白茅さんにジェラス〈ヤシロ〉
あたしはワンピースに着替える前に、せめてものお詫びにお掃除することにした。
使ったブランケットをたたみ、置いてあった掃除機で床をキレイにして、バスルームもささっと軽くお掃除したし、洗面台もキレイに拭いた。
ふうらちゃんには座っててって言っといたのに、気を利かせてゴミと使ったタオルなどの洗濯物をまとめておいてくれた。
お部屋を片付け終わってからあたしは昨日のワンピースに着替えた。
時間を見ると、7時半を過ぎていた。
今日は梅雨の晴れ間みたい。暑くなるかも。ガラスの壁面の外はキラキラまぶしい緑。
「おはよう。起きているかしら?」
玄関の方からのばらの声がして、あたしはダッシュで玄関に向かった。
玄関扉を開けると、のばらは短パンTシャツという、まさにくつろいだ格好。
彼女のこんな姿を見られるのはレア体験ね。
「あのっ、おはよう! のばら。あたし、ごめんなさいっ! せっかく泊めてもらったのに寝ちゃうなんて・・・」
のばらは気にしてる様子も無く、
「聞いたわ。あのソファー、ここに入れてたのね。私、知らなくって」
「そうだったのっ! あの魔道具は危険よっ!」
「魔・・・? ああ、そうかもね。ふふふ。そんなことより朝食の用意が出来るわ。あら、ふうら。おはよう」
ふうらちゃんがいつの間にかあたしの後ろに来ていた。
「おはよ、のばら。お世話様。素敵な所に泊めてくれてありがとう。のんびりできてリゾート気分だったな。ね、ヤシロ」
「・・・うん、本当に。ありがとう、のばら」
あたしの失態をさりげくナイスフォローしてくれるふうらちゃん。
さらりとした優しさ。
あたし、だからふうらちゃんのこと大好きなの!
あたしたちは母屋に戻って白茅さんも交えて4人で朝食を頂いた。
牧野家ではいつもどんな朝食を取っているのか興味津々だったんだけど、それは意外と普通だった。
オムレツとサラダにトースト、コーヒー。
でも食材はオーガニック、とかかもね。
食器とか、盛り方はあたしん家とは違って、とても優雅だった。
食事中、なぜか白茅さんと何回も目が合う。
そう。ふうらちゃんを巡って、あたしたちはライバルなのよ。
この事については言葉無くして最初に会った時から感じていたの。
そうよ、あたしは、あたしよりずーっと前からふうらちゃんと仲良しの白茅さんに焼きもちを焼いているの。
あたし、負けないよ? あたしだってふうらちゃんが大好きなんだから。
あたしは再び目があった時、宣戦布告の微笑みを投げた。
そしたら、驚いたような表情をしてから微笑み返してきた。
・・・さすが大人。余裕綽々ね。
でも女子高生同士の友情だって負けないよ。
あたしはチラリとふうらちゃんを見た。
白茅さんとあたしのささやかな小競り合いなど知る由もなく、リスみたいにキュートにハグハグ食べている。
ああん! なんてラブリーなの? お家にお持ち帰り出来たらいいのにね。
朝食後にカフェオレを頂いているとふうらちゃんが昨日の事をあたしに念押ししてきた。
「いいか? これ以降、永井っちの秘密情報は全て忘れろ。明日も普段通りだ。ボクももうヤシロと一切この話はしない。もし、約束を破ったら絶交だ! いいな?」
びっくりだよ? 絶交だなんて言葉が出るなんて・・・
「・・・わかったけど。普通のみんなが言ってる噂話に乗るくらいはいいよね?」
「・・・それもなるべく控えた方が無難だな。どこかでボロが出て、ヤシロと如月くんとボクが入れ替わりを知っていることが永井っちに漏れたら大変だ。それに、学校で のばらに近づくな。のばらと仲良くなったのがバレたらヤシロも永井っちにマークされてしまう」
ふうらちゃんの真剣な顔があたしを見てる。
「そうね、ヤシロは天然なところがあるしその方が無難ね。十分注意が必要よ。私は学校ではヤシロには話しかけない。夏休みに入るまでは特に」
のばらはそんなことを言うのよ。
何だかとっても不安なんだけど。
「もしも、永井先生に呼び出されたとか、何か言われたり聞かれたとか、何かいつもと違う事が起きたら、すぐに僕に言ってくれ。迂闊に動くなよ。僕の連絡先は・・・ヤシロちゃん、ケータイ出して」
緊急時、白茅さんに直で連絡とれるようにしてくれた。
どうしてあたし、こんなに心配されるの?
「ああ、そういう緊急時はこの限りじゃないからな。ボクに先に言わなゃダメだぞ!」
ふうらちゃんが慌てて付け加えた。
もう、これってなんなのかしら?
こんなみんなに心配されるなんて、あたし、よっぽど頼りない人みたいじゃない?
あたし、自分で自分はしっかりした人だと思ってるわよ?
ふうらちゃんとあたしはお世話になったお礼を言って、もうおいとますることにした。
今日はメイドの森木林さんはいなかったんだけど、ちゃんとあの絶品ケーキのお土産がふうらちゃんとあたしに用意されていた。
もーう! 至れり尽くせりだよ!
こんなにお世話になってしまっていいのかしら?
玄関の前には既に昨日の白茅さんの車が停められていた。
あたしは歩いて駅まで行くつもりだったのに。
これ以上お世話になるのは申し訳ないわ。
ふうらちゃんの家は実はここから歩いて10分もかからない近さなんだって。
そうよね。ふうらちゃんとのばらは同じ小学校、中学校っていってたもん。
「白茅さん、あたし歩いて帰りますから、大丈夫です」
あたしのためだけに車を出してもらうなんて、申し訳ないの。
「もう、ここまで出してるし、ふうらも送って行くから遠慮しないで」
白茅さんは優しく言ってくれたけど・・・
「ふふん? いいんじゃない? ヤシロ。白茅がそうしたいんだから」
ふうらちゃんは白茅さんを斜めに見上げてニヤリ。
「ふうら、僕はフェミニストだからね。女の子には優しくしないと。ふうらにだって優しいだろ?」
白茅さんはちょっとむきになって言い返した。
「ふーん? じゃ、そういうことにしておいてあげるよ」
もーう! この二人!
ふうらちゃんとこんな風に気軽に言い合い出来るなんて、やっぱりすごく仲良しね。
うらやまし過ぎる。お付き合いの長き年月を感じるわ。
決めたわ! あたし白茅さんに送ってもらうの。
あたしがいる時は白茅さんとふうらちゃんを二人きりになんてさせてあげないんだから!
ふうらちゃんが自宅近くで車から降りる時言った。
「ヤシロ、送り狼に気を付けろよ」
「ふうら、僕は狼じゃない!」
「白茅、ヤシロを無事送り届けなかったらじいちゃんに言いつけるからな」
「だから、違うってば!」
こんな掛け合い、ふうらちゃんと白茅さんはやっぱり仲がいい。
あたしも白茅さんみたいにもっとふうらちゃんと仲良くなれるといいな。
振り返って見てたら、ふうらちゃんの姿が路地に消えて行った。
「さて、家はどこ? 玄関先まで送ってあげる」
はっ? 家って? やめてっ!
あんな豪邸住んでる人にあたしん家なんて見せらんないよっ。
あたしは丁重に何回もお断りし、赤豆駅で降ろしてもらった。
「またいつでもふうらと遊びにおいでよ」
あたしが車を降りる時、運転席から振り返り笑顔でそう言ってくれた白茅さん。
基本親切でいい人なのよね。
そうよね。ふうらちゃんと仲良しの人なんだもん。
でもね、白茅さんってあたしとふうらちゃんの仲を妬いていたような気がしてたんだけど。
あたしが昨日から感じていたあのお互いの対抗心は、あたしのひとり相撲だったのかしら?




