素顔のキミドリさん〈如月〉
「・・・・・木見戸さん? って、これ、木見戸リンさんっ?」
「おい、キサラ。女の子に向かって "これ" は無えだろ。失礼だぞ!」
「ごっ、ごめん。木見戸さん、俺。この間、宇良川ルルスの話を聞きに言った時と全然違うからさ・・・びっくりしてさ」
俺の前に現れたのは、以前は肌を蝋人形のように塗り固め、アイラッシュバリバリで、極太アイラインっていう、舞台メイクを上回る濃いメイクを自分の顔に施していたあの、キミドリさんこと、木見戸リンさんだった!
「あのっ、津田沼くん、あ、あたし変じゃない?」
真っ赤になりながら俺を見た。
急に素顔に戻したから照れてるんだな。ふふふん?
気がついてよかったな。こんな美人をメイクで台無しにしてたなんてヤバくね?
「こっちの方がよっぽどいいじゃん」
「あのっ、ほんと? ほんとうの事を言って欲しいの。津田沼くんには」
「ホントだって! なあ、ライダ」
誰だってそう思うさ。
「俺だって言ってやったさ。でもさ、俺の言葉じゃダメなんだよな。なー? 木見戸」
ライダは木見戸さんと仲よさそうだ。
「そっ、それはっ・・・嫌だもうっ! ライダくんたらっ! 黙って! あっ、あたしもう行くから! じゃあね、ライダくん、津田沼くん。ごゆっくりどうぞっ」
木見戸さんは最初からずっと焦りモードキープ。
こちらを向いたまま さささっと器用な後ろ歩きで戸に向かい、後ろ手で戸を開き部屋を出ると、ガッと戸を閉めてダダダダーっという足音をフェイドアウトさせて消えた。
今のすげぇ。後ろに目がついてる? どうやってこっち向いたまま、あんな正確に扉の位置わかるんだよ? バスケ上手いかもな。
「ほらよ、箸とスプーンと皿」
ライダが木見戸さんから受け取ったバッグから出して俺に寄越した。
「あざー・・・ライダ、これ・・・?」
「あは、実はさ。これ木見戸リンが作ったんだ」
ライダが悪びれる様子もなく言った。
「はっ? お前、俺の誕生日祝うために木見戸さんにわざわざ頼んで作ってもらったのかよ?」
「はっ? 違うって。俺がそんなことお前にするわけないじゃん」
「はっ? するわけ無いって? ライダ・・・これにはライダ愛が詰まってたんじゃねぇのかよ・・・?」
「はっ? 何で俺の愛が・・・?」
「はっ? だって、お前俺のこと・・・」
「はっ? 何言い出しちゃってんの・・・」
「だって・・・・・俺のこと考えてただの言ってにやけてたり、俺が本命彼女いるって話したら、自分戸惑ってるけど引き返せないだの、この弁当にも俺への愛が詰まってるって言ったじゃねぇか」
「・・・・・確かに」
「だから、俺はてっきりライダは俺のこと・・・って思っちゃって・・・」
「ぶはっ! マジかよ? そんで、キサラはどうする気だったんだよ? 俺の愛をどうする気だったんだよ?」
「・・・・・言うか! バーカ」
「くっくっくっく・・・もういいから早く食おうぜ! キサラ」
「おう、いただきます!」
俺は好物の卵焼きをまず一つ。
「この、卵焼きすげぇな。俺の姉ちゃん作るのなんて、もっとぐっちゃーってしてるけど、これ見た目もキレイだし、おいしいし、木見戸さんハイスキルだな」
「夕べのうちから仕込んで今日は4時起きで作ったらしいぜ?・・・キサラの為にな」
「何で木見戸さんが俺の為にそんなこと?」
「・・・ったく、決まってんだろ! そんなこと」
「は?」
「女子が弁当作って来るなんて、好きな人の為に決まってんだろ?」
「・・・木見戸さんが・・・俺のこと?」
「ああ、彼女、キサラにすごく感謝してた。お前のお陰で "ルルスの呪い" が解けたってさ」
「お前、魔女の呪いを解いた王子様ってとこだな」
「・・・俺? あの清楚な美人でこの料理って・・・・・ヤバくね? でも、俺には本命彼女いるし、俺らもう心は通じあってっから。たぶん」
「何だよ、たぶんって。まあ、ライダが木見戸の気持ちに応えられなくてもそれは仕方がない。この弁当はライダのお陰で呪いが解けたお礼も兼ねてる。だから、この事は気にすんな。木見戸だってわかってるから」
「・・・ああ、わかった。さんきゅ、ライダ」
「木見戸って、マジいい子だぜ? 1年の時もさ、狙ってるやつ、クラスだけでも3人いたんだぜ? でもさ、あのメイク始めちゃったじゃん? ふふふっ。それで今までは意図せずプロテクトされてたっていうの? だけどこれからは競争率、高くなるぜ?」
ふうん。木見戸リンさんか・・・
真っ赤になって、かわいかったな。彼女。
なんか、一生懸命な感じで。
宇良川さんの言葉を真に受けてあんなんになってしまっていたなんて、きっと傷つきやすいナイーブな女の子なんだろうな。
もっと自分に自信を持っていい子なのに。
俺が護ってあげられればいいんだけど、そうもいかねーんだ。だって、俺にはヤシロが。
きっとヤシロは今頃、賽ノ宮って奴と別れる決意してるに違いねぇ。俺が現れたせいで。
先週の土曜日はフィーリングだけで終わってしまったけど、明日は俺、言葉ではっきり伝えるつもりだし。
「なあ、そんで今日の放課後の宇良川ルルスとのことだけど・・・」
「ああ、それな」
俺たちは放課後に備えて打ち合わせに入った。




