第28話
修理に出す男達
息も絶え絶えにドアを開けたまま小さな運転席に座り荒い呼吸を繰り返していると、一見小ぢんまりとした実家から陵司と良く似た小さな人影が出てくる。
それはどう見ても年相応には見えない陵司の母親、橋中 霰であった。
陵司より二回り程小さな身長、そして運が良ければ陵司の姉、通常であれば妹と間違われる程の童顔のまま歳を重ねていた。
「あらっ、陵司どうしたの車なんて?歩かないと健康に悪いよ。」
「フゥッ、お袋か。なんつうか賭けに勝ったお買い得品なんだよ、多分な。それより買い物か?」
「うんっ、中年だらけの将棋大会シーズン143プレミアムエディション・パート3の予約してたのを受け取りに行くの。帰りはお父さんと食べてくるから、何か好きなの食べなさいねー。」
「了解了解。俺の事は気にせず行ってきな。」
「はいはーい、戸締りしなさいねっ。」
陽気に歩いていく小さな背を見送りながら、ここからどうしたもんだと軽自動車を見ながら考えていると、更に実家の扉が開く。
「陵君遅かったねー、もう昼ご飯食べちゃったよ。」
のんびりとまるで自らの家かのように出てきた雹は、出してもらった焼きそばでお腹を満足させて完全にリラックスしていた。
「お前こっちは大変だったんだぞ。車はエンジン掛からないし、車軸は曲がってやがるし。まあ、軽いから押すのは楽だったけどな。」
「大変だったねー。じゃあ修理に行く?」
「んー。そうだな、このままじゃ粗大ゴミで持って行かれちまうしな。それでどこ行く?」
「んーと、んーと・・・。母さんの会社?」
「それがいいか。あそこならどうにでもなるしな。」
雹の特技によって息を吹き返した軽自動車は、シフトレバーがなくてもバックで車を出し目的の地点へ順調に走り出していた。
そこから安全運転で10分程走ると、目的地が見えてくる。広い敷地に歴史を感じてしまう程の古い屋敷。そしてその横に余りにも不釣り合いで、無機質なコンクリートの塊で出来たビルが鎮座していた。
「相変わらず景観台無しだな、お前の家。」
「そうだねー。だけど本社だからしょうがないよー。」
ビルの側面には可愛い少女のキャラクターの横にデカデカと『AFC』と描かれており、現在トップシェアを突き進み続けている一般的によく知られた通信会社の本社であり、雹の実家でもあった。
取り付けられた門が自動で開き中に入ると、和風の庭が広がり屋敷とビルのコントラストが違和感を感じさせる。
大企業としてはそこまで大きくないビルは、肉厚のコンクリートで更に内部面積は狭いが、本社とは名ばかりでビルの中の人数は余りにも少なかった。
ボロボロの車がビルに近付くと、巨大な自動ドアがゆっくり開きビル内部に迎え入れられる。
ビル一階部は巨大なエレベーターが一つ設置されているだけの究めてシンプルな構造であった。そのエレベーターがゆっくり上の階から降りてくると頑丈そうな扉が開き、中からは長身の女性が艶のある髪を揺らしながら車から降りた二人に満面の笑みで走り出てきていた。
歳を重ねてもなお美しくそして魔性と呼ぶに相応しい整った顔立ち、優しそうな目が人懐っこさを演出している雹の母であり霰の姉でもある、高山 雪であった。
飛び出してきた雪は雹に抱きつくと頬ずりを繰り返し、しばらくそのまま時間が経つと雹にぶら下がったまま満面の笑みを浮かべ陵司を見つめる。
「いらっしゃい、陵司くん。オバサンに何か御用かな?」
特に驚くこともなく笑みで挨拶を返すと、陵司は早速本題に入る。
「この車が少々難ありなんだよ。なんとかしてくれねえかな雪オバサン。」
「これの事?いいよー、ちょっと待っててね。」
年季を感じる二つ折りの携帯を取り出し、アンテナを伸ばしてどこかに通話するとエレベーターが下の階に降り、また上がってくる。
すると中からは薄汚れた白いツナギを着た、白髪頭の老人がカートに乗ってエレベーターから出てきていた。
無言で止まっている軽自動車を見て、一瞬驚きの色を見せるがすぐに元の気難しい表情に戻る。
そして軽自動車を一周グルリと周り、少し考えると乗ってきたカートを横に付け軽自動車とカート両方に触れて特技を使っていた。
【創作】
カートが溶けるように軽自動車に吸い込まれ、足りない部品へ変わっていく。傷んでいるほとんどの部品も新品同様に整備され外装までもが輝きを取り戻し、更には海人の思うがまま好き放題にされていくのであった。
満足いく仕上がりに一人少しだけ頷くと自らの足でゆっくりエレベーターに戻り、地下の工房へ戻っていく。
老人の名は池中 海人。元特局の開発班、班長であり今は気ままなセカンドライフを地下で過ごす、少し気難しいが頼れる老人であった。
「よかったねー。普通の車だと触ってもくれないんだよー。」
「だよねー母さん。久しぶりに海人オジサンの姿見たよ。」
興味深そうに雪と雹は軽自動車を眺めているが、陵司は幼い頃壊れたおもちゃを直してもらって以来の光景に驚きを隠せていなかった。
(これは・・・、相変わらず凄えな。何が凄いのかよく分からないが、一回新品にして汚しを入れてほぼ元の色にしたとこが何とも言えねえよな。そしてオーディオ設備が豪華だ。大丈夫かバッテリー?そして必要か七速?)
陵司が様々な思いにふけっていると、雹は助手席に乗り込み声を掛ける。
「行くよー陵君、お金払いに行かなきゃ。」
「おっ、おう。それもそうだな。言い値って幾らにするか悩むもんだけどな。」
鍵を回すとあっさりエンジンは掛かり、雪に見送られながら陵司の運転で軽自動車は走り出す。
当初はついてなかった謎のスイッチとドクロマークのついたボタンを無視しつつ、軽いエンジン音を響かせながら展示場へ二人は戻るのであった。
とりあえず車を手に入れようのお話は終了です。
なんというか、戦闘シーンが書きたい気分。
次回はなんとかそのような事件を考えます。




