ヨネリの真実〈ふうら〉
前回、ヤシロがソファーに座った辺りからをふうら視点で。
ボクは改めてヤシロに注意喚起をしなければならない。
のばらの家の来客用の離れにヤシロと二人きり。
薄暗くなってきた庭のソーラーライトがぽつぽつ灯り出したのがガラスの壁面の向こうに見える。
大鏡じいちゃんの見立てではヨネリはサイコパス。
永井ヨネリが幼少時の体験により人格が歪められていた可能性は否定出来ない。
あの両親の不明瞭な死に方。
妹のイネリの教師としての失敗り。
ヨネリはそれを利用した?
高校教師という支配的立場に立つことは彼女にとって魅力だったのかもしれない。だって、それは逆転劇だ。
支配される側から支配する者へ。
自分がされた嫌なことを他でやり返す。
もっともらしいがどうにでもなる下らない事を命令して生徒を動かす事に愉悦を感じているんだ。
自分が苦しい少女時代を過ごしたように、同じ年頃の同じ女子に同じ苦しみを与えて楽しんでいる?
その痛みを知っているのに、平気で同じことが出来てしまう哀しい人。
ヨネリは教員免許を持っているにも関わらず違う仕事をしていたのは、免許は取ったものの教員採用試験で採用されなかったからかもしれないな。
あの濃いメイクと洋服は妹のイネリの顔見知りをごまかすため。
いくら似せようとしたって姉妹とはいえやはり別人。知り合いや顔見知りから見ればイネリでは無いってすぐにバレてしまうだろうし。
だけど、あれだけ濃いメイクを施したならば元の顔の繊細な特徴は消えてしまう。
あの、悪趣味な洋服も、顔から視線をそらすための小道具だったんだ。
もし永井っちの入れ替わりの事実をヤシロも知ってるってヨネリに知られてしまったら、と思うとボクは身の毛もよだつ。
担任はサイコパス。
ボクのせいでヤシロをこんな危険な立場に置いてしまうなんて!
ボクはなんとしてもヤシロを護らなくてはならない。
ヤシロは一人掛けのソファーに沈み込んで気持ち良さそうに目を閉じている。
たとえボクの数少ない友達の一人、ボクのお気に入りのヤシロから嫌われてしまう事になるとしてもボクは最善を尽くす!
ボクはやや、厳しい言葉をヤシロに投げた。
「永井っちのことなんだけど・・・入れ替わりの事実について、学校では一切口にしないこと。それに、ボクたちともこの事に関して今夜を以て今後話題にしないこと! 如月くんに聞かれても彼のサインが済むまでヤシロは決して何も言わないこと。約束して」
「うん・・・わかったよ・・・約束する・・・」
ヤシロはソファーにもたれて目を閉じたまま言った。
「いいか? 絶対だぞ? この約束を破ったらもう二度とヤシロにお弁当のウインナーはあげないからな!」
えっと・・・ヤシロに厳しかったかな? ボク。
「世の中には常識の通じないサイコパスが紛れている。それが判り易い格好や行動をあからさまにしている奴なら避けるのは簡単だ。だけど、頭のいい奴ほどそれは表には見せない。一見、普通の顔をしている。もしくは更に魅力的に見せかけてることだって・・・・ヤシロ、ねぇ聞いてる? ヤシロ?」
ダメだ・・・・・完全寝てしまった。
無防備なかわいい寝顔をボクにさらして。
どの角度から見てもキュートな顔立ちと天然の陽キャ。
どこに行っても人気者のヤシロ。
そんなヤシロになぜか好かれているボク。
ボクはこんなシチュエーション、初めてなんだ。
ボクはくすぐったくてもぞもぞ。でも嬉しくて。
出来ることならずっとヤシロと一緒にいたいと思う。
・・・・・はん? まるで恋みたいじゃないか。
ボクはいまだに誰にも恋した事はない。
それなのに。
ーーーボクは気づいたらこの牧野家ではなぜだか大変優遇されていて、それはなぜかという事に気づいたのはつい最近のことで・・・
ボクは、なんと白茅の婚約者候補に上がっている模様だ。
何でボクなんかが? 見かけ小学生のボクが23才の白茅と?
大鏡じいちゃんは何考えてんだか。
白茅は今は彼女がいないらしいけど、その内ふさわしい相手を連れて来るんじゃないかな。
そしたら、このボクに向けられた妙な雰囲気も無くなるだろう。
全く牧野家の連中はめんどくさい人ばかりだ。
・・・・・決して悪い人たちじゃないけどね。
この一族はある貴重な古文書を有している。
これはトップシークレット。
この事はのばらだって知らない。
知っているのは持ち主の大鏡じいちゃんとのばらの母親で大鏡じいちゃんの娘。その長男の白茅とボクの4人だけらしい。
なぜ、関係無いボクが知ってるかって?
それは万が一、この古文書に危機が迫った時の保険らしい。
一族に何か起きた時には外部の信用できる人が必要だとかで。
まさか高校生の血族でもないボクが牧野家のトップシークレットを預かることになっているなんて誰も思わないだろうって。
それに、ボクは、それに関わるあるミッションをじいちゃんに課されている。
大鏡じいちゃんが所有しているのは、落花生城城主、悲運の清瀬川里見が今際の際に記し遺した『陽の巫呪の巻』。
これは清瀬川里見がここいら一帯の昔の落花生藩の民の幸を願って残りの命を捧げて記された。いにしえの呪術が施されていると言われている幻の巻物だ。
だから、旧落花生藩の領内でこれを手にしている者には繁栄が約束されていと言われている。
古文書コレクターで研究家の大鏡じいちゃんは、中学生時代から古文書に興味を抱き、手当たり次第コレクトしていてその中に紛れていたとかで。
それは、誰にも訪れる不運を避けてくれる効果はないものの、それを上回る幸運を約束してくれるという知る人ぞ知る垂涎の宝物。
但し条件がある。
『得た幸運は民の為に使うべし。それ、すなわち我の民の為に有り』
じいちゃんはそれを肝に銘じているんだって。
だから、大鏡じいちゃんはこの一帯では尊敬を集めている慈善家なんだ。
ボクはその『陽の巫呪の巻』の対になっている『陰の呪詛の巻』の探索を手伝っている。
これは、幸運を呼ぶ事はないけど、不運を退けてくれる強力な魔除けの呪詛が掛けられてると『陽の巫呪の巻』に記されている。
だから実力のある者が持てば、何かに大きく妨げられる事態を回避でき、実力通りに成功できるらしい。
その『陰の呪詛の巻』の手がかりは落花生城跡地に建てられた我、落花生高校の中にあるらしいのだけど、ボクは行き詰まっていて。
ボクは学校司書の島田先生をマークしているんだけど、上手くかわされてる感じだ。
ああ、いけない。
もう、暗くなってるじゃないか。
のばらもすぐ来るとか白茅が言っていたけど来ないじゃないか。
全くあの気まぐれ のばら!
「ヤシロ、起きて。ねぇ、ヤシロ」
ダメだ。ソファーで爆睡してる。
このままだと、ソファーからずり落ちる。
ボクの力ではヤシロをベッドまで運べない。
仕方ない。白茅を呼ぼう。出掛けてなきゃいいけど。
ボクはスマホをポッケから出した。




