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第9話

出動


黒いワンボックスは緊急走行で要請のあった現場に到着すると、ロングコートとローブの長い裾を翻しながら二人が降りてくる。

車から降りた陵司と明香は周囲を見渡し要請があった現場を探すが、それはあまりにもあっさり見つかっていた。


「あれだよな明香姉?」


「情報班によると間違いないようです。見つける手間がないというのは助かりますが、暴れていますね。」


「確かに絶賛大暴れ中って感じだな。じゃあいくかっ!」


二人の視線の先では道路のど真ん中で警察に包囲されながらも子供を人質を取り、手に持つ金属バットでアスファルトを破壊しながら暴れる男の姿があった。


「容疑者の名は中原 道広、特技は【フルスイング】です。では行きます、陵司君はそこで待っていてください。」


「えっ?そりゃねーだろっ。ここまで来てお預けは勘弁だぜ。」


不満を隠そうともせず表情に出す陵司を、明香は宥めるつつも少しだけ面倒臭そうに説得していく。


「仕方ありませんよ、アナタを現場に出したら厳罰ものですからね。ここに連れてきているのでさえも少し問題なんですよ。」


「そうは言われてもよー、納得出来ねえよっ。」


「そこで大人しく見学しといてください。もし出来ないというのであれば・・・、後でお仕置きですよ。」


その明香目つきを見て陵司はタジタジとなり、逆らってはいけないと本能が理解する。


「・・・りょ、了解。待機しとけばいいんだろっ。」


「よろしい、では行ってきますね。」


黒いローブと長い黒髪をなびかせながら歩く明香の後ろ姿を陵司は少し納得いかない表情で眺めていたが、その時になってある事に気付く。


(そういや明香姉って戦えるのか?そんな姿見せた事ねえよな。まあ、戦う姿なんて普段見せるもんじゃねえけど。)


少し陵司が不安そうに明香の後ろ姿を見つめている頃、訓練室ではようやく班長である勇司は意識を取り戻していた。


胸に抱かれ心配そうにこちらを見つめる整った顔立ちの雹に自らが少女漫画の主人公になった気分になるが、なんとか性別を思い出し勇司は正気に戻る。


「うーんっ、何があった?後頭部が凹んだ気がするんだが。」


「えっとー、革靴がごめんなさい。そして陵君と明香姉さんは行っちゃいました。」


後頭部を擦りながらなんとか立ち上がると勇司はイマイチ回らない頭を振り、雹は少しオロオロしながら訓練室にいない二人を心配する。


「勇司オジサンっ、急いで行かなきゃ!二人だけで行っちゃったからすぐに追いかけないとっ。」


焦る雹を無視して勇司はなかなか回復してくれない身体を残念に思いながら、大きく息を吸い込み疲労を誤魔化す。そして特に心配する様子もなく情報端末を取り出すと、要請の情報を見てゆっくり支度を始めていた。


「まあ、これなら焦る必要もないだろ。明香も一緒だしな。」


その言葉の意味が捉えきれず雹は小首を傾げ、少し間をおいてから質問する。


「ねえねえ勇司オジサン、もしかして明香姉さんって強いの?」


「そりゃ知ってるはずもないか。見ての通り26班は今までは二人だったんだ、それでも他の班に劣る事なく容疑者を確保してきたのは単純に強いからだよ。・・・部下がな。」


イマイチ想像出来ないと未だ小首を傾げたままの雹に、準備を済ませた勇司は言葉を続ける。


「とりあえず行くか、一応上司だしな。」


「はいっ、二人が心配だし急いで行きますっ。」


二人は特局の地下駐車場に向かうがもちろんそこに26班の車はなく、予備の車も出払っている。少し二人はその場で考えた後、勇司の出勤用の原付きにタンデムし二人は甲高いエンジン音と共に特局から現場へと向かうのであった。




とりあえず主人公その一の出番はなかなかなさそうです。しばらく登場人物の特技紹介的なお話が続く予定です。

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