参つ
「はぁっ?!」
影では、感情がないとすら囁かれるほど、私は冷静であった。
取り乱すことにより、状況が悪化することは確実であることを、若いうちから我慢を重ねていた私にはわかっていた。
だけれど、驚きを抑えられなかった。
弟が襲われたのだそうだった。
私が汚い手を使っていたことを、知っている人はいくらかいたことだろう。
または、知らなくとも、噂が大きく広がったもので、耳にしたことのある人は多くいたことだろう。
きっと弟が襲われたのだというのは、私が気に入らないからなのだろう。
直接、私に勝負を挑んでくれたらいいのに。
可愛い弟が傷付けられたのだということが、それもきっと私のせいで傷付けられたのだということが、苦しくてならなかった。
犯人は、私がそちらの方が苦しむであろうことを、知っている人物だ。
「大丈夫か。すまない、私のせいで」
病室に駆け込めば、思ったよりも元気そうに弟は笑っていた。
これ以上この子をひどい目に遭わせたくない。
「僕はお兄ちゃんに心配を掛けたくない。僕が消えるから、それじゃあ駄目なのですか?」
駄目だよ。駄目に決まっているだろう。
お前を犠牲になどできるものか。
余程、怖かったのだろう。
瞳を潤ませる弟を抱き締めて、私は呟く。
「すまない」
この謝罪の残酷性を理解していた。
弟はここにいる。無事でいる。
けれど私は彼を守れない。
守れないから、守ることを諦める道を選ぶ他なかった。
それは勝手なことであったし、許されることではなかったのだろうが、それが私の選んでいく道であった。
それが今回の事件を引き起こした原因でもあったろう。
構わず私は彼に告げた。
「消えておくれ。私はお前を守れなかった、すまない」
こうする道しかないと、いくらも私は繰り返す。
「守ろうとしてくれただけで、お兄ちゃんが僕のことを想ってくれている、それだけで僕は嬉しいです。どうか謝らないでください」
笑顔に無理した様子はなかった。
本当にこれでよかったのだろうか。
さすがの私でも、私を騙しきれていないところがあった。
「もっと安定したら、お前を生き返らせてやるからな。きっとだからね」
「……」
こんな顔をさせてしまう私が憎い。




