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不測の事態〈ふうら〉

 ボクが電話で呼んだら、幸い白茅(ちがや)はいて、すぐにそっちに行くと言ってくれた。


 ボクは部屋の間接照明のライトを弱めに点けた。


 あまり明るくしたら、こんなに熟睡してるヤシロに悪いから。


 ボクはヤシロの乱れたスカートの裾を直し、隅に用意されていた膝掛けを掛けて白茅(ちがや)が来るのを待った。



 ボクはすーすー寝息をたてて気持ちよさげに寝てるヤシロの寝顔を見つめる。



 ーーーヤシロは、ボクが護るからね



 ボクは永井っちが学校から消えるまでの推定、後1か月半の夏休みが始まるまでの間、緊張を強いられることになる。


 その間永井っちにイネリヨネリの入れ替わりの秘密をヤシロが知っていることを悟られなければ危険は回避されるだろう。それまでは・・・



 入口の扉が開く音がした。白茅(ちがや)だ。



 ヤシロがソファーで寝てしまって、このままではずり落ちそうだからベッドまで運んでってさっき電話でお願いしていた。


「あはは、そんなに熟睡しちゃってる? まあ、無理もない。あれは眠りを誘う究極の魔法のソファーなんだ」


「なんだよ? それ」


「あれはある職人に特注して作って貰った逸品さ。母さんがあのソファーのためにずいぶん散財したって言ってたぞ。母さんの部屋に置いていたんだけど、座るともう動けなくなっちゃうって言ってさ、こっちへ移したのさ」


「はーん? 2脚あったな。ボクも座ったら今頃ヤシロと二人で眠りこけてたかもな」


「はは、ふうらなら運ぶのも簡単だな」


 ちっ・・・・・


 ボクは白茅(ちがや)にしかめっ面をして見せたけど、白茅(ちがや)は笑っただけだった。



 明るい廊下から、暗めのオレンジ色の間接照明に照らされた部屋に入る。


 客用のベッドが二つ、少し距離を置いて並んでる。


 その奥の仕切りの障子の向こうのソファーでは、ヤシロは既に半分落っこちていて、脚を床に投げ出し座面に腕と顔を乗せてすぅーすぅーと眠っていた。


「もう、ほぼ落ちてたな。頼む、白茅(ちがや)


「ははっ、ヤシロちゃん、スレンダーだから助かったな」


 白茅(ちがや)はスッと簡単にヤシロを両手で抱き上げた。


「だからと言ってこれは、重労働だぞ」


 ヤシロを両腕で抱えて立ち上がった白茅(ちがや)



 仄かな橙色の灯りの部屋の中、その二人のシルエットがお姫様と王子様みたいだ。


 抱えられたヤシロから垂れ下がる長い髪と突き出たきれいな足先の形。

 頭身バランスが整った白茅(ちがや)の長い脚。



 ボクの心はモヤモヤだ。

 きっと、ボクはどちらにもなれないから。



「どっちのベッドに運べばいい?」


「じゃあここに寝かせて」


 ボクは近い方のベッドのきれいにメイキングされた掛け布団とブランケットをえいっ、とはがした。



「よく寝てるなぁ、ヤシロちゃん・・・」


 白茅(ちがや)がヤシロをそっとベッドに置いた。


「これじゃ、明日の朝になったらおしゃれなワンピースもしわしわかもな。まあ、でも仕方ない」


 ベッドに横たわるヤシロを見て白茅(ちがや)がボクに言った。


「そうだな。でもまあ、家に帰るだけだろうし、いいんじゃない? シワくらい」


 ボクがヤシロに掛け布団を掛けようとした時だった。


 ヤシロの手が突然目を閉じたまま動き出した。


「・・・だ・・め」


 ヤシロは寝たままウエスト横で結ばれていた白いリボンを すっとほどいた。


「ん?」


 ボクと白茅(ちがや)は顔を見合わせた。


 ヤシロは体が柔らかいらしい。


 腕を回して後ろのファスナーをスッと下ろすと肩と腕を抜き、そのままもぞもぞして足の方に下ろしてゆく。



「・・・・・え?」


 白茅(ちがや)がたじろいだ。



「・・・イブキ・・・これ・・・お願い・・・あたしの・・・買ったばっかりなんだ・・・・・お気になの・・・」



 寝たままで器用に脱ぎ捨てて、左足に引っ掛かっていたワンピを白茅(ちがや)にぽいっと蹴って渡した。


 すー、すー、すー・・・


 ヤシロは安心したようでまた眠りについた。


 ・・・完全自分()モードになってる。


 家では弟のイブキくんってヤシロの下部(しもべ)らしい。



「え、ええと・・・ふうら、その僕は・・・」



 この不測の事態。


 白茅(ちがや)は、ヤシロに足で放られナイスキャッチしたワンピを手にしながら、ボクと下着姿になったヤシロを交互に見てうろたえている。


 そういうボクもうろたえているのだけれど。


 だって、ヤシロはやはり脱いでもヤシロで、どこから見ても魅力的な女の子で・・・・・



「見るな! 白茅(ちがや)!!」



 ボクは ヤシロを起こさないように息だけで白茅(ちがや)に言うと、ヤシロにブランケットをふわりと投げ掛けた。


 白茅(ちがや)はヤシロのワンピを持ってクルリと後ろを向いた。


 もう、遅いけど。



 ちょっとボクたちは微妙な雰囲気だ。


 白茅(ちがや)はヤシロのワンピをハンガーに掛けて、ボクたちは一旦、廊下に出た。



「えーっと・・・ふうら、そろそろ夕食の時間だ。あっちに戻ろう。のばらも戻ってる。のばらは今夜のためにモンエ○の緑のを買いに出掛けていたらしい。エナジーチャージに必要だとかで」



 今の光景を誤魔化すかように白茅(ちがや)が前を向いたままボクに話しかける。



「のばら、来ないと思ったらそうだったのか。ヤシロは寝ているから夕食は・・・おむすびでも作ってもらうように頼んでおこう」



 どうもヤシロのセクシーな姿が頭にチラつく。


 きっと、白茅(ちがや)も。


 ボクは白茅(ちがや)をチラりと見る。


 白茅(ちがや)はボクと目が合うとサッと前を向いた。


 顔が赤い。



 とても気まずい白茅(ちがや)とボク。



 さっきのことは一部、ヤシロには黙っていた方が良さそうだな。

 ボクが白茅(ちがや)を呼んだこととか。



 ボクにはヤシロに言えない秘密がまた一つ増えた。









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