第19話
最後の模擬戦、中編
三本の煙草を取り出したものの、その三本を見て勇司は少し困ったような表情を見せていた。
(何となく雰囲気で三本持ってみたけど、選択ミスってやつか?この三本じゃこっちだけ凄まじく本気みたいで少々恥ずかしいじゃないか。)
勇司の手の中には赤と青、そして銀色に輝く煙草が握られており、その三本は勇司の特技にとって完全な主力とも言える三本であった。
しかしその様子を見ても陵司と雹の二人は変わりなく、少しの緊張感の中に余裕を見せる。
「親父は少し本気みてえだな。どうするよ、雹?」
「うーんと、陵くんに任せるよ。そーゆうのはいつも棋士さんの担当だしねっ。」
雹からの信頼とも適当とも言える発言をいつもの事と聞き流しながら、陵司は棋士とは名ばかりの駒の動かし方すら怪しい頭脳と、優れた決断力ですぐに策を出す。
「よしっ、じゃあ作戦名はもう少し時間をだ。雹、しばらく任せた。」
「うんっ分かった、じゃあ頑張るっ!」
策とも呼び難い陵司の策を全く疑うことなく信じ、雹は迷いなく一歩前に出る。
奇妙な信頼関係で結ばれている二人を眺めながらも、昔からよく見る光景に勇司は少しほくそ笑みながら銀色に輝く煙草に火をつけていた。
【真銀煙・甲冑】
吐き出す銀色に輝く煙を自らの身に纏わせ全身甲冑へと変化させていく。全身を覆った甲冑の面を上げ、更に更にと残る二本の煙草に火をつけ煙を一気に吸い込んでいた。
【合成煙・体熱心冷】
吸い込んだ赤い煙によって身体は熱くそして身体能力が跳ね上がり、青い煙によって思考は瞬時にクリアとなり模擬戦の最中にも関わらず強制的に平静さを保つ。
(もう火をつけて煙を吸い込んだし、・・・狙いはまず雹からか。素早く制圧して、その後ゆっくり息子ってとこか。陵司のやつ手の内を相当隠してるみたいだしな。)
合成煙の効果のあるうちに勝負を掛けるべく、勇司は一気にトップスピードで動き出す。
鋭い踏み込み一歩で雹の懐まで入り込み、硬い甲冑の拳で力のこもった一撃を打ち込みに入るが、危機を察知した雹は身体より先に特技が反応していた。
【付喪神・革靴】
意思を持った革靴により雹の身体は回避行動ではなく迎撃を選ぶ。伸びてくる拳へ下から足が跳ね上がり甲冑の腕を蹴り飛ばすと、勇司は回り続ける思考の中、驚きを押さえ込みながら跳ね飛ばされた腕を素早く戻し次の行動に移る。
(反応というか、特技の起動までが相当に早いと。不意打ちに近い、いい攻撃だとは思ったんだが、それでも予定変更はなしだよな。)
初手を防がれても動きを止めず勇司は次の攻撃に出ようとするが、出足を挫かれるように蹴り上げた雹の足は床に着くことなく、甲冑目掛けてサイドキックが飛んできていた。
合成煙の効果により反射神経の上がった身体はしっかり反応し腕でのガードを固めるが、意思を持つ革靴はそこから更に自在に動き出す。
サイドキックの態勢から雹は革靴の赴くままに器用に足を畳み、斜めに足先を持ち上げ蹴りを打ち下ろしていた。
甲冑越しでも勇司は首筋に強烈な衝撃を感じるが、頑強な甲冑は蹴りを受け切る。
それでも崩れた態勢に更に同じ足での前蹴りを顔面に貰い、一応スリップではあるものの吹き飛ばされ見事にダウンを喫していた。
(縦蹴りからの突き放しの蹴りかよ。まいったまいった、正面からじゃこのまま行くと微妙か?それ以前にこの特技使い続けると、明日身体に響くな間違いなく。それが一番まずいと。)
ダウンしたまま勇司は吸い込んでいた合成煙を吐き出し、着ていた甲冑も煙に戻すとゆっくり膝に手をついて立ち上がり呟く。
「ったく、雹の方も我ながら甘い見積もりだったな。やっぱりここはコソコソ行くしないか。」
時間を稼ぐ雹は自ら攻撃には行かず、勇司の出方を待っているとすぐに次の煙草を取り出し火をつけていた。
【白煙・濃霧】
吐き出された白い煙は一気に拡がり、雹と陵司を先の見えない濃霧に飲み込んでいく。
しかし煙に飲み込まれていく一瞬、ここまで何もせず二人の模擬戦を眺めていた陵司がほんの少しだけ動き始めるのであった。
ぼちぼち更新です。次話にて前作主人公は退場となります。
途中で何かしら本編とは関係ない火事場の物語なんぞをねじ込むかもしれませんが。




