暖かい一日
『トン…トントン…トン…』
やっぱり大根はいつまでたっても上手には切れない。硬いし大きいし、疲れるし、不便なの。
でも、今日は一年に一日だけ、ママが帰って来てくれる日。もう来てくれてるかも。
ナスとキュウリに爪楊枝を刺して、お仏壇に置いとく。
なんだかウキウキするなぁ。
何も起こらないクリスマスよりも、他の日と何も変わらないお正月よりも、ずっとワクワクする。
「スー…」
深呼吸して、目を瞑って、耳を澄ませてみる。
私の心臓の音と、空気の音が微かにする。
でも、だけど、触ってくれなくったって、見えなくったって、声も聞こえなくったって、そこにいてくれればいいの。
それで、また一年、頑張れるから。
『シュウ…プシュウ…』
お鍋の音だ、そろそろおでんが出来たみたい。
急いで台所に行って、火を止める。
『ガタン!』
やっぱりいつもより多く作ると重たいな。
持ち上げると、腕とか足とか、プルプルする。
『ドシン』
大きなお鍋を食卓に置いて、一息つくと、いつもは使わない二つ目のお皿を出す。
おでんを二つのお皿によそって、一つは置いておく。
これは、ママの分ね。
ちょっと大根と人参は失敗しちゃったけど…。
でも、元気だよ。
お料理も上手になったし、もうすぐ小学二年生になれるし。
相変わらず学校じゃ独りぼっちだけど…でも、今日この日があるからやっていけるんだ。
「もぐもぐ…」
ママの分のおでんをじーっと見つめる。
もしかしたら、食べてくれるんじゃないかって。
「ごくん…」
たってた湯気も消えてく。
そろそろお風呂の時間みたい。
紙切れに、置き手紙を書いとく。
すぐに戻るねって。
端っこに、咄嗟に思いついた絵も書いとく。
丸に、点と線のお顔。
名前は…にっこりさん。




