永井ミステリー発生〈ふうら〉
ヤシロに声をかけられ振り向いたボクに、
「ちっちぇ!」
ヤシロの連れてきた鬼高のチャラ男は一言放った。
・・・いきなり、なんて失礼な男子なんだ!
ボクには今初めて会ったってのに。
しかも、自己紹介もまだだってのに。
「まあ、座ってくれ。そこのデカいの」
ボクの意趣返しの一言にヤシロの目が泳いでる。
・・・・・・・ボクとしたことが。
ヤシロがせっかく用意してくれたこの場だ。
困らせたら可哀想だったね。
ボクは心を静めなくては。
ヤシロに勧められ、奥の席にヤシロとこのデカい男子が座った。ボクはヤシロの前に座った。
「えっと、ふうらちゃん、このデカい人は如月くんよ。津田沼如月くん。えっと、今日は永井っちのお話、よろしくね、如月くん。それで、このかわいい子は泉ふうらちゃんよ。あたしの大切なお友達なの」
ヤシロは僕たちを諭すように、なごやかな笑みを浮かべながら一部強調して僕たちの紹介をした。
今日はボクの方がお願いした手前、下手にいるべきだな。
「今日は来てくれてありがとう。泉です」
ボクは軽く会釈。
「あ、俺、津田沼如月。名字嫌だから名前で呼んで。そんで俺、今日、泉さんいるの知らなくてさ。ヤシロに聞いてなくて」
ヤシロをちろっと横目で見た。
「ごっ、ごめんなさい! あたし、言い方まずかったかな? なんかうっかりで・・・」
ヤシロがあたふたしてる。
こいつ、ヤシロと二人会えると思っていたんだ。
そんな気がしてた。だからこのデカいのはここに来て機嫌が良くないんだ?
それで、ボクに失礼な事を言ったのか?
こんなにも早く約束が決まるなんて上手く行き過ぎだと思ってた。
まあいい、さっさと話を聞き出そう。
「じゃあ、前置きはいいだろう。早速聞いてもいいかな? 如月くん」
「ああ、さっさ済まそうぜ。俺、このあとヤシロに話あるし」
しれっとした顔してボクに言った。
・・・業村くんとはまた違う小憎たらしさがあるな。
「じゃあ、確認から。ボクが知りたいのはこの先生のこと。年齢不詳、名前は永井イネリ」
ボクはスマホで永井っちの写真を見せながら如月くんに確認した。
「・・・へっ? これ、誰?」
ボクのスマホを奪い取り凝視した。
「誰って、それはあたしたちの担任の永井先生よ。如月くんの言っていた永井先生とは違うの?」
ヤシロは困惑してボクの顔を見た。
「・・・確かに名前は一緒だし・・・おかしいな? あっれー?」
「ねぇ、如月くんは永井先生の写真持ってないの?」
ヤシロが聞くと、
「持ってねーよ、俺かんけーねーし・・・待って、そうだ! ダチに至急送って貰うから。クラス集合写真でだったら一緒に写ってんのライダが持ってる。多分。」
「ごめんね、如月くん」
「いいって、ヤシロの頼みだし」
早速友だちに頼んでくれた模様だ。
この、如月くん・・・・・
ヤシロのこと・・・
ヤシロはわかって・・・・・るわけないか。
「俺の知ってる永井先生は、去年新任で来た若い女の先生だぜ。泉さんよりはすこーし大きいかもしんねーけど、やっぱ小ちゃくてさ。」
「やあね。如月くんに比べたらみんな小さいに決まってるでしょ。そういう言い方は良くないよ」
ヤシロがちょと怒った顔で注意した。
「別に俺はディスって言ってる訳じゃねーよ。かわいいって意味だぜ? なー、泉さん」
ボクを見てにーっと笑った。
調子のいいやつ。
「実際、永井先生童顔でさ、先生には見えなくてなめら・・・・・あっ、来たぜ! チョイ待って・・・・・ほら、これだ」
如月くんが見せたディスプレイの中には僕らの担任の永井っちとは全く違う、黒髪ストレートを後ろで結んだの女の子が写っていた。
3列に並んだ生徒たちの右横に立っている。
服装も普通の白いデザインブラウスに膝丈のネイビーのフレアスカートという出で立ちでとても清楚だ。永井っちとは好みも全く違うようだ。
制服と私服の違いが無ければ生徒か先生か区別がつかないだろう。
一番後ろの列に立っている右端の男子生徒の方がよっぽどおっさんぽくて先生みたいに見える。
ヤシロがスマホを受け取り、永井先生の部分を拡大して眉をひそめた。
「・・・・・これが如月くんの知ってる永井先生なんだ。ねえ? どういうことよ? 同姓同名の先生がいたなんて無いよね。だって鬼胡桃高校から落花生高校にちゃんと転任してるのよ?」
「俺だってわかんねーよ。同姓同名の先生なんて聞いてねーし。いたらみんな知ってるって。まさか・・・人が入れ替わってんの? 本物は監禁とか、まさか・・・・・殺されてたりして! やべぇじゃん! そういうホラゲよくあんじゃん」
「・・・ミステリーね・・・・・ふうらちゃん。あたし怖いよ」
ヤシロは思わぬ展開に胸を押さえている。
「秘密を知ったあたしたち、狙われちゃうかも・・・・・」
「俺、誰にも言わねーから心配すんな、ヤシロ。なっ?」
如月くんはさりげなくヤシロの肩に手を回した。
・・・これは、いけないな。
賽ノ宮くんが見たら・・・
「とにかく、その永井先生の写真の部分を切り取ってボクに送ってくれないか? 他では一切公表しないと誓うから」
「ああ、別にいいけどさ」
如月くんは右腕を戻した。
よし。
これは一石二鳥って言う?
ボクは永井っちと同姓同名の女教師の写真を手に入れた。
「でも、ヤシロ。見た目、身長と体格は同じくらいじゃないか」
「・・・・・確かにそうね」
「もしかして一年で急に老けたんじゃね? そういう病気とかで」
「ううん、永井っちはすこぶる健康よ。いっつもキンキン怒って声張り上げてるし。しゃかしゃかと歩くのも速いのよ」
ヤシロは自分を自分で抱きしめ、怯えた顔になっている。
このままじゃヤシロは、月曜に永井っちの前に出たら、びくびく挙動不審だな。
「マジ? あの先生とは全く正反対じゃん! もうこれはマジ別人だって」
如月くんはヤバいことを知ってしまった! とばかりの顔だ。
ヤシロは煽られて怯えた表情になってる。
「・・・・・まずは如月くんの知っている永井先生のこと、聞かせてくれないか?」
ボクは続きを促した。