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第十三話


 暫く郊外へ走り続ければ、人のいない開けた草地へと辿り着く。

 この場所なら良いだろうと足を止め、抱えていたカナを地面に降ろした。

 時間がないので早口で相手について説明する。

「背の高い銀髪がザカライア。精神崩壊した、ぶっ飛んだ強さの剣士だ。こいつの相手は俺がする。その間、もう一人に捕まらないように逃げ続けていてくれ」

 今の状況に怯えて話を聞いてくれるかも分からないと思ったが、意外にも覚悟を決めた表情でカナはヴァージルを見た。

「もう一人の男は、何をしてくるの?」

「知らねぇ。少なくとも、ザカライアや俺よりは弱いはずだ」

「分かった」

 足元から使い魔の狼を五匹呼び出し、カナの護衛に割り当てる。

 カナは突然現れた狼達に驚いた顔をしたが、ヴァージルの使い魔だと分かると安心したように身を寄せた。

「普通の狼じゃないから、乗っても問題ねぇ。逃げている間、俺とザカライアの近くには寄って来るなよ」

「うん」

 許された時間はそこまでだった。ザカライアとお付きの姿がすぐ傍まで迫って来ている。

「行け!」

 ヴァージルの合図に狼の背中にカナが跨ると、狼達は傍の森の中へと姿を消していった。

 それを見送る余裕もなく、肉薄したザカライアの剣撃がヴァージルに襲い掛かる。

 地面を割れさせるほどの威力のそれを身をかわす事で避け、影から使い魔を呼び出した。

「シルフ! デュラハン!」

 呼び出したのは風の精霊のシルフと、首なし騎士のデュラハンというモンスターである。

 シルフが真空の刃をザカライアに飛ばし、デュラハンが剣を振るう。

 それに合わせてヴァージルも剣を振り下ろしたが、その三つの攻撃全てをザカライアは神速の剣技で撃ち落とした。

「は、お前相手じゃ全力を出さねぇとな」

 苦笑いを浮かべ、更に使い魔を足元から呼び出していく。

 多種多様な二十匹の使い魔を、ザカライアを包囲するように展開させた。冒険者が見たら、青ざめて逃げるような強力なモンスターばかりである。

 しかしこれでも、ヴァージルにとって一部の使い魔に過ぎなかった。

 動きの鈍い使い魔を呼び出してもザカライアには避けられてしまうし、状態異常を引き起こす類のモンスターも、肉体改造され尽くしているので殆ど耐性を持っているからだ。

 操作精度を上げて使い魔達を一つの生き物のように操っていく。

 それを可能にするのは、ヴァージルの人間を逸脱した思考能力だった。

 どの方向からも逃げられないよう、使い魔達に一斉に攻撃させた。

 一点に集中した攻撃はまるで爆発が起きたように土砂を噴き上げさせ、一瞬視界からザカライアの姿が見えなくなる。

 通常、個の強さが数の力に勝る事はない。どれだけ強い武人であろうとも、多人数で囲まれればそれで終わりだ。

 ヴァージルは数多くの使い魔を使役するという手数の多さから、七刃の中で最も相手にしたくないと言われてきた自負があった。

 けれど視界が晴れた時、攻撃前と変わらず立っているザカライアの姿を見て流石に平然としている事が出来ない。

「おいおい。……そういや、七刃同士が戦うのは初めてか」

 今まで自分が見ていたザカライアの能力が本気では無かった可能性に思い当たり、額から汗を流す。

 カナを守る為に狼達との繋がりをある程度保ち続けたままだったが、仕方なくそちらの繋がりの割合を下げてこの場にいる使い魔達に集中した。

 狼達の状況が把握出来なくなるので、そちらは彼らの本能に任せるしかない。

 ザカライアに雨のような攻撃を空から地上から向けさせるが、全てが僅かな足さばきで躱された。

 弾幕の雨を抜け繰り出された渾身の突きは、余りに鋭く避けられない速さだった。

 しかし体を貫かれるその前に、ヴァージルの前にデュラハンが飛び出して盾になる。

 感覚の共有をしたままなので自分の体を貫かれたかのような痛みを胸部に感じたが、耐えてデュラハンに剣を手で握らせた。

 使い魔は大怪我をしていても影に潜らせれば、他の使い魔から生命力を分ける事でゆっくりと回復させる事が出来る。

 その間優秀な剣士であるデュラハンが使えなくなる事を考えると、手痛い損失だ。しかしその犠牲の価値はあった。

 武器をデュラハンの体に奪われている隙に、ヴァージルはザカライアに向かって全力で剣を振り下ろす。

 終わりだ。

 しかしヴァージルの剣が肩を斬った段階で視界が横に揺れた。足で蹴飛ばされたのだ。

 遠くまで吹き飛ばされた後に回転して着地したものの、蹴られた部分の腹が酷く痛んだ。

「剣技以外も使えるのかよ、お前」

 所詮操り人形だと油断していた。しかもデュラハンが剣を引き抜かれるついでに、完全に倒されてしまう。

 亡者の騎士であるデュラハンは鎧だけを残して黒煙となり消えてしまった。

「勿体ねぇ……」

 ザカライアに体技を覚えさせた教官を憎みつつ、態勢を整えて剣を構える。

 再び剣を交えようとした所で、ヴァージルに呼びかける声が聞こえた。

「暴食のヴァージル! これを見ろ!」

 顔を向ければ、もう一人の男に捕まって剣を突き付けられているカナがいた。

 最悪の状況だった。


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