証拠無き疑惑〈ヤシロ〉
前回の出来事ヤシロ視点で。
如月くんはふうらちゃんがいた時には言わなかったことを今、言った。
「俺がさっき泉さんに話してたあれな、あの "シロイさん" て言ってたサイコパス女子な、あれ・・・実は宇良川ルルスなんだ」
「うそっ!」
宇良川さんが鬼胡桃高校にいるなんて!
彼女は成績はトップクラスだったはずよ。なぜ鬼高に?
理由は・・・如月くん?
・・・そういえば・・・あの、宇良川さんと一度だけ交わしたちぐはぐで噛み合わなかった会話。
あたしはあの時の記憶を呼び戻す。
・・・わざわざ自分は如月くんの元カノだと、なぜかあたしに言って来た謎が解けたようだわ。
宇良川さんは如月くんのこと、ずっと好きなまんまなんだわ! きっとそうよ!
だから、如月くんと仲のいいあたしを勘ぐってあんなこと言って探ってきたんだ!
・・・・・ちょっと待って!
宇良川さんはシロイさん。
シロイさんはサイコパス。
言霊の呪いを吐いて、邪魔な人や気に入らない人を陥れ、自分の思い通りに事を運ぶ・・・・・
嘘っ! あたしは大変なことに気づいたかもしれない・・・
そうなの? ううん、そんなこと? でも、そうかも・・・
ああ、わからないわ。今さらこんなこと。でも、もしそうだったら?
「どうした?」
如月くんがあたしの肩を抱くようにそっと触れながら心配そうに顔を覗き込んで来た。
あたし、キョドってる?
「・・・・・・・」
あたしは無言のまま瞳で如月くんに聞く。
だって、こんなこと口に出せないよ。なんの証拠もなくて、今思いついただけなんだもん。
あの中3の時のひどいフェイクの噂話、宇良川ルルスさんが・・・?
ねえ? 如月くんはそうは思わなかったの?
無言のあたしをただ、心配そうな顔で見てる如月くん。
「・・・・・・・」
あたしは言葉が無いまま如月くんの顔をただ見る。
この様子では疑ってはいないのね。宇良川さんのこと。
そうよね。一度は好きになった女の子なんだもん。
彼女を侮辱する気はないの。でも・・・
・・・あたしがこんなこと言い出したら怒ってしまうかしら?
如月くん、まだるっこそうにあたしを見てる。
「ヤシロ、俺・・・」
ごめん・・・あたし、黙り込んでいて。如月くんがしびれを切らす前に伝えなきゃ・・・上手く伝えられるかな?
「・・・あの、成績優秀で、風紀委員長だった宇良川さんが・・・鬼高でサイコパスになって、言霊の呪いでクラスのお友だちを陥れてるっていうの?」
「ヤシロ?」
肩に乗ってる如月くんの手がぎゅっとあたしの肩を掴んだ。
気分を悪くさせてしまったかしら?
でも、怒らせてしまったとしてもあたし、確かめたい。
「あのね、あたし中3の時ね、宇良川さんから聞かされたんだけど、如月くん、昔秘密で付き合ってたんでしょ?宇良川さんと」
「アイツが? ヤシロに?」
「そうよ。だからあたしさっき勘違いしちゃったの・・・・・ホント?」
如月くんはちょっと考え込んでる。
「ほんとに付き合ってたのは中学入ってすぐの2ヶ月くらいだ。後はほぼ放置してて2年になってちょっとたった頃、完全に消えた」
少し間をおいてから答えた。
ためらいをにじませながら。
「・・・そう」
ごめんね。こんなにプライベートなこと、ずけずけと聞いてしまって。
でも、あたしはこのままではいられないよ。
如月くんの体がふっと固くなったのがわかった。
・・・本当にごめんなさい。如月くん。でも、聞いて。
「あたし、なぜか宇良川さんがサイコパスだったって聞いて、あのこと、ふぅってよぎったの。」
「あのこと?」
「うん、中3の時の、あのひどい中傷よ。あたしたち、4人が受けたあの」
「・・・・・ああ、あれはひどかったな」
そうよ、特にミオンにはね。
あたしの大切なミオンの心をナイフで切り裂いたあの噂。
ミオンの心は深い傷を負って、一時期すべてを拒絶した。
あたしだって辛かった。
一部の心無い男子は好奇の目であたしを見て、面白くもない下品なジョークを言ってあたしをからかってきたり、信じられないことにあんな噂を信じちゃってる人もいた。
本当はもう、思い出したくもない出来事。
あたしはもういい、でもミオンを傷つけたのは許せない。
あんな噂を流した張本人がわかるのならあたし、バシッと一言言ってやりたいわ。
外からは見えないけれど、傷つけば心からだって血が流れ出るって。
出血多量になったら死んでしまうかも知れないのよ? 解ってるの?
「・・・こんなこと、何の証拠も無いのに言ったら悪いのは分かっているの。でも・・・もしかして、もしかするとそうかもって思えて来て」
「えっ・・・?」
「あたし、宇良川さんが如月くんと付き合っていたこと、なぜわざわざあたしに言いに来たのかずっと謎だった」
如月くん、元カノだから、かばっているって可能性もあるね。
「宇良川さん、ずっと如月くんのこと想っていたんじゃないかな? だから高校も同じにしたんじゃないの?」
「・・・まさか。だったら俺に接触してくるはずだろ? 俺、高校入ってから宇良川さんとは話したこともねーし。入学してから宇良川さんがいること知って俺だって驚いたんだ」
あたしの中では疑心暗鬼でいっぱい。
宇良川ルルスさんへの、そして如月くんへの。
これは思い過ごし?
確かめたい。
この気持ちは止められない。
「・・・あたし、もしあの時の噂を流したのが宇良川さんだったのなら、絶対彼女を許さない! ミオンをあんなに傷つけたんだもの!」
高ぶるあたしを、如月くんは抱き締めて抑えてきた。
あたしはそのまま涙が止まらない。
ーーー落ち着かなきゃ。
「ごめんね、もう大丈夫だから」
あたしは言ったのに如月くんはそのまま。
しばしの沈黙。
如月くんは腕を緩めてあたしの目を見た。
「・・・ヤシロ、わかった。俺がアイツに直に聞いてやる。それで白黒つけようぜ」




