41話 裏切り
「……皆」
私は必死に森の中を駆ける。村の火は瞬く間に広がっていき、村から少し離れている小屋の近くまで来ていた。
村の皆に連絡を入れたいが今通信機の類は持っていなかった。敵の襲撃だろうか。
私たち、能力者でもあり忍びはその職業柄、色々な敵が存在する。まだこのころは魔物は出現していないが、悪さをする超能力者は存在していた。さらに忍びである私はたちは裏で汚い任務をこなしていく。ASOは基本敵の能力者に対して捕獲を中心としているが、中には殺しの任務もあったりする。他にもどこぞの国のお偉いさんに頼まれて動くこともあった。
しかし、私はこのころ、まだ見習いだったので村から出ることもなく、能力の強化や戦い方について学んでいた。
「すごい火。私の能力が水だったら」
私の能力は風を操る能力であり、水を出したりすることは出来ない。
私はこの炎を消すことが出来ない自分を恨みながら走り続ける。すると村の入り口が見えてきた。
しかし、大きな門は閉じられており、その前には一人の男が立っていた。
組織の者だろうか……。
私は男の前に立つと、自分の証明書を出し、状況を聞き出す。
「村の中の人の避難は済んでおります」
「どこに避難しているの?」
「山のふもとにある島江町に」
「そう……」
ふもとにある島江町にはASOの支部があるで、そこに避難したんだろう。
「これが避難した者たちのリストです」
私は男から渡されたリストを見る。そこには一般人を含めた人たちの名前もあった。
……あれ。
「あのこの村の中には誰もいないんですよね」
「現地の能力者が捜査をしています。あとは本部からの調査団待ちです」
私はここで先ほどのリストを思い出す。あのリストには絵里と姉上の名前がなかった。姉上はともかく絵里はまだ任務に出ることは出来ないはずだ。
……まさか。
もしかしてこの村の中でなにかがあり、絵里は逃げ遅れたのではないか。そして姉上が救出しに向かったのではないだろうか。
とりあえず、確認を……。
「なにが起こったか、教えてくれますか?」
「申し訳ないですが、機密事項なので」
なるほど。入れるなんて以ての外か。
よし……
「分かりました。町の方に行ってみます」
「はい、お気を付けて」
私は町に向かい歩き出す……ふりをして男が見えないところで立ち止まる。
「親友や姉上を残して避難なんて出来ないし、それに……」
なにかきな臭い。
そう私の勘が告げていた。忍びの勘かな。
そうと決まれば速く村に行かなくては。
私は森の中を進み、私と絵里しか知らない裏の入り口に向かう。
裏の入り口はそんなに大きくない。私は静かに入っていく。そして……
「嘘……」
村の中に入ると火は消えていたが、焼け焦げた家や畑が目立ち、能力者や忍びたちが捜査しているそうだが、何故か人の気配を感じなかった。
「とにかく、絵里と姉上を探さないと。やっぱり何かに巻き込まれている絵里からかな」
確か彼女は今日ボランティアで学校に行ったはずだ。姉上が絵里を追っているのなら、彼女も学校の方にいる可能性がある。
私は駆け足で学校に向かった。
「やっぱりおかしい」
学校に無事に着いたのだがここまで誰一人として、能力や忍びに会うことはなかった。他にもこの惨状を生み出した者たちの姿もだ。これがただの火事ならば組織も動かないだろうし。
私は周囲の警戒を続けながら、学校の中に入っていく。
「生徒も案の定いないと。確かボランティアの人が集まる教室は……」
私は自身の記憶を辿りながら進んでいく。そして上の階へ行こうと階段を上る。すると大きな物音が聞こえてきた。
「……っ」
私は瞬時にクナイを出して、能力もいつでも発動できる状態にしておく。
「扉が……」
どうやら物音がしたのは階段に一番近い教室だったようだ。この教室はボランティアの人が集まる教室だ。
そして中には敵がいる可能性もある。それでも私はこの時止まることは出来なかった。
「絵里!」
私は親友の名前を叫びながら突入する。それと同時に大きな斬撃が私を襲う。
「なっ!」
私は驚くも、この事態は予想出来たことだ。私はクナイでそれをはじき後ろに跳ぶ。
続いて追撃を予想していたのだが、それはなく敵は私をじっと見ていた。
そして私はそんな敵に首を傾げながらも、この隙に教室を確認する。床には血を流して、意識を失っている男が二人。恐らく調査中のこの村の能力者か忍びだろう。次に肝心の襲撃者だ。敵は狐のお面をかぶり忍びの服を着ていて、背中には大きな刀がある。先ほどの斬撃はあれから生み出したものなんだろう。
さらに敵の奥には私の大切な幼馴染の姿があった。彼女は椅子に座りながら気を失っている。少し離れていてしっかりとした確認は取れないが、外傷はないようだ。
「あなたは何者なの?」
「……」
敵はなにも答えない。心なしか周囲を見渡しているような気がする。まさか、増援待ちか。
私は絵里を奪還するべく動き出す。能力を発動し、風を発生させた。さらにその風を敵に挟むようにぶつける。
しかし、敵はそれをいとも簡単に抜け出し、刀で斬りかかってくる。私は能力発動後も動きを止めることなく、クナイで刀を受け止める。
敵は能力を使わないことから能力者でない可能性も考えたが、憶測だけでで動くのは忍び失格。
私は能力者である可能性も考えて行動する。私は再び距離を取り、能力で風を発生させてぶつける。そこで私は先ほどとは違い敵に向かい突っ込んだ。
そう、敵が風を払う一瞬を狙ったのだ。
「ふっ」
接近には成功。そして私は至近距離から回し蹴りを放つ。敵は至近距離であるのにも関わらずこれも避けた。
私は舌打ちしつつも、次の行動に繋げる。私はそのまま流れに任せてクナイを振るった。
「……」
敵は焦らない。彼女はクナイを足で蹴り上げる。攻撃を防がれる、しかし私はここでふと笑った。
私が発生させた鋭い風が敵のお面に直撃する。
私は自分の能力を完全には扱えていない。しかし、ここ最近で風の性質を操ることは出来るようになってきた。今みたいな風や広範囲に広げたいものなど風の性質は色々ある。
敵は大きく後ろに下がった。そしてお面が床に落ちる。
「これで素顔が……えっ」
私はその顔を見て絶句する。この瞬間、忍びである『服部彩』ではなく、一人の少女である『服部彩』になっていた。
私の頭の中は真っ白になり、何も考えられなくなってしまう。
「強くなったな、彩」
「何で、何でですか。姉上……」
彼女の能力が静かに発動する。私の姉上が使う能力は影。それは鞭の形になり、私に直撃した。
私の意識は暗転する。そしてその瞬間、姉上の御免ねという声が聞こえた気がした。
そしてこの日から姉上は裏切りの忍びとして語られるようになり、この事件も表向きとしては唯の火事として処理されたのであった。




