37話 目的
勇者とはなにか?そう聞けば誰もが圧倒的な力で世界やその世界の人々を悪から救う者と答えるであろう。
では勇者にはどうしたらなれるのか。それは色々あると思うが誰かに認められることが大きい。自ら勇者の称号を名乗る者もいるが、それは悲しい男だ。そして認められるには最初に告げた圧倒的な力が必要。もちろん、グランシウスという世界を救った勇者にもその力はあった。故にかの勇者は魔王を倒すことが出来たのだ。
魔王を倒すほどの力だ、唯の力であるはずもない。
そう、それは世界の禁戒に触れるほどの……。
俺を貫くはずのケルベロスの牙はまさになかったかのように空振りして、俺は奴の三つの首をカシウスで落とした。本来はこんな隙を作ることはなかったはずだが、魔力が足りなかったか。しかし、速く本来の力を取り戻さなくては。
「はぁはぁ」
「使い切りましたね。ストックを。それにしても、さすがは魔王をも殺した真の聖剣の輝き……目にすることが出来るとは、実に光栄です」
「てめぇ、やはりそのことも知っていたか」
「もちろんですよ。本来はもっと使用が可能のはずですが、今のあなたでは一回が限界のはずですからね」
俺の異世界での戦いを知っていれば当然か。しかし、きついな。
隣には俺が奥の手を使って、真っ二つになったケルベロス。目の前には相変わらず一人でこちらを見ているピエロがいた。俺は次に自身の魔力を含めて状態を確認する。魔力は俺の魔力の器をタンクとすると、半分くらいまで戻っていた。これは先ほどの奥の手の効果だがもちろんメリットも存在する。それが俺の魔力ではなく、体の状態。外見に傷はないが、疲労など。
あーあ、これは寿命も減ったかもな。
生命力。本来はこの手を使うのにはその分、必要な魔力が必要だったが、俺はそれを他のところから持ってきたのだ。
しかし、ケルベロスは倒したものの、恐らくあいつが隠しているであろう魔物のことも考えると寒気がするな。
俺は木原の方を見ると、やはり魔物を操る冬樹の元にはたどり着けなかったようだ。シビレソウの二体と相対していた。しかし、相手が魔物使いという肩書を持っている以上、この空間のどこかに魔物をまだ隠している可能性がある。
「んっ、なにやら不安そうな顔をしているね。ああ、今連れてきているのはBクラスの魔物はこのケルベロスだけだよ」
「Bランクは……ね」
「ああそうそう、今のところ操れるのは魔物だけだから安心してください」
「今のところはだと」
「そうそう。能力は変質することがあるって聞いたことはないですか?」
そういえば会長がそんなことを言っていた気がする。すなわち、魔物だけではなく、人までも操れてしまうのだろうか。
「その顔、人までもなんて考えているのかな。私としては別の方向性の変質を狙っているんですよ。所謂、上位互換」
「まさか……」
「ええ、そのまさかですよ」
この世界ではまだ現れていないようだが、というか現れていたら反転世界を乗り越えて、この世界を破壊しつくすだろう。それほどにやばいものだ。ランクにすればSランクといったところか。
「あの世界では誰もなしえなかったあれを私は制御して見せますよ、いずれ」
「それは悪い冗談だな」
「私はがちですが」
というより、あれは自然に出てくることはない災厄。グランシウスではあれが通ったところは何も残らない。そんな存在だ。俺も過去に一度対峙したことはあるが、あれは魔王とは異質の意味で恐ろしいものだ。体感だったが、どちらも恐怖を感じるものであったが、あれは悪意の……負の塊だった。まぁ、人によって感じることは違うかもしれないが。
「……待て。それを操るというのなら、お前らの組織ではあれを封印、もしくはそのものを所持しているっていうのか?」
「それはどうでしょう?」
「ここでとぼけるか」
「私自身、あれの存在を聞いているだけで、見たことありません。あの方ならどこかに隠し持っているでしょう」
「……」
やばい、混乱して頭がどうにかしそうだ。落ち着け、落ち着こう。恐らくあいつらのボスは向こうの人間で間違いない。それであれをこちらに持ってきて、こちらの世界に隠す。というか、向こうと行き来できる可能性もあるから向こうに隠してるかもしれないのか。
しかし、そんな人物思い出せないな。俺のことを詳しく知っているし、関係を持った人物だと睨んではいるんだが。
「いやー、考えてますねぇ」
「くっ」
「私自身もあなたと彼の関係はそこまで聞かされてもないので分かりませんよ」
一見こいつとの会話を聞くに内部の情報をべらべら話しているように見えるが、俺には聞かれたくない情報は隠しながら話しているように感じる。ここまで向こうから切り出してきたが、こちらからも切り出してみよう。もちろん嘘である可能性もあるがないよりはましだ。今までこの魔神教団のことは不明だったんだし。
「そんなものを持ってるかもしれないお前らの目的は何だ?まさか、その名の通り魔神の復活なんていう下手なもんじゃないだろうな」
「まさしく、その通りですが」
「マジかよ」
魔神。過去に俺が持つカシウスと反する魔剣であるクロノーツ。それを創り出したと言われている。その歴史遡ることグランシウスの大陸創造の時代レベルのことなんで、向こうではおとぎ話のレベルであった。
だが、なにかが引っかかる。それに関することを俺はどこかで……。
「答えるられることは話しますよ。私、知り合いには口が軽いとよく言われるので」
「そうかい。それなら、もう一つ、お前たちは何故にこの世界の表舞台に現れない?」
「?」
「魔物を活動させられる結界に、無数の魔物。これがあれば」
「ああ、なるほど。勇者殿、その答えは簡単です。魔神復活のために我々はこの世界の人間を出来るだけ殺したくないんですよ。抵抗するのなら、やむなく殺しますが」
「なんだと?」
「なるほど。あなたは理解してないのですね。この世界とグランシウスの関係性を。なら、少し話すとしますか」
こうして目の前のピエロは静かに語り始めた。




