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帰還勇者と超能力者  作者: 厨二王子
三章 忍びの村と動き出す者たち
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44話 石化

「はわわ……」


「あー、少し手加減したはずなんだが」


 木原は俺との行為の後、顔を赤くして見事に固まっている。

 まぁキスをしたわけなんだが、決して自分の欲望でやった訳ではない。今回施したのは俺の使う身体強化の魔法と同じ属性である空間魔法だ。戦闘では直接役に立つことはないが、日常生活や特殊な時に真価を発揮する魔法だ。

 その魔法の効果は記憶の共有。その魔法の難易度と方法から役に立つにも関わらず、使う人物は少ない。俺は同じパーティの魔法使いに強引に覚えさせられたんだが……。

 無属性の魔法は戦闘で役には立たないがこういう魔法は多い。

 そして肝心のこの記憶の共有魔法はキスをすることで発動する魔法だ。その名の通り記憶を相手に伝えることが出来る。俺はこの魔法を使い木原にある魔物についての記憶を渡した。そうすることで彼女はその魔物の姿にできると思ったからだ。

 次にあの黒い鳥のような魔物について。あれは唯の魔物ではなく、魔法使いが作り出したものだ。それゆえにあの魔物には加護がついている。最近では闇の魔法使いであるメランがあげられる。そもそも加護というものは魔法使いが主に掛けるものであり、そのその効果は様々だ。

 例えばあのメランが付けていた加護は闇の魔力を上げるものだった。そして今回の魔物についてはさらに厄介なものである耐性を付けるものだった。それもこの魔物には複数の加護がついていた。


「落ち着いたか?」


「なっ、なんとか」


「とりあえず、確認だ。バジリスクの姿に変わることは出来そうか?」


「実際に私が見た訳でもないので完全には無理そうです」


「石化は発動できそうか?」


「そこは大丈夫です。いや。絶対にやってみせます」



 俺があの魔物の魔力を調べると沢山の耐性がついている中で、石化の耐性だけがついていなかった。これが意図的にそうしているのかまでは分からないが。しかし、魔物によっても加護の相性などもあり、全ての魔物が完全な耐性を付けるのは不可能に近い。近いというのは異例もあるということだが、今回はそういったケースではなかった。

 石化をすれば加護も封じることが出来るので俺や服部、木原の攻撃で粉砕すれば撃破できる。

 そして俺が彼女に見せたのはバジリスクというBランクの魔物。バジリスクはBランクだが、石化できる魔物なのでこいつをチョイスした。バジリスクは石化をすることが出来るのに何故Bランクなのかというと、それは戦闘力もあるが、石化の能力に関して対処法が存在し、バジリスクはその方法に一番有力な存在なのが大きい。

 次にAランクでも石化の魔物はいたのだが彼女もAランクの魔物の変身はかなりの負荷が大きいということなので除外したのだ。


「これから俺と服部で一斉に攻撃して隙を作る。致命的なダメージを与えることは出来ないだろうけどな」


「そこで……」


「ああ。俺と服部が引いたらそのタイミングで石化を頼む」


「分かりました」


 俺は木原の言葉を聞くと、そのまま魔物と戦っている服部の元に向かう。

 服部に近づくと俺は直ぐにこの作戦について説明した。


「……なるほど。作戦については理解したがどう隙を作る?」


「正直、動きを止めても黒い風でバジリスクの攻撃を遮られたらまずい。服部も限りなく動きを封じていたが、風については完全に止めることは出来ていなかった。木原の状態から彼女は石化の攻撃を何発も打つことは出来ないだろう。出来れば最初の一撃で成功させたい」


 ここまでに至る戦闘で疲労も蓄積されている。まぁ、それは俺や服部にも言えることだが。


「なら、ひたすら攻めなくてはならないな」


「ああ……おっと!」


 服部の風で動きを抑えていた魔物が動き出す。奴はその黒い翼を羽ばたかせる。黒い風が舞い、まるでこの空間を支配している錯覚を生じさせる。


「抑えるだけじゃ無理そうだな」


「なら、攻めるまで!」


 服部は両手に風を集中させながら魔物に接近していく。俺もカシウスを構えて服部に続いた。

 魔物はこちらに気づき、黒い風をかまいたちのようにして二つの衝撃を放つ。俺と服部はそれぞれ左右に別れて、それを回避した。


「これでも喰らえ!」


 服部は両手の風を魔物にぶつける。しかし、やはりというべきか加護によりダメージは負っていない。しかし、動きは一瞬止まる。俺はその攻撃に続き、カシウスで翼を切り裂こうとする。


「ちっ、ダメか」


「遠藤!」


 服部の叫びが俺の耳に届く。魔物の黒い風が挟むように俺の左右から迫ってきた。

 俺はカシウスを持ちながら回転し、風を払う。


「このままじゃ、じり貧だな」


「後、二人はほしいところだな」


「木原は攻撃を確実に当てるためにタイミングを計ってもらう必要がある」


「なら、私はまた風で強引に抑えてみよう」


「俺も少し大きいのを出す」


 俺はレットドラゴンの時のように、カシウスに魔力を溜めていく。しかし、あの時とは違い、その量は少なめにする。ここで倒れてはたまったものではない。

 そして俺は魔力を貯めるが敵である魔物もその間何もしていない訳ではない。魔物は黒い風を出し、俺たち二人の行動を遮っていく。俺と服部はうまくその攻撃を避けていくが、次第に追い詰められていく。


「今放つか!」


「ダメだ。ここで放ってもあれは止まらない」


「くそ!」


 これは身体強化を無理をしてまでも上げるべきか……。


 俺は心の中で決意し、身体強化を発動させようと思ったところで巨大な炎と大きなエネルギーが魔物に直撃した。


「おいおい。随分、ひどい目にあってるじゃねぇか」


「間に合ったみたいですね」


 そこには俺と同じ支部で仲間である佐藤と霧島の姿があった。








「この反転世界に入れたのか?」


「ああ。どうやら中からは出れないみたいだな」


「状況の説明を」


 俺はとにかくあの魔物のことや作戦を簡単に話す。そしてそうこうしている内に魔力がカシウスに溜まる。


「一斉に撃つぞ」


「はい」


「おう」


「うむ」


 俺たちはそれぞれ魔物を囲むように立つ。そして俺はカシウスから大きな魔力、服部は大きな風、佐藤は渦巻く大きな炎、霧島はリングの銃の一撃を放った。

 さすがにダメージはなくともこれらの攻撃は魔物の大きな衝撃を与え、体勢を崩し倒れる。

 こうして大きな隙が出来る。


 ……このタイミング!


「木原!」


「はい!!」


 木原の方を見るとその姿は人間の姿ではなく緑の蛇のような魔物……バジリスクの姿に変わっていた。

 そしてバジリスクの魔眼から石化の光線が放たれる。それは見事に敵の魔物に直撃した。


「■■■■■!!」


 魔物の体が徐々に石化していく。初めて命の危険を感じた魔物は奇妙な悲鳴を上げる。やがてそれは魔物の体全体を飲み込んだ。

 しかし、いつ解けるか分からない。俺は石化している魔物の上空に飛ぶ。


「はぁーーーーっ!」


 俺は力を込めてカシウスを大きく振りかざす。

 その一撃は石化している魔物の胴体を見事に一閃する。そのまま魔物は黒い粒子となり姿を消した。

次回でこの章を終えて、その次にいつもの異世界sideをやります。

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