言葉が消えた!!
注意だ。
鬱展開が多々あるぞ。
心が疲れているときには読まないこと推奨するぞ。
悪口が飛び交うぞ。
便所飯するキャラが出てくるぞ。
駄目な方は、どうぞ読むな。
私は、トモコ、中学生。
昨日、小学校からの親友と絶交した。
なぜって?
あの子と昨日の放課後、いつも通り好きなアイドルの話で盛り上がろうとしたら。
「キモッ、死ねっ」
そう言われたから私はこう言った。
「そんな事、言うなら絶交しちゃうよ。ケイコちゃん!!」
そうしたらケイコちゃんに、こう言われた。
「ブス」
ケイコちゃんもどちらかと言うと可愛いとは言えない容姿をしているのにケイコちゃんが私のことをそう表現したのがショックで走って逃げ出して、そのまま家に目を腫らしながら帰った。
夕飯のおばあちゃんのシチューが心に染みた。
そんなこんなで教室に入ってケイコちゃんと会うのがとても気まずい。
で、教室の扉の前で突っ立ってたら始業のベルが鳴って、私は観念して教室に入った。
拍子抜けだった。ケイコちゃんが教室にいないのだ。
先生の話によると今日はケイコちゃんはお休みらしい。
ちょっと同情して、お見舞いに行こうかとも考えたけれども、私の同情より私の意地の方が強かった。
まあいいもん。私の友達はケイコちゃんだけじゃないもん。
まだ昼時だけど、今日は忙しかった。
1時間目は3階の音楽室で鑑賞
2時間目は体育館でバスケットボール
3時間目は2階の教室で英語
ようやくお昼だー!!
おばあちゃん特製の弁当箱を広げて
あれそう言えば、まだ学校に来てから一度も口を開いてないな。
まっ、どーでもいーか
「キッモ」
ふぇっ!?
今なんて言った私!?
キッモて言ったの!?
サイテーじゃん私
いやいや、気のせいだよね。
もう一度いただきますって言ってみようよ。
チャレンジ&チャレンジ
「死ね」
「ちょっとぉ、ケイコォ、お食事中に汚い言葉遣いはやめてちょうだい。不愉快、不快」
キムラさんがとても嫌そうに言った。
「キッモ」
「きー、もーっ頭きた。今のあなたと一緒に食卓を囲むぐらいなら便所で食べた方が幾分かマシね」
そう言ってキムラさんは、弁当と箸を持って廊下に出て行った。
「死ね」
ねえ、どうして?
なんで言葉をしゃべれないの?
私がしゃべれるのはもう一生『キッモ』と『死ね』だけなの?
「禿げろっ」
バリエーションに『禿げろ』も加わったけれども無意味ね。
口は当分開かない方がいいのかな?
そうすれば、問題は起きないのかな?
でもでも、口を開かずなにもしゃべらないって、不幸じゃない?不便じゃない?
「ねえ、どうしたのキムラさんに何か嫌なことでもされたの?」
「禿げろっ」
ああ、だまってるって難しいな。
ああ、自分の言ったことを勝手に曲げられるって悔しいな。
「なんだよ、せっかく心配してあげたのに」
ああ、私の瞳から涙が出てきた。
もう今日は、帰ろう。
すごい疲れた。
私は上履きのまま家への道を辿った。
ぐぅ~~
弁当は教室に置いてきた。
カバンも教室に置いてきた。
おなかがすごいヘった。
家には、今おばあちゃんがいるはずだ。
おばあちゃんになにか作ってもらおう。
家に着いた。
普段と同じく鍵はかかっていない。
「キッモ」
「おや、帰ってくるのが早かったねえ、どうしたんだい?」
「死ね」
私が悪いわけではないのにおばあちゃんに無性に謝りたかった。
でも、今の私には不可能なこと。
おばあちゃんと一緒にいる今の自分を想像したら、なぜだかとっても辛くて、大好きなのは間違いないおばあちゃんと一緒にいたくなくて、私は行く当てもなく空かした腹のまま上履きで家からも逃げ出した。
たどり着いたのは、むかし遊んだ公園。
今の私は、学校をさぼってブランコに乗る不良少女。
懐かしいな、全てが。
色も、匂いも、雰囲気も、滑り台も、ジャングルジムも、鉄棒も、ベンチも、もちろんブランコも、
みーんなまとめて懐かしい。
ここで初めて遊んだのはケイコちゃんと一緒で10年以上前だったかな?
そういえば、昨日のケイコちゃんも私と同じで自由にしゃべれなくなっていたのかも!
そう思ったらケイコちゃんに会って謝りたくなってきた。
『きっも』『死ね』『禿げろっ』しか言えない私だけれどもケイコちゃんに伝えたい思いは本物だから。
私の足はケイコちゃんの家へ自然と動いていた。
その道中、若いママさんが赤ちゃんを肩に掛けてスマホを見ながら赤信号を進もうとしていた。
私は思わず叫んだ。
「死ね!!」
若いママさんは立ち止まって振り返って私を強く睨みつけたが、二つの命は助かった。
ふぅー
私はため息を付いた。
若いママさんはそのまま行ってしまった。
私はケイコちゃんの家の前に着いた。
ピンポーン
インターホンを鳴らした。
「死ねっ」
ケイコちゃんの声だった。
私は嬉しくなってインターホンにこう言った。
「キッモ」
ケイコちゃんの家の扉が開いた。
ケイコちゃんは裸足で私に近づいて|抱擁≪ハグ≫してきた。
私は、言った。
「キッモ、死ね、禿げろっ、キッモ、死ね、禿げろっ」
私は、言いたかった。
『ごめんね、ケイコちゃん、信じてあげられなくて、絶交だなんて言って』
ケイコちゃんは、言った。
「キモッ、死ねっ、ブス、キモッ、死ねっ、ブス」
ケイコちゃんの言いたいことは、実のところ分からない、でもケイコちゃんが私に謝っているって信じたい。
信じちゃダメかなぁ神様。
端から見れば上履き制服女と裸足パジャマ女が互いを罵倒しながら泣きながら抱き合っている。
そんな意味不明の状況だろう。
でも、今の私たちの言葉は自分以外の誰にも理解できない。
だから、この状況は私たちだけにとって意味が通ればそれだけで有意義すぎるほど有意義なんだと思う。
「おや おや どうされましたか?もしやあなた方はキモイと死ねしか言えない症候群を患っているのですか?」
特徴的な髭を生やして木の箱を担ぎ金ピカコーデの怪しい男が二人のJCに言った。
「「キッモッ?」」
ケイコちゃんと私の声がハモったのが少し嬉しかった。
とくん、ケイコちゃんだか私の心臓だかそれとも両方だかわからないけど鼓動がとても強くなった。
「やっぱり、そうでしたか。もう安心です。なぜなら、キモイと死ねしか言えない症候群の専門家であるこのワタクシがやってきたからです」
そういって、怪しげな男は自分の特徴的な髭を伸ばす動きをした。
「「死ねっ!?」」
また、ハモった。
とくん、また大きくなった。
「この薬を飲めばたちまち普通にしゃべれるようになります。ただし副作用として誰かに悪意を込めてキモイや死ねなどの言葉を一生涯、話せなくなります。それでも飲みますか!?」
私は考えるよりも速く頷いていた。
目の前の怪しい男を信じてみたくなったのだ。
「そうですか。では」
そういって髭男は私になにか液体を飲ませた。
ケイコちゃんにも飲ませた。
「「なんだったんだろうね?今の」」
またハモった。
「さてと、この作品を読んでくださった皆さん、お付き合いいただきありがとうございます。もしも、あなたの周りにもキモイと死ねしか言えない症候群の患者とおぼしき人間がいましたら優しくしてあげてください。そうして、私にお伝えください」
そう言って彼は、特徴的な髭を伸ばす仕草をした。




