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第38話

魔女の秘薬


陵司と陵司によく似た木人形の王が互角の模擬戦を繰り返し、雹が柔軟トレーニングをしている訓練室の片隅では、明香が実験台に向かい大型のビーカー片手に怪しげな笑みを浮かべていた。


「二人共、少し手を止めて。訓練に使えるいい秘薬が出来たわよ。」


呼ばれた陵司と雹の視線の先には玉虫色の液体がなみなみと注がれた大型のフラスコがあり、明らかに普通ではない雰囲気が漂っている。


「一応聞いてみるけどよ、何の薬なんだそれ?」


「カナブンの色に似てるねー。」


二人の反応は気にせず楽しそうに明香は答える。


「これは飲むと身体の動きが八分の一程度のスピードに制限されるという魔女の秘薬よ。これを飲めば模擬戦で当てても怪我の防止に最適ね。」


なかなか良い出来とも思われる薬に陵司と雹は感心するが、ある疑問が湧いていた。


「それって凄い秘薬だとは思うんだが、どう考えても敵に飲ませた方がいいやつだな。」


「八は末広がりだねー。」


二人の当たり前とも言える発言に少しだけ明香の表情が曇っていた。


「・・・それは少し難しいわね。この秘薬が効果を出すにはこのフラスコ1本分は最低飲まないと駄目なのよ。味も悪いし、副作用はまだ分からないけどね。」


「そりゃムリだ。ってよりマズいのそれ1本分の一飲めるかっつう話だよっ。」


「五百ミリはありそうだよー。美味しくないのはごめんなさいかな。」


完全に拒否された明香の秘薬はお蔵入りになると思われたが、そこで明香は思い切った行動に出る。フラスコを口につけ、一気にあおると玉虫色の液体を流し込んでいた。

止めようとする陵司と雹の目の前でグビグビと飲み干した明香は、フラスコを口から離すと口の端から垂れた玉虫色の液体を拭い、その効果を待つ。そしてその効果が出るのはすぐの事であった。


意識に反しゆっくりとしか動かない身体、口をバクパクとゆっくり動かすが何も出ない言葉、もどかしい気持ちに襲われながらも焦ることなく自らの身体を明香は冷静に分析していた。


(意識ははっきりしているのに身体が思い通り動かないというのは、思っていたよりもストレスね。一時的なものだろうけど副作用は言葉を失うと、これもなかなかのストレスと。改良の余地はまだあるみたいね。)


落ち着いて自己判断する明香ではあるが、傍から見ると余りにも動かず何を考えているのかと不気味ですらあった。


「こりゃまた効いてるな。ちなみになんだが、これどのくらい効果あるんだ?」


陵司からの質問に明香はゆっくり指を三本出し、その後にまたゆっくり指でゼロの形を作る。


「三十分って事か明香姉?」


ゆっくり首を横に振る明香に向かい更に雹が聞く。


「やっぱり三十秒なんじゃないかなー?長いと不便だもん。」


やはり違うと不自然な程ゆっくりと首を横に振る明香を見て、陵司は気付いていた。


「もしかして三十時間かよっ!そいつは不便すぎるだろっ、どーすんだよそれまで?」


ゆっくりと時間を掛け頷いた明香を見て、陵司は呆れたような表情を見せ、雹は心配しながら見つめているがそこで緊急要請を知らせる音が鳴り響く。


「おっ、要請かってこりゃ二人で行くしかないか。行くぞ、雹。」


「うん。待ってよー陵君っ。」


訓練室から走り出していく二人を見送ろうとするが、遅い首の動きは間に合わず背中すら見る事は叶わない。

明香は諦めてゆっくり時間を掛け実験台の椅子に座ると、これまたゆっくり解毒剤の調合に入るのであった。



とりあえずこれもまた日常パートみたいなものです。

次話はすぐ投稿予定です。

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