ホーンラビット後編
ボロボロになっているカイにサキが駆け寄った。ミの村の戦闘頭、サイガが、リーダーを代わる。サイガは、サイカの父ちゃんだ。
「お前らよくやった。野郎ども、一匹も逃がすんじゃねえぞ」
数は、ホーンラビットの方が上だが、向こうには、武器も魔法もない。一層は、おれたちのテリトリーだ。人族が、支配者だと思い知らせてやる。
ピピピピ、ピピーーーン
「うおーーーーー」
両者がぶつかる。おれとサイカは、サキを追ってカイに駆け寄った。
「バカやろう、お前らは、戦闘に参加するんだ」
「でも‥」
「あんたは黙ってな。二人ともいいから、お行き」
「サキ、済まねえ」
「ハー私たちは、まだ一層ね」
「サイカ、行くぞ。ラビットキングは、スキル持ちかもしれない。何があるかわからない。バリヤーが出来るのサイカだけだぞ」
「分かった」
サイカは、おれの勘が当たるのを知っている。実際、ラビットキングのスキルを見ると、スキル欄に、斬波というスキルがある。あれはやばい。風障壁を通り抜けるかもしれない。下手をすると死人が出る。その上、普通のホーンラビットに、ラビットキックのスキル持ちがゴロゴロ。これは、生まれて初めての強敵集団との戦いだ。
「お父さん、どんな感じ」
「おう、サイカか。お前らは休んでいいんだぞ」
サイガは、司令塔。腕組みして戦いを見ていた。
「オビトが、ラビットキングは、スキル持ちじゃないかって」
「多分な。あいつは、まだ動いていない。動いたら父さんが対処するさ」
「分かった、気をつけて」
「お前らは、端にいる腰が引けた奴を頼む。逃がすんじゃねえぞ」
「了解」×2
カーク
サイカの父ちゃんは、アーマーにショルダーバックル。腰には剣を下げているというフル装備。森の奥にいるジャイアントベアーと戦うような装備をしている。娘の節目だったからゲン担ぎをしたのだろう大正解だ。
おれたちは、最初の5匹と変わらない普通のホーンラビットと戦うことになった。今度は、カークもおれも遠慮しない。ホーンラビット一匹に2人と1匹掛りで倒す。
「サイカ、カーク。おれが、あいつを群れから引き離す。待ち構えて二人で倒してくれ。向こうの応援が来たら、ディフェンスするから」
カーク
「了解!」
三人で連携できるんだったら、簡単には負けない。それに端っこというのは、結構良いポジションだ。相手を分断できる。
おれは、短剣を抜いて、端っこにいる二匹の間に突進した。そして、一番端っこの奴の肩や腹を刺す。横にいるホーンラビットには目もくれないで、大声を出して威嚇する。実際は、おれを挟撃するチャンスなのだが、そこは獣。考えが足りない。おれの攻撃を嫌がって端っこから離れる。元々腰が引けていた奴だ。思った以上に逃げる。
「いったぞ」
「カーク、『砕牙』!」
カクーーーン
カークは、ホーンラビットの頭を掴んで、地面に叩きつけた。
「サイカ、ヤレ!」
「『鎌イタチ』!」
サイカは、動けないホーンラビットの首めがけて鎌イタチを撃つ。とにかく向うの方が数が多いのだ。一番効率の良い戦いをする。カークは、返り血を浴びないように、ごろんとホーンラビットを反対側に向けた。
サイカを乗せていると言っても、カークは軽いので、もがかれたら逃がしてしまう。二人のコンビネーションがいいからできる攻撃。
「次だ、こいつは、蹴ってくるぞ」
「ラビットキックは、後ろ蹴りよ。前に回って」
カーク
「ダメ、後ろを向いたわ。『回転蹴り』!」
カギャーー
カークは長い脚で後ろ回転蹴りをした。ホーンラビットと足の長さが違う。ドガンとホーンラビットの足を蹴って、すっころばした。
オビトは、風障壁で防戦中ね。私たちでやるしかない。
体制が悪くて鎌イタチを撃てない。サイカは、とっさに短剣を抜いて、ホーンラビットの足にそれを突き立てた。
ピピーーン
「ムチャ、スルナ」
カークが、サイカの襟首を噛んで、自分の背中に戻す。
「でも、動きを止めたわ」
短剣は、ホーンラビットの足に刺さったまま。敵は逃げようとしているが、動きが遅い。
「カーク、回転蹴りから『砕牙』よ」
ガギャーーー、ガチン
「イマダ!」
「『鎌イタチ』!」
「モウ、ジュウブンダ。オヤジサンノ、トコロニ、ヒクゾ」
「ごめん、気をつける」
その時、最前線の味方の悲鳴が聞こえた。
「ぎゃーーー!」
「ナンダ?」
「やばい。斬波だ。風障壁を通り抜けたぞ。カーク、あの、おっちゃんを助けてくれ」
おれは、防戦しながら、倒れた大人を指さした。
「カーク、行って。私が、バリヤーで防御する」
カーク!!
斬波は、波状攻撃の様に鎌イタチを飛ばす魔獣スキル。おれたちが使うザンより強力。斬切りは、鎌イタチより強力なのだが、一発だけ。斬切りは、わざとあらくて強い風を起こして相手に、ぎじゃぎじゃの傷を負わす。その時、大きな音がするので、とどめ以外あまり使わない。斬波もぎじゃぎじゃの傷を負わす。斬波も傷の治りが遅い。
風障壁は、同じ属性で同じ性質の攻撃は、素通りさせてしまう。不味いことになった。
この時、端から、サイカ。そして奥から父親のサイガが飛び出した。しかし、端とはいえ前線にいたサイカの方が、先に到着。キングラビットの斬波を受けることになった。
「サイカ、避けろ」
父は、子の心配をして、ケガ人が見えていない。
「『バリヤー』!」
それは、青い風障壁と違って、黄色い光の盾。それも、カークを覆うほどの大きさ。斬波は、この強力な光の盾を破ることが出来ない。ボボボボボッと、バリヤーに音だけが響いた。
「モゴモゴ〈咥えた〉」
「行って」
「サイカ、よくやった。後衛で救護してやれ」
「お父さん、風障壁が効かない」
「大丈夫だ」
サイカが、前線から下がるのと同時に、父親のサイガが、まだ残っているバリヤーの横をすり抜けて、キングラビットの前に出た。
「うおおおーーーーー」
そこからのサイガの戦いは、鬼人じみていた。魔法を使わずキングラビットに突っ込んだ。サイガは、アナログな戦いを好む。剣士として戦いだした。逆にキングラビットは、魔法職として距離を取りたい。キングラビットが、後ろに飛ぶ。キングラビットは、逃げているわけではないのだが、味方のホーンラビットには、そう見えてしまう。人間の剣幕に押されてキングラビットを守るように退散した。
サイカとカークは、サキとカイがいる所まで後退した。そこで、父親の剣幕に追い立てられるホーンラビットを見て安心した。今日の戦いは終わった。
「サイカのお父さん凄いわね」
「それより、おじさんの治療を手伝って」
「酷いわ、ギザギザの傷」
戦いが終わり、治癒魔法が使える戦士が、もう2人加わって、ケガ人を治癒した。あまり血を流し過ぎると、体を活性化させる治癒魔法の効果が出ない。早い対処が必要だからだ。