表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
8/9

肆つ


 だれも知っていることであるが、鎌倉の地には大仏がある。

 仏教など信じているわけではないけれど、生まれ育ってきて、こうしてずっと仕事の拠点としている地に、こうも近くにあるのだから、見ないわけにもいかない。

 聖なる力に縋れるものなら、頼ってみたいと思う。


 贖罪の意が伝わるかわからない。

 こんなものは、ほとんどを自己満足が占めることだろう。

 大仏とはいかなくとも、仏像を贈ってみたくなった。


「許してくれとは言わないと、そう言いたかったのだけれど、……ごめん、ごめん、許してはくれまいか。信じてはくれまいか」


 一人でにっこりと笑っている弟に、手渡した仏像。

「ありがとうございます。とっても嬉しいです」

 大切そうに抱きかかえてくれるのは、私だって嬉しいけれど、こうも喜ばれてしまうとそれはそれで居た堪れない。


 こんなことがあってしまって、もうバラエティー番組には出にくくなってしまったな。

 それを弟は謝ってくれるけれど、謝らせている私が不甲斐なくなる。

 守れなかったのは私なのに。守らなかったのは私なのに。

 これだけ努力をしているのだから、最後は幸せで終われると信じて、尚も私は努力を重ねるけれど、弟のことが気がかりでならなかった。


 安全は守っているけれど、今はそのために自由を奪ってしまっている。

 笑顔で告げてくれる言葉は、謝ったりお礼だったりなのだけれど、心の中では私のことを怨んでいるに違いなかった。

「愛しています。お兄ちゃん!」

 まるで私の罪を全て洗い流して、許してくれているかのような言葉に気が狂いそうだ。


 本当に、本当にそれでよかったのだろうか。

 何度も私を責める、残り続けるその疑問に、胸が強く締め付けられる。

「ありがとう。私もだから、私もお前を愛しているから」


 私()の意味は、私の中では違っていたことだろう。

 私もお前を愛しているのではなく、私も私を愛しているというのが、正解の使い方なのだろうと思わずにいられない。

 だからこそ、これらの言葉に感じ取ってしまう。


 呪いのように傍に寄り添っていたことを知っていた。

 気付かないはずがなかった。どれほど私が、孤独であるかということ。

 聖なる力は私の呪いを強めたようで……



評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