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彼女に近寄るな〈ふうら〉

 その事故は土曜日の深夜に起こった。


 その頃の永井姉妹の母親は体調不良を訴えていたらしい。


 原因不明で体が痒くなったり、吐き気がしたり、喉がかわくし、夜はらんらんとして眠れなかったり、気分が上がったり下がったりが頻繁だと、夫に訴えていたという。


 姉妹もそれは聞いていたと語っている。


 ーーー妻は更年期障害とか躁状態と鬱状態を繰り返す双極性障害なのかもしれない。


 当時の数学教師の姉妹の父親は、妻についてそう思って、病院に行くことを勧めていたという。



 その矢先、姉妹の母親は団地の自室の4Fベランダから転落し、帰らぬ人となったのだ。



 警察では自殺か不慮の事故か、はたまた事件なのか判断がつきかねた為、司法解剖に回された。


 それによると、母親は、(かね)てより市販薬によるODを繰り返していたと思われる痕跡ありと判明した。


 市販薬での行為は罪に問われる事はない。


 この場合の一度に飲む量は通常服用の比ではない。相当な個数を購入したはずである。


 その市販薬はネットでも一人当たりの販売個数は制限されているが、その中で母親のネット通販での購入の形跡は皆無だった。

 なのに周囲のドラッグストアで購入した形跡も見つからなかった。


 入手経路は不明。


 家族は彼女がそんな多量の薬を頻繁に飲んでいたことなど全く気づく事は無かったそうだ。


 しかしながら、母親の衣類の引き出しの奥からは多量の市販薬の空き瓶が発見された。しかもそれからは、母親の指紋しか検出されなかった。


 深夜に起きたことでもあり、転落した時の目撃者もいないまま、母親の死は薬の影響による不慮の事故として処理された。



 ヨネリが19才の大学生2年、イネリが15才の高校1年の時の出来事だった。



 半年後、母親に掛けられていた生命保険、5千万円が父親に支払われた。



 そして、その3か月後の土曜日の朝、父親が自室で首をつって死亡しているのが姉妹によって発見された。


 遺書のような物は無かった。


 姉妹によれば、母親が亡くなってから家ではずっと塞ぎ込んでいて心配していたという。


 父親は、妻が転落死し、検死から遺体が戻され葬儀までの間、勤務していた中学校を1ヶ月ほど休んだそうだ。だが、その後は通常通りの勤務態度で、さすがにやつれて見えていたものの、生徒の顔を見てるのが自分の薬だ、と言って勤務意欲は健在だったという。



 警察は遺体に不審な点も見当たらず、妻を失ったショックによる発作的な自殺と断定。



 それは、ヨネリが二十歳の誕生日を迎えた三日後の出来事だった。



 これにより、ヨネリはイネリの後見人となった。


 その半年後、父親に掛けられていた生命保険金がヨネリの管理の下、姉妹に支払われた。




 大鏡じいちゃんや白茅(ちがや)が気にしているのはこのタイミングの良さだ。


 ヨネリが法的に完全に成人する二十歳半年前に母親が亡くなり、保険金を手にしたのは父親。


 そしてヨネリが完璧に成人した途端に都合良く保険金と遺産を遺して死んだ。


 彼女たちは計、保険金だけでも両親分合わせて1億円を受け取り、更に地方公務員だった父親に付随する共済金なども支払われ、若くして相当の金額を手にしている。


 なのに生活の為に入れ替わって落花生高校に勤務していたとは、いくらイネリのキャリアを護るためとはいえ、じいちゃんは納得が行かないという。


 大鏡じいちゃんは一度だけ直接永井ヨネリに会っている。


 のばらの赤い髪は牧野家の遺伝因子に因るものだと自ら証明するために落花生(おかき)高校を訪れた時に。



「ふうら、これはただの疑惑だ。真実など闇の中。永井姉妹以外知る由もない」


 白茅(ちがや)は端正な色白の顔に嫌悪を浮かべた。


 

「ふうら、私が拝見したヨネリの人物評価を教えておこう」

 

大鏡じいちゃんのセリフにごくりと喉がなった。


だって百戦錬磨の大鏡じいちゃんの人を見る目は、伊達じゃない。いつもはおおらかなじいちゃんの厳しい表情。


 じいちゃんはボクの目をじっと見た。



「永井ヨネリはたぶんサイコパスだ。彼女の瞳の奥の闇は深い」



 「!!」


 ボクらの担任の永井っちはサイコパス!


「サイコパス的な人物にも色々ある。彼らの能力は使いようによっては悪いことばかりではないんだよ、ふうら。でもね、永井ヨネリの場合は・・・近寄るべき人物ではない」


 ボクはじいちゃんのこんな顔、初めて見た・・・

 この(ふところ)超ディープなじいちゃんにさえ手を退かせてしまうなんてのは相当だ・・・



「ふうら。永井ヨネリは危険だ。気づくのが遅れていたならこちらも相当のダメージを食らっていたかもしれない。まだ彼女が退職するまでに間がある。充分注意しろよ。この事をこちらが調べあげた事はヨネリは気づいていないし、このまま気づかれない方が厄介はない。のばらにもよーく言ってある。ヤシロちゃんにもここでのことは絶対に漏らすなよ?」


「わかってる。こんなことまで知ったらヤシロの受ける危険度が増す」


白茅(ちがや)のマジな忠告にボクもマジで答えた。




「さてと・・・・・この話はここまで」


大鏡じいちゃんが打ってかわってにこりとした。


「私もふうらとのばらのキュートな友だちに会いに行くとしよう」



 ・・・じいちゃん、ヤシロの人物評価に出向く気だ。


 

 ま、ボクにはヤシロに会ったじいちゃんがどうなるかなんて瞬間お見通しだけどね? 大鏡じいちゃん。






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