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ABSOLUTE CONTROL ~リアルの呪文をあげる  作者: メイズ
挿話 あなたがいたから
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この季節に、思い出す〈牧野小雪〉




 新月さんと二人で大掃除を始めたのよ。


 今日は朝からとてもいいお天気。小春日和の今日は絶好の大掃除日和ですものね。


 普段はお掃除しないチェストの後ろ側もきっとホコリだらけでしょうし、ここ何年かはウォークインクローゼットの棚の上は見たこともないし、一度全部出して整頓しなければいけないわね。


 年をとってくるとね、こういうことも負担になってくるものです。今のうちになるべく物を減らす断捨離した方がいいかもしれません。



「新月さん、要らないものはもう片さないといけませんね。動ける内に。私たち、来年もこんな風に出来るとは限らないのですから」


「小雪さん? 縁起でもないこと言わないでくださいよ。僕はまだまだ元気ですよ? ほーら、こんな高いところにも手がとどきますし、この踏み台に乗れば電球だって換えられまっ、うわっ、おっとっと!」



 まあ、危ないわ。新月さんたらすぐ若ぶるんだから‥‥‥


 ケガをしたら大変よ。私たち、もう70超えてるんですからね。

 若いつもりでも体は衰えているのよ。気をつけてくださいな。心と体は違うのですから。


「高い所と水回りはハウスクリーニングにお願いしますから、新月さんは自分の洋服やら、もう着ない物もありますでしょう? 出してくださいな。それに本も虫干ししませんと」


「はいはい、僕はいつだって君の指示に従いますよ」


 新月さんがリビングを出て行きました。


 さて、私は自分の部屋の作り付けクローゼットの中の整頓をしましょう。


 リビングは後回し。自分の部屋を先に。



 私のクローゼットにはね、綺麗な薔薇の彫刻の施された宝石箱が入っているの。


 宝石箱と言っても、アクセサリーは冠婚葬祭に最低限必要なパールのネックレスとイヤリング、小さな石のついた数個の指輪くらいしか入っていませんのよ? それと‥‥‥これ。



 私は一年に一度だけこれを手に取ってみますの。


 これは私の宝物ですのよ。これが私にとって、この宝石箱の中で一番大切なものなのです。どんな高価なアクセサリーよりも。



 だって、これは黒鮒様から授かった大切な大切な御守りなんですもの。


 これがあったから私は‥‥‥




 私には二つ上の兄、大鏡(だいきょう)がおります。


 うふふ、大鏡は市井(しせい)の人々から立派な人だと尊敬されていますのよ。昔から私にも とても優しいお兄ちゃんでした。


 私たち兄妹は子どもの頃、今で言う納屋のような寒々しい所に1年ほどでしょうか? 住んでおりました。


 ほとんど二人きりで。


 父は戦争でとっくに亡くなっていたと母から聞かされていたし、母親は私たちを置いて、仕事に行くからと出かけ、昼も夜もいませんでした。何の仕事かは わかりませんでしたが、とにかくほとんど帰って来ることはありませんでした。


 私たちはほぼ、捨てられていたのでしょう。


 後から知った事なのですが、その時には母には別の夫が出来ていたらしいのです。


 私たちのことを隠したままで。


 月に一度ほど、家賃のお金と干し芋などを置いてすぐいなくなる。そんな母親でした。


 今はもう顔さえ思い出すことが出来ません。



 私たちが住んでいた納屋は名波家のもので、立派なお屋敷の建つ広い敷地の庭の端っこに、植え込みでひっそり隠れるように建っておりました。


 どう見てもそこは庭仕事の用具入れですわね。


 当時は戦後の混乱で私たちのような捨てられた子どもがたくさんいたのです。私たちは住む所があっただけましかもしれません。


 あの手足の感覚さえ無くすような冬の寒さも、夏の虫さされも、上から不意に落ちてくる太いヘビや脚をよじ登る大きな蜘蛛も、今となっては懐かしい‥‥‥‥



 納屋からは、ずっと向こうの明るい方に綺麗なお館が見えました。


 その名波家の大きなお屋敷には珍しい舶来品の置物やお人形、本などもたくさん並んでおりました。


 私は窓からこっそり覗いて目に焼き付けてから、そのまま納屋に戻り目を瞑って夢に浸ったものです。


 人の家を覗くだなんて、今思うとお恥ずかしいことですわね。


 でもね、まるで夢のような綺麗なお部屋に私は大変憧れたのです。私はその時はまだ幼い少女だったのですから。


 



 新月さんはその家の男ばかりの兄弟の末っ子の5男坊でした。


 名波家の家系は、財閥にアドバイザーや補佐役として在職していた学識ある家柄だったそうで、あの時代の中でも随分羽振りが良くそこだけは別世界だったようです。


 当時、大財閥は突然解体させられ財閥家族や財界人は退陣させられるという大変なことになっていたらしいのですが、名波家は財閥と血縁があるわけではなく、巧みに逃げ切り、その後は知識を生かし中枢のシンクタンクの中に潜り込み、旧財閥系企業が人事を刷新し復活した所に再び上手く入り込んだという話です。


 私とは無縁の世界の出来事です。


 それに当時みなしご同然の子どもの私では、聞いたとて何のことだか理解出来ないお話ですね。



 とにもかくにも名波家は巧妙に生き残りました。


 そのことは私と兄にも大きな影響を与えました。


 その名波家の新月さんと関わったことにより、私と兄は学識を得る機会を与えられ、その後にも私たち兄妹は彼から再び助けられるという運命となったわけですから。


 新月さんと出会った時から、兄と私の運命は大きく転換して行ったのです。



 兄より1つ下、私の1つ上だった新月さん。


 好奇心旺盛な彼はこっそり私たちの納屋へ遊びに来ることがありました。同じ年頃の私たちに興味があったのでしょう。


 最初は恐々来ては戸口の前にお饅頭やら、チョコレートやら、たぶん新月さんのおやつだったのでしょう。置いていったのが始まりです。


 やがて私たちと新月さんは少しずつ打ち解けて話すようになりました。


 そして大分お話するようになってきたとて、新月さんはなぜか納屋に入ってくることはありませんでした。


 その時はそれが私にとっては普通でしたから、中が人間が住んでいるとは思えないほど荒んでいたなんて気づいていませんでした。



 そしてある日のこと、名波家のご主人、新月さんのお父様が不意に私たちの小屋に訪れました。



「‥‥‥ああ、これはひどい。うわっ、ハエがこんなに‥‥‥あの母親は全く世話をしていなかったのか?」






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