4話 超能力者との対話 後半
俺は会長に自分が二年前に異世界に行き、魔王を倒して元の時間に帰ってきたことを話した。最初に俺が元勇者と言った時は疑いの眼差しで見られたが、俺の魔物との戦いを思い出したのか、皆納得したようだ。
「まさか唯者ではないとは思っていたけど、元勇者とはね……」
「今は普通の高校生さ」
「あんな戦いができる人を、唯の高校生とは言わないわよ」
「違いない」
俺と会長はここで笑い会う。そしたら会長は考えるしぐさを見せた。
……どうしたんだ?
「あなたが異世界に行って、帰ってきたのは二年前なのよね?」
「ああ」
「そう……偶然かしら。魔物とあの空間に出現し始めたのも二年前なのよ」
「なんだと……」
会長の言葉で確信した。これはもう俺がこの世界帰ってきた事が、魔物の出現に関わっている。
「突然現れた化け物……私たちはその巨大な力から魔物と称したわ。一番最初に現れた魔物は大きな赤い龍よ」
「大きな赤い龍……聞く限り、上級のレットドラゴンだな」
「上級?」
彼女は俺が言った魔物の階級のことが分からず、首を傾げる。やはり、この世界では階級はないらしい。俺は皆にこの階級について説明する。
「なるほど……異世界の魔物を区別する呼び方なのね」
「この世界では魔物はどう区別してるんだ?」
「私たちは魔物に名前を付けることはない。かわりにその強さによって、ABCの三つのランクに分けて呼んでいるのよ。ちなみに赤い龍……レットドラゴンはAランクの魔物に分類されているわ」
俺はこの話を聞きいて驚いた。魔物に名前を付けていないのか。まぁ、俺としては魔物の名前を覚えなおす手間が省けたからいいが。
話を聞くに魔物のランクは、Aランクが上級、Bランクは中級、Cランクは初級という感じで考えて良さそうだ。他に違いはなかった。
「そうか。じゃあこれからはこの世界に適したそのランクで呼ぶとするよ」
「そうしてると私たちも助かるわ」
魔物のランクについての話を終えると、先ほどの二年前の話に戻る。
「レットドラゴンが出現する数時間前、突然この街にいるたくさんの超能力者があの空間に跳ばされた。私たちはあの空間を建物や町が逆になってることから、反転世界と呼んでいる。でも最近では世界の狭間なんて呼ばれることもあるわね」
「反転世界……」
俺は反転世界という呼び方に納得した。さらに、異世界の魔物がこの世界に出現しいてることも考えると、異世界とこの世界の間にある可能性もある。つまり世界の狭間と呼ばれるのも納得できるな。
「そしてその空間の調査中、レットドラゴンが突然現れた」
「あいつはかなり強いぞ。異世界で村を焼け野原にしちまう」
「ええ、強かったわ。たくさんの犠牲者が出た…そして死人も」
「……」
会長は二年前のことを思い出したのか、悲しい表情をする。
しかしレットドラゴンか…勇者の頃の俺なら問題ないが、今の俺では倒すことは難しい。はぁ、これは一刻も早く勇者の頃の力を取り戻すために、特訓する必要がありそうだ。
俺が考えてる間も会長の話は続いた。
「しかし、良く勝てたな」
「あの時は一部の魔法使いと上位の超能力者が力を合わせたからね。今は出現した魔物でAランク魔物はそのレットドラゴンだけだったし、対魔物の兵器も開発されたのよ。そのおかげであの戦い以降、犠牲者を少なくして、魔物を倒すことができているわ」
「それはすごいな」
対魔物の兵器か……。グランシウスでは主の武器は剣や槍、魔法だったからな。どんなものか興味はある。
「私たちはとある組織に属している」
「とある組織?」
「国家機関の『超能力捜査機関』、Abiltiy-player Seach Organization……通称『ASO』よ」
国家機関…また随分とでかそうな組織だな。
俺が真っ先に思いついた感想がこれだった。
「私たちはその組織の桜川支部にあたるわ。役目は暴走した超能力者の拘束、超能力に関する事件の解決、そして魔物の討伐よ」
「桜川支部ということは、ほかにも支部はあるのか?」
「ええ、ASOは世界中に支部が存在するわ」
……思ってた以上にでかい組織のようだ。しかし、世界規模で超能力者がいたとは……よく表の世界に情報が洩れなかったな。情報操作は完璧というわけか。
「それで、提案なんだけど……私たちの組織に入ってくれないかしら?」
「勧誘か……だが俺は超能力者じゃないぞ」
「魔物を圧倒的に倒せる力があるし、魔法も使えるから大丈夫よ。それにこう見えて私、顔が広いから」
「軽いなこの組織」
超能力者に魔法使い、そして魔物か。この世界に帰ってきたとき、ようやく平和に過ごせると思ったが、世の中そんなうまくはいかないらしい。
それに魔物の出現は俺が関係している可能性が高い。なら、答えは決まっている……。
「Ok。その誘い乗ってやるよ!」
「ありがとう。これからよろしく」
俺は会長が差し出してきた手を取り、握手を交わした。
そんな中俺の隣にいた女子…加藤が静かに手を挙げた。
「あっ……あの、どうして私は呼ばれたんですか?」
「それはね、あなたもこの組織に勧誘するためよ」
「えっ……」
加藤は会長の言葉聞き、驚いた声を出す。ちなみに俺は彼女が呼ばれた理由は大体予想できている…というか、勧誘されている時点でほとんど答えを
言っているようなものだが。
「会長。それは彼女も超能力者だからでしょう、それもすごい能力の」
「さすがね、遠藤くん。その通りよ」
「私が超能力者……」
会長の話を聞くに、加藤のことはもう入学式からマークしていたそうだ。そして加藤が超能力に目覚めるのを待っていたらしい。超能力に目覚める条件である超能力者と接触は朝の会長との挨拶ってところか。
「別に断ってもいいのよ。正しその場合、昨日のことを含め、今回のことは忘れて貰うけどね」
「へー、記憶操作の超能力者もいるのか……すごいな」
「ええ。それでどうする?」
「私は……」
加藤は会長の質問に言葉が詰まる。普通の奴ならこの話断るだろうな、記憶操作は怖いけど。
加藤は少し考えた後、会長に質問をした。
「あの……超能力者や魔物は一般人に被害を与えたりするんでしょうか?」
「……超能力者は過去にそうした事件を起こしたことはある。魔物に関しては反転世界にいるから、今のところ被害はないわ」
「今のところですか……」
「確かにいつ反転世界から抜け出してくるか、分からないからな」
「……」
俺は加藤という女子につい知ろうとしたことはない。しかし、異世界での魔物との戦いや全く知らない人々と関わっていくうちに、何かを観察する能力が自然と高くなった。それにより、俺は隣の席の加藤もどんな人物なのか、大体分かってしまう。
彼女は基本的に人助けをしているのが目に付く。自己犠牲…まではいかないけどな。ちなみに、クラスの学級委員は彼女だ。クラスの皆が手を上げない中、真っ先に手を上げた。そんな彼女だ、会長の質問の答えには予想がつく。
「やります。私の力で誰かを助けられるのなら」
「決まりね」
会長は立ち上がると、俺と加藤に向かって一言告げた。
「私たちASOはあなたたち二人を歓迎するわ」
こうして俺と加藤はASOに入ることとなった。
今回の話でこの作品の世界について少しでも分かってくれたなら嬉しいです。
次回から会長以外の4人を紹介します。お楽しみに!