第37話
迷う男
陵司が怪我をし早めの解散となったその日、雹は一人特局内にある食堂にきていた。
食堂の入り口をジッと見つめながら形の良い眉をひそめ、何かを悩んでいる風であった。
(一人かぁ・・・、一人で食堂は勇気が足りないや。だけど陵君は怪我してるし、急にお休みになったしどうしよ?)
食堂の前をウロウロしながら悩み、結局食堂に入る事も出来ずその場をあとにする。
しかしそこからが本当の悩みどころであった。
一人特局から帰る事にした雹は、トボトボ歩きながら、結局決める事のできない悩みを考え続ける。
どこに行くわけでもなく、人並み以上にある体力を使って目的なく歩く雹は、整った顔立ちに浮かぶ寂しげな表情がどうしようもなく画になるが、頭の中はその限りでもなかった。
(お昼ごはんかー。一人で食べても美味しくないし、初めてのお店は入れないし。一人じゃ行くとこもないや。そして大丈夫かな陵君?)
無意識に足は馴染みのある方へと向かっており、気付くと巨大で趣きのある建物の前で足を止めていた。
「ここに来ちゃった。結構久しぶりだし、入ろうかな。」
巨大な建物には看板もなく、内部には人もいない。中に入れるのは極々限られた人だけであり、生体認証の扉が開くと雹は迷いなく足を進めていく。
建物の中は清潔に保たれ、空調も適度に効いている。そして数え切れないほどの展示物が並び、中は正に博物館といった風情であるが、この建物自体が雹が就職祝いに母親から貰ったプレゼントであった。
大小様々な名品から珍品までが展示物としてライトに照らされ展示してあるが、全てケースに入れられる事なく剥き出しで置かれている。
ゆっくり展示物を眺めながら広い通路を歩く雹は、なぜこの建物がプレゼントだったのかを悩みながらも展示物を楽しんでいた。
(広いなー。だけど母さんなんでこんなのくれたんだろ?置いてあるのは古い物ばっかりだけど、それがいいよね。あっ、これこの前は置いてなかったなー。)
雹の見つめる先には少し汚れた箸が展示されており、ご丁寧にも説明文が記載されている。
「ふーん、第一回世界箸使い選手権優勝者の箸かー。いったい誰なんだろ?」
更にその隣にはダイヤの原石を発見したダウジングの棒や、ドラキュラの胸を貫きそこねた杭、ノアの方舟に乗ったとされる象の剥製、老人が百二十年の月日をかけて彫った仏像などがズラズラと並べられていた。
飽きることのない展示物の数々ではあるが、やはり一人で広い博物館を歩くのは寂しさがこみあげてくる。
「やっぱりダメだー、家にかえろっ。だけどどっちの家に帰ろうかな?やっぱり陵君が心配だけど、行くのは迷惑かもしれないし・・・。うーんっ。」
博物館の中でたたずむ雹は、象と像に見守られながら尽きない悩みに翻弄されるのであった。
なんとなくの更新です。
会話のない、日常パート雹編ってな感じてました。




