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ABSOLUTE CONTROL ~リアルの呪文をあげる  作者: メイズ
よみがえる思い出の中で
27/221

俺の家族〈如月〉

 そして、ついに俺のハッピーバースデーの朝が来た。


 だからって俺は今日まで家で誕生日をぱーっと祝ってもらった記憶はないし、今日だって特別な事は何も無い。特にハッピーなことはない。


 俺、今日から17才。


 モデルのバイトしてる姉ちゃんが今夜辺り、小遣いくれるくらいかもな。


 去年もくれたし。


 俺の大事な姉ちゃん。


 このしっかりものの人がいなかったら、俺は悲惨で哀れな小汚ないガキだったかもな。



 俺の家は父ちゃんと姉ちゃんの3人家族。


 母ちゃんは俺がまだ小さい頃消えた。

 俺が3才頃? 顔も覚えて無ぇんだ。


 昔っから父ちゃんは毎日朝早く出掛けては夜遅く帰ってくるし、しょっちゅう帰ってこねーし、かと思えば家でだらだらずっと寝ていたり。だから俺は姉ちゃんと二人、協力して過ごしてきた。


 別に暴力振るうとか、酒癖悪いとかそんなんじゃない。

 自由がいいだのなんだのって。


 父ちゃんは紙に難しい計算をしてはノートに数字の羅列の表を書き込んでいた。


 何なのか聞いてみると期待値と回転率の確率の計算だとかよくわかんねーこと言ってたな。俺は数学は得意だ、とか言ってさ。


 姉ちゃんは父ちゃんはピンでパチプロという仕事をしているらしいと言った。


 当時の俺はそれが何なのか良く解らなかったけれど。



 3つ年上の当時小学校1年生だった姉ちゃんは昔から優しいしっかり者だった。


『これはね、お母さんがいたとき教えてくれた生活の仕方だよ。これだけはちゃんとやるように何回も言われたからキサくんも ちゃんとやるのよ。これはお勉強よりももっと大切なことなのよ』


 朝はちゃんと起きる。顔洗う。何か食う。食べたら必ず歯磨きする。帰ったら手洗いとうがい。体流してから風呂入る。石鹸よーく泡立てて顔洗う。髪はすぐドライヤーで乾かす。綿棒でお耳掃除。早く寝る。食器の洗い物はためない。洗濯物もためない。土曜日は掃除機をかける・・・そんなこと。


『後、ここはボロアパートっていうところだから、騒いだらダメだよ。隣のおじさん怖い人だから怒ってくるよ。だからさ、川原の方で一緒に遊ぼうよ。あそこ広いし、おっきい声出して平気だよ』


 俺と姉ちゃんは日頃のストレスの発散してたんだろうな。


 川原にて追いかけっこに飽きたら、二人でおもいっきり声を出して歌を歌って遊んだ。スマホ見て動画の真似してどっちが似てるか競いあった。


 あれ、楽しかったな。姉ちゃんとふざけて歌ったりしてすっげぇ笑ったな・・・


 だって、歌うだけなら何の道具も用具もいらねぇしカネもかかんねぇし。



 姉ちゃんにはスマホが渡されていたんだ。


 留守がちな父ちゃんが俺たちとの連絡用に持たせてたから。

 あんなおやじでも一応俺たちのことは心配していたらしい。


 俺んちは裕福とはほど遠いけど、金に困ってる訳ではなかった。


 俺と姉ちゃんに預けられた口座には知らない人から毎月ゼロが4個ついてる金額が振り込まれていたし、父ちゃんだってそれなりに稼いでいた。


 その口座の金は母ちゃんの再婚相手からだと知るのは俺が小学校を、姉ちゃんが中学を卒業する少し前くらいだった。


 姉ちゃんはその貯金を使って公立高校に行った。


 俺は中学に入学してバスケ部に入部した。


 小学校の時は月に2回ほどあったクラブ活動でもバスケを選択していて、それ、楽しかったから。


 俺は背が高かったしバスケは俺に合っていたらしい。

 中学入ってからめきめき上達するのが自分でもわかった。


 そして高校はスポーツ推薦で私立という手もあったけど、俺はやめておいた。


 だって、俺が怪我や故障で優待がなくなったら退学しざるを得ない。だって私立の高い学費はおれん家では無理だし、俺は通常の生徒に戻された時に必要な程の学力もないのは明白だし。


 俺がもっと金持ちの親の元に生まれていたら俺は俺の道を自由に選択出来たのにな。

 レベルの高い所でレベルの高い仲間に囲まれて切磋琢磨してプレイしたかった。


 世の中本当に不公平だ。


 俺にだって良い環境さえ与えられればもっと伸びる才能があったはずなのに。まじで礼千(らいち)がこんなに羨ましい。



 俺は焦りからがむしゃらなトレーニングと練習で膝を壊してしまった。


 ・・・わかってた。


 自己流じゃだめだって。専門的知識と指導の下、科学的データに基づいてトレーニングしなきゃ伸びないって。


 それなのに俺は、焦ってしまってこのざまだ。


 俺の喪失感は大きい。



 だからっていつまでも落ち込んでもいられねぇよ?

 無い物ねだりもほどほどにしとかねーとな。


 こうなっちまったのは全部自分のせいだ。


 俺もそろそろ変わんねぇといけないってわかってる。だけど、何をどうすればいいか方向すらわかんねぇんだ。



「おはよう! キサくん、起きてるの? トースト焼いとく?」


 姉ちゃんが俺の部屋をノックした。


「姉ちゃん、あざー。今行く」



 俺には俺の誕生日なんて祝ってくれるダチも学校にいるし、そう悪くもねーよな。



 テーブルの上にはトーストとヨーグルト、ベーコンエッグとブロッコリー。


 姉ちゃん、いつもさんきゅー! 感謝していただきます!



 俺は姉ちゃんにしつけられた丁寧な歯磨きと洗顔を行い、急いで制服に着替えてリュックをつかむ。


「ふっふーん。誕生日の今日、お弁当要らないなんて、彼女出来たのね? キサくーん?」


 姉ちゃんがニヤニヤしながら玄関でスニーカーに足を突っ込んでる俺のことを覗いた。


「姉ちゃんにはかんけーねーだろっ!」


 まさか男友だちの好意でだとは言いにくい。


「ふっふっふ~、いいのよ いいのよ。照れなくても」


 姉ちゃんの期待に添えなくて申し訳ないけど、そうじゃない。


「ちげーよっ! 行ってきます!」


「いってらしゃい! 気をつけてね。さて、私も急がなきゃ!遅れちゃう~」



 姉ちゃんが父ちゃんを叱る声が後ろで聞こえた。

 姉ちゃんにはもう誰も逆らえねぇ。ガンバレ、父ちゃん。




 これが俺の運命の金曜日の始まりだった。





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