即席彼氏と一応彼女〈如月〉
俺はヤシロに言われるまでそんなこと考えもしなかった。
まさか、中3の時のあの忌々しい噂を流したのは宇良川ルルスかも知れないだなんて!
あの頃から既にサイコパスだった?
俺たち4人の運命を逸らしたのは宇良川さん?
ヤシロは、宇良川さんが俺のこといまだに想っていて俺と同じ鬼高に来たと思い込んでたけど、そんなことはありえない。
あるとすれば恨みだ。
宇良川さんとは中学に入学して同じクラス、そんで偶然席が隣同士だった。
俺は元々こんなんだから、授業が始まってもろくろく聞いてもいなかったし、宿題プリントなんて出されてもわけわかんねーし、ほとんど白紙解答だった。
それにひきかえ、入学直後から宇良川さんは頭が良くてきっちりしてたから宿題もパーフェクトにやって来てた。
俺は手っ取り早く隣の席の宇良川さんに宿題を見せてくれと頼み込んだ。
俺はそれを朝、3日連続頼んで写させて貰った。
4日目にアイツは言った。
『私、彼氏にしかもう見せてあげないことにしたから』
『えーっ! なんだよ、昨日まで見せてくれてたのによぉ? ひっでーな!』
『じゃあね、いい方法があるよ?』
『何?』
『私の彼氏になる? そしたらこれからずーっと見せてあげるよ?』
『マジ? ずっと? 嘘じゃねーだろうな?』
『うん、本当だよ。約束する』
『・・・でも、このこと誰にも言うなよ! 俺らのことも秘密にしろよ。誰かにバレたら即刻解消すっからな!』
『いいよ。秘密って面白そうだし』
『よっしゃ。決まりな。俺は彼氏だからこれから毎日宿題見せろよ』
『うん、いいよ。はい、これ今日の分』
『やったね! あざー』
それが俺と宇良川さんの始まり。
俺って本当にバカだよなぁ。
今さらだけど。
俺は宇良川さんと約束してから間もなくチア部のヤシロを見かけた。
チアの女子はかわいい子ばかりだけど、その中でもヤシロは遠目でも目立ってた。
全身スタイルバランスの良さとダンスのキレ、その笑顔。
まさしく俺の理想の女の子。
俺の目は勝手にヤシロを追ってしまう。
宇良川さんと付き合うってことしてたのに俺は、即刻心変わりしていた。
だからって表面的には俺の学校生活は何一つ変わることはなかった。
チア部に入部したてのヤシロは、可愛い1年が来たってバスケ部の先輩たちの中でもすぐに知れ渡ってたし、1年の俺が声をかけるのははばかられた。
俺は遠くから見ているだけだった。
宇良川さんとヤシロでは全く雰囲気は違っていた。
宇良川さんは切れ長の目をしたクール系の落ち着いた雰囲気の女の子で、ヤシロは清々しい透明感を感じさせるキラキラオーラをまとった甘い顔だちの女の子だった。
宇良川さんがどうのこうのというより、ヤシロが俺の理想の女の子を具現化したような女の子だったんだ。
だから、俺は・・・
俺は、一応彼女にしてた宇良川さんに髪を伸ばして耳後ろで二つ結びをするように勧めた。
それはヤシロと同じ髪型だから。
宇良川さんはショートだった髪を伸ばし始めた。
中学入って2ヶ月もたつと、俺に宿題を見せてくれる友達も増えてきて宇良川さんにだけに頼る必要も無くなってきたけど、解答の正解率は圧倒的だったから、どうせ写すなら彼女の宿題が一番だった。
俺は彼氏になったからって、もともとアイツが好きだったとかそういう訳ではなかったので、LINEで繋がってはいたものの、学校ではほとんど話すことすら無くなってきた。
元々俺らの関係は秘密だと約束していたわけだし特に問題はなかった。
俺は放課後も休みの日だって部活で忙しかったし、いつも疲れてたし、宇良川さんを遊びに誘うなんてことは無かったけど、彼女に誘われて何回かは遊びに行った。っていうか、釣り堀に数回行った。
彼女は人混みは嫌いだそうで、こういうところでのんびり過ごすのが落ち着くとかで。
俺はただぼーっと浮きを眺めて座ってるだけなんて、退屈だったけどな。一応彼氏だから付き合って座ってたさ。
そんな風に過ごして、夏休み明け、宇良川さんは髪を二つ結びにしてきた。
でも、まだそんなに髪が長いわけではなかったから、雀のしっぽみたいで。
『どうかな? 私』
『まだまだ短いな、これじゃ全然違うじゃん』
『違うって?』
『えっと・・・俺はもっと長いウェーブの髪の二つ結びがいいなって・・・・・』
俺は誤魔化した。
まさか、俺の好きな子の髪型を言ってみただけなんて言えるわけねーし。
『・・・・・そっか。じゃあ、もうちょっとがんばるね、私』
宇良川さんはちょっとしょんぼりしてたけど、俺にニコっと小さな笑顔を見せたんだ。




