤシロ。大丈夫だ。
あれは水着だとしたら、普通じゃないか? うん。
部屋も薄暗くしていたし。
ボクの脳裏に白いひらひらレースがほわんと浮かぶ。
白茅はあれにて当然ながら、ヤシロを意識した模様。
朝食にて、ヤシロと顔を合わせた白茅は夕べの事を相当意識している。
チラチラヤシロを見てる。
だろうな。
いわゆる美少女が、あの女の子然とした体つきを無防備にもベッドの上さらしたんだから。
このボクだって、ヤシロの顔を見たらどうしたって思い出してしまう。
ヤシロも朝食をいただきながら、白茅の視線に気づいた様子だ。
視線の理由を知らないヤシロは、微妙な顔で白茅をチラチラ気にし出した。
おっ?
ヤシロが白茅に微笑んだ。
だが、ボクには解る。
これはヤシロの逆説的微笑み。
嫌いな相手に我慢して対応する時とか、トラブル回避のための繕いの笑みだ。
好意的な微笑みじゃない。
ふいに目が合ってヤシロに微笑まれた白茅はハッとした後、微笑み返し。
う~ん・・・
これ、白茅はマジ勘違いしてると思われる。
ヤシロはカッコいい大人の僕の事意識してる、って思ってるな?
はぁ・・・
如月くんはいつの間にか ずっ友宣言してヤシロから手を引いたらしくて、ボクはやれやれだったのに、今度は白茅が。
賽ノ宮くん。ボクはどうしたらいいんだ?
君の彼女は無自覚に次から次へと魅力を振り撒いて男子を引き寄せてる。
だって、君の彼女は顔も体も性格までいいっていうチートなんだぞ?
のばらのようなつんとした美人には皆、興味があっても声はかけづらい。だけど、ヤシロの場合はそうじゃない。
優しく明るいヤシロには大多数が親しみを持つ。
もう、ボクはここでどうすべき?
ヤシロはお屋敷がすごく気に入ったようだし、それもありなんじゃないかな?
・・・なんてボクは賽ノ宮くんに言えたらいいんだけどね。そうも行かない・・・・・
・・・・・とにかく、この目の前の朝ごはんをさっさと食べてしまおう。せっかく用意してくれたんだ。
ボクは一時全てを忘れ、食べることに集中した。はぐはぐはぐ・・・噛むのって疲れるな。
ごちそうさまでした。
後は・・・
ヤシロは昨日ソファーで寝てしまってボクの注意事項を聞いていなかったから、今の内に言っておかなくちゃ。
ボクは食後のホットミルクを飲みながらヤシロに声をかけた。
「いいか? これ以降、永井っちの秘密情報は全て忘れろ。明日も普段通りだ。ボクももうヤシロと一切この話はしない。もし、約束を破ったら絶交だ! いいな?」
厳しい言い方だけど、これはヤシロの危険回避のため。
ボクはヤシロに決して嫌われたくはないけれど、ヤシロを護るためにはそれは二の次だから。
「・・・わかったけど。普通のみんなが言ってる噂話に乗るくらいはいいよね?」
ヤシロがびっくりした顔してから心許なさそうにボクを見た。
ごめんね、ヤシロ。
言えないけど、永井っちは常識では計れない人物だったんだ。だからそれなりの対策は絶対なんだ。
「・・・それもなるべく控えた方が無難だな。どこかでボロが出て、ヤシロと如月くんとボクが入れ替わりを知っていることが永井っちに漏れたら大変だ。それに、学校で のばらに近づくな。のばらと仲良くなったのがバレたらヤシロも永井っちにマークされてしまう」
ボクは のばらとアイコンタクト。
「そうね、ヤシロは天然なところがあるしその方が無難ね。十分注意が必要よ。私は学校ではヤシロには話しかけない。夏休みに入るまでは特に」
のばらも助太刀してくれた。
さすが のばら。
のばらは学業の成績は古典以外残念な人だけど、実際はかなりスマートだ。カンもいい。
牧野家の人間だけあって権謀術数に長けている。
「もしも、永井先生に呼び出されたとか、何か言われたり聞かれたとか、何かいつもと違う事が起きたら、すぐに僕に言ってくれ。迂闊に動くなよ。僕の連絡先は・・・ヤシロちゃん、ケータイ出して」
ほらね。白茅が始めた。
どさくさに紛れて白茅がヤシロに接近した。
