第8話
緊急要請
中段を狙っていたはずの雹の足が狙いを変えて下段へ変化し、そこから急激に角度を変えると無理な動きで革靴は上段にまで蹴りを持っていく。
自在に動く蹴りは勇司の顔面を捉えるが、ダメージはあるもののそこは意地で踏みとどまりダウンだけは避けていた。
しかし持続力に優れる雹の特技は休む事なく弱りつつある勇司を休ませる事なく迫る。
攻撃へ操る両手のナックルダスターは腕を脱力してダランと下げた状態から、正確に勇司の顔面へ伸びていくがナックルダスターは硬い音と共に受け止められていた。
手の平に出現させた煙草入れで受け止めた勇司は態勢を立て直すために、下がると同時に特技を使う。
【喫煙所】
何もない訓練室の床から出現する灰皿に雹は足を取られバランスを崩すが、革靴が何事もなかったかのようにバランスを立て直し綺麗に着地する。
すると勇司は煙草入れから銀色に輝く煙草を取り出し、スムーズな動作で火をつけていた。
「予想以上どころかまだ特技の序の口、宵の口しか見せてないだろうに、こりゃ部下が強いな。班長としては嬉しいような気もするが複雑な気分も混じるもんで。」
【真銀煙・甲冑】
銀色に輝く煙を吐き出すと勇司は自身の身体に纏わりつかせていく。すると煙は完全に実体化し全身甲冑となり勇司を包んでいた。
(少しは班長らしきとこを見せねば。威厳が大事だよな、威厳が。)
そして甲冑姿になった勇司を更なる憧れの眼差しで雹は見つめている。
(この特技、七五三の時に鎧兜を着せてもらったやつだー。カッコいいなこれっ。)
瞳を輝かせながらも雹は特技を維持しつつ攻撃に出ていく。付喪神の憑いた革靴による高速移動から、ナックルダスターによる一息の間に四連撃が角度を変えて襲いかかるが、煙で出来た甲冑はその全てを正面から受け止めきる。
そこでようやく勇司は攻撃に動いていた。
危機を察知した革靴が飛び出し勢い良く甲冑の顔面に向かうが、飛んでくる革靴を勇司は顔を振って躱し一歩踏み込む。
そこから身体に染み付いた動きで堅い甲冑越しの左右のインローを二発打ち込むと、雹は膝から崩れ尻もちをつき模擬戦の決着がついていた。
降参の意思を示した雹を見て勇司は着ていた甲冑を煙に戻し、倒れている雹に手を伸ばす。
「なかなかオジサンもやるだろ?」
憧れの表情で見上げる雹に対し笑顔を見せる勇司ではあるが、模擬戦の決着を見ていた陵司と明香が声を上げる。
「おっ!」
「あらあらっ?」
避けたはずの革靴が急角度で持ち主の元へ勢いを落とさず戻ってくる。それは手を差し伸べている勇司の後頭部に直撃し、完全に油断していた一撃に意識を奪われそのまま雹の胸の中へと倒れ込んでいった。
「勇司オジサーン!」
雹の慟哭が訓練室に響く中その時、要請音が鳴り情報端末を明香が黒いローブの中から取り出す。
「班長、と呼びかけても無駄ですね。陵司君行きますよ。」
「んっ?どこに行くんだ明香姉?まだ俺の模擬戦済んでねえぞ。」
「要請です。仕方ないので二人で行きますよ。ああ見えても班長のローは効きますから、雹君もしばらく動くのは難しいでしょうしね。」
「そいつは面白えなっ、行くか明香姉。」
「ええ。雹君、班長が目覚めたら伝えておいてください。・・・役立たずな中年ですねと。」
勇司を胸に抱きかかえた雹を訓練室に残し、二人は要請のあった現場へと向かっていく。
そこで陵司は早速の現場を体験する事になるのであった。
かなりバタバタしてて更新が遅れてしまいました。主人公その二の模擬戦は足早に終わり、次は主人公その一の出番です。




