7話 本部長
「予知能力ですか……」
「ええ。でも、あなたはまだ能力には目覚めてないけどね」
「ただ、条件は達成しているぞ」
「だけど、能力に目覚める予兆はあったはずよ。加藤さん、何か心当たりはないかしら?」
「そういえば、最近頭痛がひどかったような…」
「その症状は人それぞれ。でも、頭痛という例は多いわね。私も頭痛だったし」
「会長もですか」
「症状は一定期間するとなくなってしまうの」
なるほど。これはこちらの世界のことを知らないと、ただの体調不良的な感じですませてしまうのか。一定期間過ぎれば、症状はなくなるわけだし。それで、もし気づいてしまった場合はASOが記憶を消したり、仲間に取り入れたりして処理するということだろう。
「予知……か。どこまで予知できるんだろうな」
「それは分からないわ。でも、もう直ぐ目覚めるだろうし、それまでのお楽しみね」
「確かに楽しみですね」
「しかも、予知能力は今までに発見例もないから、未知の能力なのよ」
予知能力……これはすごい能力だ。前衛だったら一秒先の未来なんか予知して役に立つし。すごい先の未来を予知できるんだったら、単純にすごいし。
「会長、条件とかは分かったんですけど、実際に超能力者が能力に目覚める時はどんな状況なんですか?」
「うーん、そうね。本当に条件を満たしていれば突然目覚めるのよ。私の時は敵の超能力者と対峙した時ね」
敵と対峙した時…ね。ということは加藤も目覚めてもおかしくはない。前回の魔物との対峙で目覚めなかったということは、次の戦いで目覚めるかもな。
超能力の話が終わると、会長が思い出すように声を出した。
「あっそうそう、あなたたち二人と本部にいる父が話したいそうよ」
「そういえば、本部ってどこにあるんだ?」
「新宿にあるわ」
新宿か……。桜川市は神奈川県にあるので少し遠いな。
「本部に勤めてるということは、結構お偉いさん?」
「一番偉い人よ」
へーって、ちょっと待て。じゃあ何故、会長はここの支部にいるんだ?
「もともと、ここ桜川市に私の実家があるのよ。父は立場上向こうにいなきゃいけないし」
お偉いさんの娘にも色々大変なようだ。俺が一人納得すると、会長が机に置いてあるテレビを俺と加藤の方へ向ける。
「今から本部と繋ぐわね」
「緊張してきた」
「そうか?俺はむしろどんな人かワクワクしてるが」
ちなみに、俺は強面なおっさんを予想してたりする。
俺と加藤が会話してると、ついにテレビの電源がついて、本部と繋がった。さてさてどんな人か……っえ?
俺はテレビに映った会長のお父さんであろう男の顔をじっと見つめる。
なにせ、そこに映っていたのは強面のおっさんなんかじゃなくて、どう見ても小学生の男の子だったからだ。青いスーツを着て、紺色の短パンを穿いている、そしてまさかの髪型は七三分け…うん、どう見ても小学生だ。隣にいる加藤は目を擦りながら見ていた。加藤も俺と同じ気持ちなのだろう。
呆然としている俺と加藤を置いて、画面の向こうにいる男が口を開く。
「あーあー、どうやら繋がったようだね。初めまして二人とも、私がASO日本新宿支部支部長兼日本本部長である金城豊だ」
俺と加藤はまたしてもここで大きく驚いた。
見た目小学生なのに、おっさんボイスかよ!
俺は思わず大声で突っ込みそうになり、なんとかこらえる。
「む、突然口を押さえて……体調でも悪いのかね」
「いえ、大丈夫ですよ。俺は遠藤龍太」
「私が加藤茜です」
「なるほど、異世界の勇者に初めて発見された予知能力の少女…。もう先に由香が言ったと思うがASO日本本部長として、君たち二人を歓迎しよう」
「どうも」
「ありがとうございます」
向こうにいる新宿支部長……いや本部長ということにしよう。本部長が歓迎の言葉を俺たち二人に告げる。俺はいつも通り軽く、加藤は緊張しながらその本部長の言葉に答えた。
「そしてこれは本部長でもあり、由香の父としての頼みなんだが…どうか娘のことをよろしく頼む」
「ちょっ、お父さん!」
「ははは、OK」
「もっ、もちろんです」
本部長の予想外の言葉に、会長が取り乱した声を出し、俺と加藤は当たり前だと言うようにその言葉に答えた。
……娘思いのいい父親だな。
「はっはっは、そうかそうか。由香よ、お前は本当にいい人たちを仲間にしたな」
「はぁお父さん、最後まで本部長しっかりやってくださいよ」
「いやー、悪い悪い」
以外にこの人はフランクな人かもしれない。俺は一人そんなことを思った。
「おっと、もうこんな時間だ。すまないが、この後、会議でな、もう私は行かなくちゃいかん」
さすがは本部長、やっぱり忙しい様だ。この後時間があれば、会長よりもこの世界について知ってそうだし、聞いてみようと思ったんだが。
「それと遠藤くん。君とは後日、ゆっくり話がしたいんだが」
「俺と?」
どうやら本部長は異世界の勇者である俺と話がしたいらしい。間違いなく、興味があるっていう目をしている。
「いいですよ」
「そうかそうか。ではその日時は追って、由香から伝えよう」
「分かった」
「では、私はこれで」
本部長は最後に一言を言い残すと、通信が切れて画面が真黒になった。
「ごめんね、あんな父で」
「ははは、いい父親じゃんか」
「そうですよ」
会長は頭を抱えて、声を出す。どうやら、会長は本部長のこと少し苦手のようだ。
「そういえば、会長のお母さんは?」
「母は今アメリカにいるわ。任務でね」
「やっぱり会長のお母さんも、ASOか」
「もちろんよ。そしてこの学校の校長でもあるわ」
「……だから、普通に校長室を使えるのか」
俺はこの時、会長のお母さんはどんな人物なんだろうと、どうでもいいことを一人思った。
会長の話や本部長の話を聞いていると、もう外はすっかり真っ暗になっていた。
「取り合えず、今日の活動は以上よ」
「おっ、じゃあ帰れるのか」
「あっ、遠藤くんには頼みたいことが有ってね」
「えっ?」
俺はこの瞬間、ものすごい嫌な予感を感じる。
会長は机の奥から何やら、大量の資料の山を出した。
……何だ?
「この資料はどれもここ二年で出現したCからBランクの魔物の一覧なの」
「おい、まさか……」
「そう、あなたにはここの魔物の名前を書いてきてほしいの。あっ、できればその魔物の特徴とか、弱点とか一緒に書いてきてくれると嬉しいわ」
「マジか……」
「マジよ」
俺は驚きで、口が開いたままになる。会長はそんな俺を気にすることなく、話を進める。
「特別に今の遠藤くんの鞄にこの資料入らないだろうから、手提げの鞄を用意したわ」
…微妙な気遣いだな。俺の鞄は細い手持ちのバックなので、まぁ確かに入らないけど。俺は隣の加藤を見る。
「ガンバ」
めっちゃ、むかつく。
「ちなみに、これはいつまで……」
「できれば、速めにお願いね♪」
会長は笑顔で答える。俺には悪魔の笑顔に見えた。
「…はい」
どうやら暫く、俺は徹夜になりそうだ。