三つ
「接客のときには、笑顔を忘れてはいけないよ。お前は可愛いんだから、お前は笑顔が似合うんだから、それを忘れないようにね」
そんなお兄ちゃんの言葉があったから、どんなときでも、笑顔を浮かべて僕は店頭に立った。
ネットとかでも噂になって来たし、女性客も増えてきたし、これがお兄ちゃんの目的だったのだろうから、愛想を振り撒いて接客を行う。
古くからのお客様が、批判的に思っていることは僕にもわかった。
つまりお兄ちゃんにわかっていないはずがないのだけれど、どうするんだろうと思っていたら、何も考えていないはずはなかった。
何をしたのだかは教えてもらえないけれど、一気に減ったのである。
はぐらかされるか、「お話をして、誠意を伝えたんだよ」と笑顔で告げられるかだった。
表情には一切の疲れさえも見えない。
それなのに、何をどう言えようか。
もう店のなくなる心配はなくなったことだろうけれど、こうなっては、お兄ちゃんをトップに立ってもらいたい。
それが間違えなく正しいことであると、僕は強く信じていた。
お兄ちゃんしかいない、僕の中でそれは事実だった。
「いらっしゃいませー」
「あっ、すみませ~ん、一緒に写真とか撮ってもらっちゃってもいいですか~?」
「構いませんよ」
商品ではなく写真を撮るために来ているような女性もいたが、僕は笑顔で全てに対応した。
これがお兄ちゃんの教えを守ることだ。
「いらっしゃいませー」
「めっちゃ美味しそうだし、めっちゃ可愛いですね。あの社長さんが新商品とかって考えているんですかー?」
「何それ! 可愛さ爆発じゃないのよ~」
回答に困るけれど、笑顔は忘れない。
「そうですね。兄が基本的には原案を描いています」
大体何を言ったところで、聞いていやしないのだけれど、笑顔で答えるということが大事なのだと僕は胸に刻んでいた。
僕が何を思うかとか、僕がどうあるだとかではなく、お兄ちゃんの指示に疑問を持たずに従うことが一番なんだ。
だから、僕の判断が求められるようなことって困るし、勝手なことは言えないんだよね。
パパのためにもお兄ちゃんのためにも、一生懸命働かなくっちゃな。
「日本一流行っている店にしよう。老若男女受け入れられるようにして、かつ、高級感と伝統も守ったままにしたいね。見た目重視なところと高級ブームとがあるから、売りようによっては難しいものでもないだろう」
「鎌倉制覇はすぐそこですもんね! 東京からお越しのお客様も多いですし、なんと、大阪の方からわざわざお越しのお客様もいたのですよ。お兄ちゃんの力があれば楽勝ですっ!」