牧野家の人はしたたかだ。ただの篤志家の一族ってわけじゃない。
ボクはさりげなく牽制。
「ああ、そういう緊急時はこの限りじゃないからな。ボクに先に言わなゃダメだぞ!」
もしそんなシチュエーションになったら、近くにいるボクじゃなきゃどうにもなんないってのに、白茅ったら。
さあ、もうここには用はない。
さっさと引き揚げよう。
「ヤシロ、そろそろおいとましよう。白茅、のばら、いろいろありがとう」
ヤシロの人徳にあやかったボク。
ヤシロが森木林さんと仲良くなったおかげで、ボクにまでケーキのお土産がついてきた。
ヤシロは本気で嬉しそうだ。ボクに力説してきた。
『これは絶品で他では絶対食べられないんだよっ!』
こんな風に言われたら森木林さんもとても嬉しいだろうね。
ヤシロは周りを明るくする。
みんなヤシロを好きになる。
そんなヤシロにちょっぴりジェラシーも感じるけれど、そんなヤシロに好かれてるボクだってやっぱりヤシロが好きで。
玄関に向かいながらヤシロに聞いた。
「ヤシロ、駅までの道がわからないよね。ボクが駅まで送るよ」
ここは駅からさほど遠い訳じゃない。歩いても10分15分だ。ボクの家までは遠回りになるけど構わない。
「大丈夫。スマホ電池はまだ残ってるし、一人で帰れるよ」
ヤシロはボクに微笑んだ。
「ふうらちゃんの家はどこ?」
「ヤシロ、実はボクの家はここから歩いて10分もかかんないとこなんだ」
「あっ、そうだよね。そう言えば・・・のばらとふうらちゃんは小学校も同じとこだって言ってたもんね」
ボクたちの会話を聞いていた のばらが、
「まあね、だからってそんなに親しくしてる訳じゃないのよ。私とふうらって。ふうらの仲良しはおじい様と白茅だもの」
なんてチクリ。まあ、そうなんだけど。バイト柄でね。
「じゃ、月曜日ね。ふうら、ヤシロ」
のばらは見送りはせず、さらりと廊下を曲がって行った。
白茅の姿も見えない。けど、外から聞こえるこのエンジン音は白茅の車の音。
玄関の扉が開いて、白茅が顔を出した。
「乗って、ヤシロちゃん」
・・・やけに親切じゃないか? 頼んでもいないのに。
「白茅さん、あたし歩いて帰りますから、大丈夫です」
「もう、ここまで出してるし、ふうらも送って行くから遠慮しないで」
ボクの家は車に乗ってくほどの距離ではないんだけど、しょうがないな。
「ふふん? いいんじゃない? ヤシロ。白茅がそうしたいんだから」
ったく、わかりやすい奴。
でも、残念! ヤシロには賽ノ宮くんがいるんだからな。
ボクは心で悪態をつく。
「ふうら、僕はフェミニストだからね。女の子には優しくしないと。ふうらにだって優しいだろ?」
「ふーん? じゃ、そういうことにしておいてあげるよ」
ボクに対しての優しさは、子どもを気遣っているだけのくせに。普段はボクのこと、マジで小学生の弟みたいな扱いだ。
ボクも乗ることで気が変わったらしいヤシロと二人、後部座席に乗り込んだ。
ボクの家なんてすぐそこなんだ。あっという間についた。
車から降りる時、ボクは言ってやった。
「ヤシロ、送り狼に気を付けろよ」
「ふうら、僕は狼じゃない!」
ボクに不満げに反抗してきた。
「白茅、ヤシロを無事送り届けなかったらじいちゃんに言いつけるからな」
「だから、違うってば!」
ふふふっ、むきに言い返して大人げないね。白茅くん。
ボクは家に続く路地を歩きながら思う。
・・・なぜかボクはいつの間にか賽ノ宮くんの味方ばかりしてるよね?
ヤシロの相手には、如月くんだろうが白茅だろうが賽ノ宮くんだろうが、ボクが一向に構う事ではないのに。
賽ノ宮くんは、なにかと頼りなくて呆れてしまう男子なんだけど、気づけばボクは彼を助ける方向に向いてしまってるんだ。
前世で何かの因縁があったりして?
なーんてね。
次回から最終章入ります。
作者メンタル崩壊しつつありますので今まで同様な毎日更新は無理かもしれません。
ですがサレンダーする気は全くありませんので、気が向いたらまた来てくださいね。




