39話 祠
「私たちの村を助けて頂き、本当にありがとうございます。村の代表としてお礼を」
「別に俺は何もしてないよ」
「ですが、敵の魔物をなぎ倒し、能力者を撃退したのは事実です」
「……そうだな」
俺と木原は服部に連れられて敵に捕まっていた人たちの元に訪れていた。彼らは会館の一番奥の部屋に監禁されてはいたものの、そこまで悪い扱いは受けていなかったようだ。だが、反抗したもので殺された者もいたようでさすがに死者なしとは行かなかったようだ。
途中、服部の話しを聞きながらそこへ向かっていたんだが、彼女のここまでの経緯を聞くことが出来た。
服部は俺よりも早くこの村に着いたが状況は俺が着いた時とそう変わらなかったらしい。敵の能力者とも接触せず、自身の得意である気配を無くし慎重に村を探索していたようだ。だがやはりというべきか、魔物の数が多かったため思い通りの場所にはなかなか迎えなったらしい。
そして会館の近くを通ったところにあの剣士と遭遇う。そして戦闘に突入すると、何度か刃を交わすうちに実力の違いに気づき、逃げの一手に変える。その流れで会館の中に入り、俺たちと合流したということだ。
あの剣士から逃げるのは大変だったろうと聞くと、忍者としての能力を駆使して、うまくやったようだ。
「しかし、あいつらは何が目的でここに来たんだ?」
「それが見えないわね」
普通に考えて目的はやはりあるはずだ。しかも向こうはこちらとあちらの世界について多くのことを知っている。それにもしかしたっら向こうと行き来できるかもしれないしな。
とりあえず、俺は村長に敵の行動について聞いてみることにした。
「彼らは地下の祠で調査をしておりました」
「地下の祠?」
俺が首を傾げると、木原が解説する。
「はい。かなり昔から地下にある祠なんですが、魔法使いが作ったと言われています」
「魔法使いだと!?」
俺は予想外の言葉を聞いて驚く。
メランはこの組織とは関係ないと言っていたが嘘だったのだろうか。
「具体的には?」
「申し訳ない。そこまでは……」
「これは調査する必要があるな」
地下の祠。果たしてなにがあるのやら。
俺は敵の目的について考えていると、先ほど本部に連絡を入れてきた服部が戻ってくる。
「どうだった?」
「指示は出た。後、次の日の朝まで待機だそうだ」
「桜川支部の皆は?」
「会長と彩以外は支部に待機してるそうだ」
「教団の襲撃もなかったんだな?」
「ああ、襲撃してきたのはここだけみたいです」
ともなるとここの祠がますます怪しくなる。
「すいません。ここの祠に入ることってできますか?」
「ええ。よく子供が入って遊んでるくらいです」
「これまで何か変わったことはありますか?」
「いえ特には……」
これまでそこで異常はないか。しかし、魔神教団の連中がきたのだから何もないということはないだろう。
嫌な予感がする……。
「服部、一応支部の連中におうえんに来てくれるように言ってくれ」
「なにかあるのね」
「ああ、嫌な予感もするし、あいつらがなにか仕掛けていった可能性もあるからな。帰るまでに調査したい」
「その前に一度、休息とった方が……」
「いや、やつらがなにかした可能性がある以上、急ぐ方がいいだろ」
「そうかもしれないですけど……」
「なに、大丈夫さ。まだ戦える」
俺は心配そうに声を掛けてきた木原に問題ないと告げる。
「応援はまたなくていいのか?」
「実際、今日中に来るのも怪しいからな」
ここまで来るのに数時間。瞬間移動ができる会長はともかく、普通の人間なら来るのに時間が掛かるだろう。
そうだ……。
「服部や木原はあの祠には行ったことはないのか?」
「そうですね……私もやっぱり子供の頃に少しだけ行ったくらいかな」
「私も同じく」
「なにか印象に残るものとかは?」
「特には。でも綺麗な場所ですよ。二つ大きな木の間に祠があるんです。そこにちょうど良く地上の光が重なって」
「広さも結構あるのでな、遊ぶのに最適な場所だった」
「奥に隠し部屋があったりとかは?」
「見た感じはなかったぞ」
「そうか……」
俺はあの男……冬樹が言っていた魔素の話を思い出す。奴は魔素の元ががこちらの世界から発生し、さらになにかしらの理由で変質して魔素にあると言っていた。
もしかしたら、そのことについても何かわかるかしれないな。
……よし。
「行くか」
「私も行きます」
「同じく」
「だろうな」
こうして俺と木原、服部は地下の祠に向かっていった。
「ここが入り口か」
「ここではまだ少し暗いですから、明かりをつけますね」
「頼む」
木原は近くのレバーを引くと明かりがつく。どうやら階段になっていたようだ。
「私が案内しますね」
「ああ」
するとここで服部が小声で俺に話掛けて来る。
「どうした?」
「いや、やけに仲が良いなと思ってな」
「そうか?」
別にそうは思わんが。
彼女とは村の入り口から戦ってきたが、別に特別なことはなかったと思われる。まぁ、それでも少しは友好を結べたかな。
「絵里にもし変なことでもしてみろ、その頭を叩き切る」
「……何もしてないわ」
なんかとてつもなく物騒なことを言ってきた。ここまで言うとは本当に仲が良いんだろうな。
しかし、変なことね……。エロ本を見せたくらいだな。
……あれ、もしかしてこれも変なことか?
俺は冷や汗を流すも、足を進める。
「二人してなにを話してるんですか?」
「……別になんでもない」
「ええー、気になりますよ」
「何でもない」
木原は服部に近づいていく。服部は嫌そうな顔をしながら、彼女を払っていまた。
すると服部は流れを変えるためかここで俺に魔神教団について話を聞いてきた。
「遠藤。あいつらはやっぱり異世界と関係してたのか?」
「その言い方だと気づいてたか」
「まぁ、今まで謎だらけだったし。それにあいるらについては情報が少しでもほしい」
俺はここで気付く、そういえば彼女のお姉さんが向こうの組織に所属していることに。
「今回来た能力者は三人で、あの剣士と魔物使い、そして俺は確認できなかったけど結界使いがいたそうだ」
「そうか……」
「お目当ての人物はいなかったか」
「やっぱり会長から聞いていたみたいだな」
「いや、部屋の資料も見た時に少し」
「……」
彼女の表情が暗くなる。
やはり、触れてはいけなかったか?
「済まないな、暗い雰囲気にしてしまって」
「いや、俺は気にしないさ」
「そうだな、いい機会だ。地下までまだつくのに時間が掛かるし、私のことについてでも話そう」
「……彩」
木原もなにか知っているようで、服部に悲しい視線を送っていた。
「いいのか?」
「構わない。絵里も助けてくれたことだしな。さて」
こうして服部は静かに自分の過去について語り始めた。




