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ABSOLUTE CONTROL ~リアルの呪文をあげる  作者: メイズ
穏当な帰結と当惑の帰趨
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第一印象が大事だってのに〈古谷〉

 

 その場から離れ、遠くから国分先生を確認すると、次のターゲットの英語のキャスパー先生の元へ。


 僕と違って本物のジェントルマンの彼は彼女のお喋りに付き合う余裕があるらしい。大人だな。


 だが、これももって3分だろう。この隙に僕は‥‥‥



 僕はキョロキョロと永井さんを探す。



 彼女はどこだっ! えっと‥‥‥えっと、いたっ!


 どちらかというと背の低めの彼女の姿は、数人の男性社員に囲まれて見えなくなっていたのだけど、隙間から金髪がかった茶髪が見えてすぐに見つけられた。


 あのスーツの男たちは事務職の人たちだな。


 僕は落ち着いた足取りで彼女に近づいて行くと、彼らの会話が聞こえて来た。


「‥‥‥‥ですよねー。数学の先生がこんなにかわいいかったら、生徒さんは数学頑張っちゃうんじゃないかな」


「そういうものですか? 私にはわかりませんが。私にこういう格好をさせる会長のセンスもどうかと思います」


「いやいや、永井さん、すっごく似合ってますよ、おっと、何だよ? オマエ」


「失礼」



 僕は歓談の輪の中に無理くり割り込んだ。


 彼女と直接話すのは初めてだ。まずは僕の事、印象付けないと!



 "永井さん、初めまして。僕は古典講師の古谷ショウです。よろしくね。これから始まる仕事のことで不安なことは無いかな? わからないことは遠慮なく僕に聞いて下さいね"



 なーんて言いながらの握手と優しい微笑みで、いつもの仕事の時のようにかっこ良くキメようと思っていたのに‥‥



 割り込んで彼女の目の前に出た僕の目は、当たり前ながら 永井さんの視線を真っ直ぐにとらえる事になってしまっていたんだ。


 無表情のまま、底知れない深みを湛えた瞳で僕の目をじっと見つめてる永井さん。


 射すくめられる僕。


 彼女の謎めいたパワーを秘めた視線を直で受けた僕は、すっかり蛇に睨まれたカエルになりさがってしまって‥‥‥



「あーっと、えーっと‥‥永井さん‥‥‥僕は」



 いい大人が不格好にもオタオタと‥‥‥


 何やってんだ? 僕は。25にもなって。



「僕はふるや、古谷ショウです‥‥‥」



 なんで肝心な時に限って‥‥‥本気出そうとするといつもこうなっちゃうんだろう? 僕ってさ‥‥‥

 これじゃ、肝心の第一印象が‥‥‥


「‥‥‥ううっ、もう‥‥‥ダメだ‥‥‥ダメ過ぎだ‥‥‥」



 左手で顔を覆った。



 口の端から心情がだだ漏れてしまった僕に彼女は言った。


「‥‥‥なるほど。ご気分が優れないのですね。一旦外に出た方がいいですね。ここは人いきれで空気が良くないと思われますから。あの、皆さん、お話途中ですみませんけど‥‥‥さあ、行きましょう。古谷さん」


 僕は彼女から背中、というか腰を押されて、そのまま一緒に会場の観音開き扉から廊下に出た。



 なんだよ? このザマ。



 扉を出るまでずっと僕の背中にこそこそ向けられてた 反感のさざめきと舌打ちだけでも僕は結構なダメージをくらってたってば。



 僕は永井さんに付き添われ ただ歩く。


 二人とも無言のままで。


 彼女に腰を押されたまま着いたのは、同じ階にあった緑化された屋外スペース。


 ライトアップされた南国調の木々。


 晴れているけれど星はいくつかしか見えないな。こんな所では。

 外の空気はちょっと肌寒い。


「気分は大丈夫ですか? ここに」


「‥‥‥あ、はい、ありがとう。永井さん」


 促されて空いていたベンチに座った。

 彼女も僕のすぐ横に腰かけた。


「あの、確か講師陣の先輩の方ですよね?」


「はい、古典担当の古谷ショウです。あの‥‥‥せっかくの新人歓迎会ですから‥‥‥いいですよ、戻って。ここ寒いし。美味しいお料理も無くなってしまいますよ。僕は大丈夫ですから」


