月曜日の朝の教室〈ヤシロ〉
週が明けて月曜日。
あたしはちょっとドキドキよ。
だって、永井っちの秘密を知ってしまったんだもん。
朝、教室に入る前にふうらちゃんが来ているか見回した。
・・・まだみたいね。
「おっはよう~♪」
あたしは教室に入った。
「おはよう、ヤシロ」
業村くんが寄ってきた。
「おはよう、業村くん。今日もみんなの机、拭いてくれたの?」
「まあね、月曜日は気持ち良く始めたいだろ?」
なんだかんだあったけど、やっぱりクラス委員長ね。
みんなのこと考えてくれて。
「ありがとう、業村くん。でさ、あのさ、ちょっと聞いていい?」
「はん? ・・・何だよ?」
「永井っちって何歳なのかな?」
「・・・俺に聞かれてもなぁ。みた感じ30代後半じゃないかな? よくわかんないなぁ。大人ってみんなおじさんおばさんだし、みんな同じだろ? いいじゃないか、何歳だって」
「でも、家のお母さんより、ちょっと若いと思うんだよね」
「うーん、そうかもな。でも、急にどうしたんだよ?それがどうかしたのか?」
「う、ううん。何でも無いよ。ありがとう」
「ヤシロっ!」
今登校して来たふうらちゃんが教室の入口であたしを呼んだ。
「おはよう、ふうらちゃん」
ふうらちゃんは慌ててあたしに寄ってきて隅っこに引っ張って行った。
珍しく、誰が見ても眉をしかめてるのがわかるくらいの困惑の表情で。
「ヤシロ、あのこと業村くんに言ってないだろうな?」
「大丈夫だよ。言うわけ無いよ。業村くんなら永井っちの年、知ってるかもって思って聞いてみただけ」
「いいか、普段通りだ。特別な事はしちゃダメだぞ、ヤシロ」
珍しいふうらちゃんの取り乱しにあたしは危機感を覚えた。
「ごめん。ふうらちゃん! もう誰にも聞かないから」
「ボクはヤシロを危険にさらす訳にはいかない」
ふうらちゃんはそう言い残し、窓際の自分の席に行った。
ああん、朝から失敗だわ。
あたしは自分の席で荷物の整頓を始めた。
「おはよう、ヤシロさん」
うふっ、ロードくんだ!
ロードくんはあたしの後ろの席。
「おはよ!」
今日も素敵だよ、ロードくん。
その寝癖の髪もかわいい・・・アンテナ立ってるね。
「どうかした? 僕の顔になんかついてる?」
顔をペタペタ触ってうろたえるロードくん。
どぎまぎしだしたロードくんもまたかわいいわー。
「そうだ! ねぇ、黒鮒様って怪我にもご利益あるのかな?」
ロードくんは黒鮒様という鮒の神様を祀っている付梨神社の一人息子なの。
あたしは如月くんが怪我でバスケやめてること、気になっていたんだ。
「怪我か・・・黒鮒様は人々を苦しみから救い癒そうとしてくれるこの地の神様なんだ。とても優しい穏やかな神様だよ。うーん、祈ることで怪我自体が良くなる訳じゃないだろうけど、その怪我によって出来た心の苦しみをきっと黒鮒様は解ってくださっているはずさ。そんな風に心の拠り所に考えてもらえればいいと思うんだけど」
実はあたし、ロードくんと二人で不思議体験したことがあるの。
その時、黒鮒様らしき化身の男の人をあたしは見たのよ!
あたしとは別にロードくんは黒鮒様に話しかけられたそうよ。
「・・・そうなのね。近寄り難い雰囲気だけど、瞳は優しげな結構イケてるおしゃんてぃーおじさんだったもんね・・・黒鮒様」
「あはは、そうかもね」
ロードくんが胸を押さえてクックと笑った。
「・・・・・くすっ」
「どうしたの? ロードくん」
「何でもない」
ロードくんはたまに胸を押さえて、一人フッて考え事に陥ることがあるのよね。
そして、チャイムギリギリになってリアの登場。
「おっはよー!ヤシロ、ロードくん。朝練がさあ、長引いてギリになったぁー、あーもう! ふうら! 数学のノート、私にパスっ!」
自分の席に荷物を下ろしたと同時に席の離れたふうらちゃんに叫んだ。
「ちっ、これの分きっちり体で返してもらうからな!」
「へっ?」
困惑するリアの元にふうらちゃんのノートが手渡しパスで回ってきた。
「ううっ・・・私、これの代償は一体何なのっ?」
そういいながらもさっさと数学の宿題の写本を始めたリア。
ガラリ
扉が開いてとうとう永井っちの登場よ!
「起立っ」
「お早う御座います」
「着席っ」
・・・・・いつもの永井っち。
今まで何の疑いもなく受け入れていたものが実はまがい物だったなんて。
花柄クッションみたいな柄のカットソーに縦ストライプのカーキ色のロングスカート。
あの、写真で見た清楚でかわいらしい永井先生とは全くセンスが違うわよ。
一体誰なの? この人。本当の永井先生はどこに行ってしまったのかしら? 如月くんが言ったみたいにこの人に監禁されてるの? 生きてるんでしょうね? 何の目的でこの人はここに入り込んで先生してるの?
それとも・・・そうよ、任意で入れ替わってるって可能性もあったね・・・
何らかの事情で。
事情なら・・・あるじゃない?
生徒にやり込められて休職してしまった清楚永井っちなら・・・
あたしはチラリと斜め左前のふうらちゃんを見た。
さすが、普段通りだね。見習わなくちゃ。
あたしには思うところがあったけれど、あたしとふうらちゃんはそれ以来あの話は一切しないで1日過ごした。
放課後近くになって、如月くんからメッセージが届いた。
『ニセ永井先生の様子はどうだよ? 俺たちが見破ったこと、気づかれてはいないと思うけど。ヤシロ、奴の前でキョドらなかっただろうな? マジ気を付けろよ!』
相変わらず優しいのね。
あたし、意外と大丈夫だったわ。
朝は緊張してたけど。
なんか周りが全て作り事のような、そんな錯覚がフッとよぎったりしたから。
永井っちとは直接話す事も無かったし、席から顔見てただけだったし。
『今日は教室全体がなんとなくそらぞらしく感じて気持ちが落ち着かなかったわ。でも、ふうらちゃんがいるから大丈夫よ。ありがとうね、如月くん』
すぐにリプした。
如月くんに宇良川さんのこと頼んでしまったけれど、大丈夫かな?
今、落ち着いて考えたら、あんなこと蒸し返してもみんなまた嫌な思いするだけだし、そっとしておいた方がよかったかもって思えて来てるの。
でもさ、あんなに高ぶっちゃって泣きながら頼んでしまった手前もう退けないよ。
ほんと、ゴメン! 如月くん。
今度土曜日会った時には何でもひとつだけお願い事きいてあげるから許して。




