表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
29/56

第十二話「解放の光―②」

「これは……」

 ジルートの自室を探し当ててその中を見ると、一人の少女が悲鳴にも似た奇声を上げていた。

 あの日の猫獣人族奴隷だ。白目を向いて何やら上機嫌になったかと思うと、何かを求めて呻き声を上げて、かと思えば何かを追い払うように逃げ回る。完全に廃人と変わり果てていた。

「一体これは……」

 すると、ヴァンが床に落ちている葉巻の吸い殻を一つ拾い上げる。だが……それは正確には葉巻と呼ばれるものではなかった。

「……大麻と言うものらしい。俺もよくは知らないんだがな」

 フランも初めて聞く単語だった。だが、確かにジルートからは「とてもいい気持ちになる薬がある」と誘われた事があった。

「五人目の勇者ガイウスが昔、教えてくれた。一時的には快楽を得ることができるらしいが、恐ろしいほどの中毒性と、依存性があるらしい。こいつが町中の人間を支配した最大の要因だ」

「なんでこんな恐ろしいものが……」

「元々は鬱病治療に使われてたものだからな。この世界にも普通に存在するし手に入る。悪用しようと思えば、それなりの地位と知識を持った奴なら、だれでもできる。例えば……正しい知識を得ているはずの四勇者の一人とかな」

 一瞬、寒気がした。四勇者と言えば、神仔族(ジークぞく)の崇める聖人。断じてそう言った計略をする人間などいない。……そのはずだった。

「なぜ……四勇者様のせいだと思うの?」

「そいつは秘密だ。……だがお前も“誰がそう予測したか”については、もう気付いてるんだろ?」

 その言葉で、フランは確信した一つの真実を思い出した。

 五人目の勇者……ガイウス=ガリヴァルディは生きている。そして、その正体はあの武器屋の主人だ。

 そう考えればすべて納得がいく。こんな拳銃を持っていることも、オリジナルの弾丸を作る技術があることも。閃光弾を改造して音量を上げるなんて芸当ができることも――。

 そして、ここでその話ができない理由は、まだスパイが、この建物の中にいる可能性があるから。ガイウスの存在は、革命軍最高の機密となるはずだ。いずれはバレることだろうが、とりあえず隠しておいたほうがいいだろう。

「どちらにしても、四勇者様の中に、そんな卑劣な計略を考える人がいると……そう言うこと?」

「ああ……アメリカという場所で暗殺者をやっていたというカイル=グリード……今回のスナイパーライフルも奴が用意したものだしな」

 フランは自分の右の拳の震えを感じ、きつく唇を噛んだ。薬で罪のない人々もボロボロにするなんて許せなかった。今は狂ってしまったこの猫獣人族の奴隷はフランを裏切ったわけだが……ここまで豹変してしまった彼女の事を、恨みきることはできなかった。

「……もしかしたら、ジルートはお前を救おうとしたのかもな」

「どういうこと?」

「最初は奴も、快楽を得るために大麻を使っていた。この奴隷が誘いに乗って使ったのもその頃だろう。だが、町に流れ出回るころにはこの薬物の危険性に気が付いた。そして、取り返しのつかない状態に陥った。奴隷の中でも特別視していたお前を……もしお前の事が女として好きだったとしたなら、町の状態が復旧するまで、合法的に隔離する必要性がある」

 確かに、白奴隷は完全に隔離される。黒奴隷もそうだが、黒奴隷では生命の保証はできない。それ以外では、経緯次第では大麻を使ってしまうかもしれない。白奴隷という立場は、大麻から身を守る一番の方法であり、それによって起きる犯罪からも、身を守る手段にもなりえる。

「で……でもそれで白奴隷なんて……」

「たしかにな……だが大麻は、脳にダメージを与えてしまう。確かにもっといい他の救い方があっただろうが、奴には正常な判断ができず、この程度しか思いつかなかったのかもしれないな」

「…………」

 もし、フランがジルートの誘いを受けて大麻を吸っていたら、どうなっていただろうか? その時はこの少女が救われていたのだろうか?

 あるいは町に出回っている大麻を、フランが手にしてしまっていたら……? そう言ったいくつもの不安が、ジルートを追い詰め最終的にフランを白奴隷にすることで救うという答えに導いてしまったのかもしれない。

「……大戦時にはジルートの事は、話でしか聞いたことがなかったが……清純な男であったと聞いていた。だから、奴隷省に潜り込んでいる俺の仲間から、“黄奴隷から白奴隷に落とされた奴がいる”と聞いたときは、制度改正で落ちぶれたかと思っていた。……だが、こんな裏があったとはな」

「……信用できないわ」

「別に信用する必要などない。お前はもう自由なんだからな。だがお前にとって、ジルートは復讐すべき相手だった。そのことに変わりはない」

 確かにそうだ。ジルートや国によってフランの人生は狂わされた。そうでなくても、彼女は奴隷が存在することを正しいとは思えない。

「……ジルート様」

 ――――だが、ジルートが最後に見せた笑顔。それは自分に対しての好意。そして何より、フランが奴隷としてではなく普通の人として戦った事に対しての喜びから来たものであるならば……。そう考えると、どうしようもなく切なくなってしまう。

 ――――自分の運命に翻弄されながらも、フランは確かに、大きな変化を感じていた。




 ――――だが、同時に……ジルートが大麻に侵されていたのであれば、彼の本当の実力は、とんでもないものだったのではないか? ……その不安が、彼女の胸に刻まれるのだった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