 ごめんね。僕は君に迷惑をかけるつもりなんて全然無かったんだ。



「いいんです。私ああいうとこ苦手だし。あ‥‥‥私が隣にいたら邪魔ですね。では私は向こう側のベンチに移動しますね」


 彼女は言うが早く立ち上がり、僕に会釈をすると僕に背を向けた。


 えっ、待ってくれよ! それだったらここにいてくれよ。


「待ってっ! 永井さんっ!」


 僕は後ろを向いた彼女の左腕を、とっさにガシッと思わず掴んで引き留めてしまった。


「きゃっ!」


 彼女はビックリしてそのまま後ろに倒れ、座ってる僕の膝の上に落ちてきて、僕は慌てて彼女を抱え込む。


 危なかった! 


 迷惑をかけてその上怪我までさせてしまう所だったじゃないか! 僕としたことが‥‥‥



「ごめんっ、永井さん! 痛い所はっ?」



 おおっ? この形態は‥‥‥お姫様抱っこ!ってやつ。


 意図せず僕の腕の中に永井さんが!


 彼女、僕史上では一番小さいし、華奢だし、軽い。


 といっても僕の経験は片手でも余ってしまう程しかないけど。


 僕の腕の中にいる君とは、息が触れあうほどに余りにも近い。


 彼女が身につけていたのはミニスカートではなくて、スカートみたいに見えるズボンだったようで、だからめくれている訳ではないのだけど、そこから伸びてる足は嫌でも目につく。


 こういう時、僕はどっちを向いてれば紳士的なんだろう?



「‥‥‥いえ、大丈夫です。何か私に御用でしたか?」



 彼女は何事も無かったかのように僕からヒラリと降りてまた元の隣に座った。


 僕はこのハプニングにこんなにもドキドキしてるのに彼女は何とも無いみたい。


 これって僕は男だって認識さえされてなくて、されてたとしても全くの対象外ってこと?



「‥‥‥いえ、あの、一人でここに座ってると余計に寒くて‥‥‥少し話しませんか?」


「ええ、私は構いませんけど。では、テーマは何にしましょう? やはり日本の教育論でしょうか? やはり世界と比べると自主性発揮の機会が軽んじられているのではと」


「えっと、そのテーマは今はちょっと‥‥‥」


「では、学校と塾の学習意義の違いなどではどうでしょうか?」


「えっと、それもどうかと‥‥」


「そうですか? では、2より大きい全ての偶数においては二つの素数の和で表せるというあの有名なゴールドバッハの予想をご一緒に検証してみませんか?」


「あ、いえ、出来ればあまり固くないお話を‥‥‥」



 永井さんは僕とディベートでもしようとしているのだろうか? 

 それとも僕が先輩講師として彼女の仕事上の実力をはかろうとしてると勘違いしているのだろうか?



 カツカツカツ‥‥‥という足音がして、僕たちの座っているベンチの真ん前まで来て止まった。


 おや? 目の前に来た黒地にラメが光るドレスのスカート。


 その上に目線を上げた。



 げっっ! Σ(・∀・|||)



「あら、捜しましたよ~、古谷さん? こんな所にいたのね」



 うわっ、国分さんだっ! 何なんだよ? こんな所まで来るなんて!



「永井さん、戻っていいわよ。私が代わってあげるわ。ダメよ? パーティーの主役が会場から抜け出すなんて。新人さん?」


「‥‥‥はい、では私は失礼します」


 永井さんはスッと立ち上がって僕と国分さんに会釈した。



「待ってっ! 僕も戻るっ。もう落ち着きましたから」


 僕も即座に立ち上がったに決まってる!



 チックショウ! これからってとこだったのにっ! これってたぶん、永井さんを取り巻いていた連中の嫌がらせの仕返しに違いない。


 




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