肆つ
だれも知っていることであるが、鎌倉の地には大仏がある。
仏教など信じているわけではないけれど、生まれ育ってきて、こうしてずっと仕事の拠点としている地に、こうも近くにあるのだから、見ないわけにもいかない。
聖なる力に縋れるものなら、頼ってみたいと思う。
贖罪の意が伝わるかわからない。
こんなものは、ほとんどを自己満足が占めることだろう。
大仏とはいかなくとも、仏像を贈ってみたくなった。
「許してくれとは言わないと、そう言いたかったのだけれど、……ごめん、ごめん、許してはくれまいか。信じてはくれまいか」
一人でにっこりと笑っている弟に、手渡した仏像。
「ありがとうございます。とっても嬉しいです」
大切そうに抱きかかえてくれるのは、私だって嬉しいけれど、こうも喜ばれてしまうとそれはそれで居た堪れない。
こんなことがあってしまって、もうバラエティー番組には出にくくなってしまったな。
それを弟は謝ってくれるけれど、謝らせている私が不甲斐なくなる。
守れなかったのは私なのに。守らなかったのは私なのに。
これだけ努力をしているのだから、最後は幸せで終われると信じて、尚も私は努力を重ねるけれど、弟のことが気がかりでならなかった。
安全は守っているけれど、今はそのために自由を奪ってしまっている。
笑顔で告げてくれる言葉は、謝ったりお礼だったりなのだけれど、心の中では私のことを怨んでいるに違いなかった。
「愛しています。お兄ちゃん!」
まるで私の罪を全て洗い流して、許してくれているかのような言葉に気が狂いそうだ。
本当に、本当にそれでよかったのだろうか。
何度も私を責める、残り続けるその疑問に、胸が強く締め付けられる。
「ありがとう。私もだから、私もお前を愛しているから」
私もの意味は、私の中では違っていたことだろう。
私もお前を愛しているのではなく、私も私を愛しているというのが、正解の使い方なのだろうと思わずにいられない。
だからこそ、これらの言葉に感じ取ってしまう。
呪いのように傍に寄り添っていたことを知っていた。
気付かないはずがなかった。どれほど私が、孤独であるかということ。
聖なる力は私の呪いを強めたようで……