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第41話

暴走特急


新幹線の車体が激しく揺さぶられる中、運転席から走って帰ってくる明香に二人は報告する。


「こっちはなんとかなりそうだ。」


「多分だけど外せるかなー。」


二人の言葉に軽く頷いた明香は、後ろから衝突される衝撃に座席に捕まりながら指示を出す。


「じゃあいくよっ。雹任せるからね。」


「はいっ、じゃあ二人共捕まってくださいっ。」


新幹線の床に手を触れた雹が特技を使っていく。


【付喪神・新幹線】


三人の乗る最後尾の車両が特技によって意思を持ち、運転席のコントロールから外れる。そして連結器を車両の意思で外すと、付喪神の付いた車両はブレーキを掛けていた。

車輪がレールと金属同士の擦れる嫌な音が響き、更には断続的な衝撃が後ろから襲ってくる。


それでも三人の乗る車両は寝台特急を少しだけ抑え、前の車両との間が開いていく。

強引に押されながら進む三人の乗る車両は、一両編成になりながらも車輪が火花を上げながらスピードを落とそうとするが、明らかに押し負けていた。


「これ止めるのは少し無理かも。陵君あとはお願いっ。」


新幹線に付いた付喪神によって雹は少しでもスピードを落とそうとするが、ブレーキを掛けすぎても脱線してしまうスピードで押され続け、ほんの少しスピードを抑えるのが精一杯であった。


「了解、じゃあ行くかっ。」


雹から頼まれた陵司はあっさり了承すると一つの駒を取り出し、特技を使う。


【持ち駒・桂】


駒は長身の一見スリムではあるが、妙に下半身のしっかりした木人形へと変化する。更に木人形に触れ、陵司は特技を使っていた。


【盤面の棋士】


木人形は陵司の身体に吸い込まれるように消えていき、見た目に小さな変化が起こる。ほんの少しだけ伸びる身長、肉の量が減る上半身、そしてやけに発達する下半身となるが、ロングコートに隠されているため、大した変化は見られない。

しかしそれでも陵司自身は変化を如実に感じていた。


(身体が軽い、ここじゃ軽く飛んでも頭を打つぐらいか。まあ、俺の特技は本当なら俺じゃなくて駒に行かせた方がいいんだろうけど、それはガラじゃねえってやつだよなっ。)


高速で進み続ける車両は前方が丸空きで物騒極まり無く強風が吹き付けるが、そこから陵司は軽く飛び天井に手を掛け登ると身軽に新幹線の上に立つ。バランス感覚に優れる特技で強風と衝突の衝撃の中でも平気で歩く陵司は、新幹線の一番端まで行くと寝台特急の運転席に座る大井と視線があっていた。


必死の形相でマスコンを操作する大井に向かい、陵司はゆるく膝を曲げると立ち幅跳びの要領で新幹線の上から一気に跳躍する。

高速で進む中、恐怖と強風を感じながら飛んだ陵司は、寝台特急のフロントガラス目掛けて一直線に宙を飛んでいた。


助走はなくとも綺麗な空中姿勢で飛んだ陵司の飛び蹴りはフロントガラスを突き破り、そのまま大井の顔面までも蹴り飛ばす。

強い衝撃を強靭な足腰で受け止め、狭い運転席に着地すると既に大井は立ち上がる気配さえなかった。

すると寝台特急は急激にスピードを落とし、みるみる新幹線との距離がひらいていく。


とりあえず大井に手錠を掛け確保するが、無人になった運転席を見てどうにも操作方法が分からず陵司は悩む。


(これどうすりゃいいんだ?どれがブレーキなのかすら分かんねえぞ。だけどこのまま走らせる訳に行かねえよな、もうそこ終点だろ。)


運転席のレバーを適当に動かしアタフタしていると、寝台特急は次第にスピードを落としようやく停車させる事に成功していた。

しかしそれはそれで、停止した車両内で陵司はまたも悩む。


(止まるには止まったな。だけどこんな中途半端な場所で止まらせとくのも問題ありか。)


再び発車させようか悩んでいるとそこに一両の新幹線がバックで戻り、車内からは手を振る雹の姿が見える。

そして寝台特急の目の前に新幹線は停止すると明香が降車し、そしてどこか楽しげに寝台特急に乗り込んできていた。


「後はあたしが運転するわ。雹と新幹線で戻ってちょうだい。」


するとすでに確保された大井が目を覚まし、二人を恨むような目つきで睨みつけてくる。


「あんたら、特局だろ。オレはこの車両が好きなだけなんだよっ!あの新型さえなければまだまだコイツは走れる。コイツは歴史に残るべき車両なんだよっ。」


すると明香は呆れたように大井を見つめ、そして冷静な声を出していた。


「それも歴史よ。この『プロメテウス』が運行を始めた時、それまで走っていた寝台車『ヒバリ』がその役目を終えたの。この列車がそうであったように、バトンタッチを繰り返して歴史は作られていく。分かった?」


一息に説明する明香を呆気にとられた様子で見上げていた大井は黙って頷き、諦めたように俯く。

そして黙って見ていた陵司は気になる事を質問していた。


「それにしたって明香姉、こんなの運転出来るのか?」


当たり前とも言える質問に明香はごくごく普通に答える。


「これくらいは常識の範囲内よ。普通に生活していれば得る事の出来る範囲の知識ね。」


それでもどこか楽しげに運転席に付く明香を置いて、陵司は新幹線に乗り込んでいく。


二つの車両を安全運転で車庫まで送り届け、容疑者を警察に引き渡すと脅迫事件は無事解決となるのであった。



とりあえずこの事件は終了です。

だけど次こそは肉弾戦的な物が書きたい。

戦闘シーンを長いこと書いてない気がしますが、思いついた容疑者の特技が戦闘向きじゃないとどうしようもないんだよなー。

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