36話 地獄の番犬
ついに十万字達成。とりあえずの目標でしたので嬉しいです。これからも一週間投稿ですが、頑張っていこうと思います。
「近い……」
「そうみたいですね。私も姿を変えておきます」
彼女はまたその姿をブラットウルフに変える。俺はソウルブレードを構えた。ここでカシウスを構えなかったのはほとんどの確率として敵の能力者が潜んでいる可能性がある。
俺のカシウスは聖剣とグランシウスで呼ばれていたのもあり、恐ろしいほどの殺傷力を持っている。そして基本、能力者は確保するのが一般的だ。その理由からソウルブレードを使っている。しかし今回はまた別の理由もある。能力者は一人ではないし、魔物も同時に襲ってくると思うので乱戦になると思われるからだ。魔物が混ざった乱戦になると能力者の捕獲の難易度が大きく上がるためだ。
他にも最近分かってきたことを確認したいこともあるしな……。
「木原、上だ!」
「……っ」
木原は俺の声に反応して、とっさに避ける。そこには鉄の棒のようなものが三本突き刺さった。木原もしそれが避けれなかったことを考え、顔を青くする。
「ボーっとするな。次が来るぞ」
「はい」
俺は次に敵の姿を認識する。しかし、あの棒も見覚えがあったため、ある程度は予想がついていた。壁に張り付き、背中に先ほど飛ばした鉄の棒のようなものが突き刺さっている。見た目は緑色のとかげだ。名前はソードン。Cランクの魔物である。数は三体。
「奴はBランクの魔物だ。あの背中の棒は何度でも生えるから気をつけろ。弾切れがない」
「この高さじゃきついです」
「棒をはじいておいてくれ。俺が直接あいつらに突っ込んでいく!」
俺はソードンたちを視界に収めると、床を力強く蹴り上げて跳躍する。奴らは俺に標準を合わせるが、俺よりも高く跳躍した木原に阻まれた。奴らの背中の棒が生えるまで三秒かかる。しかし、俺が奴らを斬り伏せるのには十分すぎる時間だった。
「おせぇな」
俺は横に薙ぎ払うように三匹のソードンを斬り伏せると、着地。
「まだ、魔物は潜んでいます」
「そのようだな……だが、その前に」
「えっ……」
突如この空間は歪み始める。突然、この空間が変質した。ただの通路であったはずの空間がジャングルへと変わったのだ。
「これはたまげた。敵はここまでやるか」
「こっ、これは……」
空間の変質。簡単に言うが魔法で再現するには上位……それも限られたはずの者にしか出来なかったはずだ。俺が驚いていると、俺たちの正面から拍手が聞こえてくる。どうやら、能力者のお出ましのようだ。
「あはは、素晴らしい。さすがは元勇者だ。実に素晴らしいですよ」
「それは褒めてもらい光栄だ。それであんたは空間を操る方か?それとも魔物使いか?もしくは……」
「なるほど。そこまで予想を立ててましたか。まぁ、あなた様なら当然ですね。……あっ、安心してください、能力者は私を含め三人だけですから」
「信用できるか」
「ははは、手厳しい」
目の前に出てきた男は大きく笑う。奴を見た感想はどこか気にくわないであった。見た目はまさに赤い鼻で頭には真ん中が二つに割れている帽子を被っている若い日本人。まさにピエロのような恰好をしていた。しかし、あの剣士もそうであったが、なにやら向こう側は俺を自分が思っている以上に持ち上げている感じがある。まるで俺のことを元勇者という肩書ではなく、深く知っているような。
「そうでした、自己紹介がまだでしたね。私の名前は冬樹とお呼びください」
「そうかい、一応覚えておくよ。それと山本の時から思っていたが、なんでその態度なんだ」
「と申しますと?」
「その俺を持ち上げるような口調。まるで俺のことをよく知りすぎてるような感じで気に入らねぇ」
「はっはっは。それはあなた様のことをよく聞かされたので、純粋に素晴らしいと思ったのですよ」
「聞かされただと……」
「ええ」
「……」
聞かされたねぇ。これは最悪向こうの親玉はグランシウスの者の可能性も出てきた訳だ。ただ異世界に渡る方法も解明出来ていなかったはずなのに一体どうやって。
俺はこのことについて深く考えたい思考に駆られるが、今は目の前の敵に集中する。さらにあの男もいる可能性があるからだ。
「あっそうだ、山本なら来ませんよ。もう一人の鼠を追っていますので」
「もう一人の鼠?」
恐らく、服部のことだろう。どうやら、まだ生きていたようだ。しかし、あの男に追われているとなると、こいつを速く倒すか撒くかして、出来れば合流したいものだ。
「おや、お仲間でしたかな?まぁ、いいでしょう。こちらはこちらで楽しみましょう。勇者様に会えると聞いてとっておきの奴隷を用意してきましたので」
「嫌な予感がするな」
「そう言わずに御覧くださいな」
突然その魔物の気配は現れ、俺の溜息と共に奴は冬樹の後ろに現れた。その姿は一見犬のように見えるが、三頭もの大きな首に、鋭く光る血が付いた牙。奴は俺たちを獲物の見定め、大きな咆哮を上げる。まさに地獄の番犬。Aランクの魔物であるケルベロスだ。グランシウスではこいつが町の周囲で出現したと聞けば、町の住人が一斉に逃げ出すレベルだ。
「まさか、ここまでの魔物を用意してくるとは」
「この舞台ではこの奴隷が最後ですが、まだ様子見の段階ですよ。それに上からあなたがどれくらい弱体化してるか見てこいと指令が出てますので」
「……っ」
ここで俺は大きな衝撃を受ける。糞。向こうは弱体化まで把握しているのか。本当に上の奴は何者なんだ。
「遠藤さん、これは……」
「木原は下がってろ。これはブラットウルフ……Bランクの魔物では対応できない。だから、あの魔物使いに気を見て突っ込んでほしい。ブラットウルフなら可能のはっずだ」
「分かりました」
木原が近くの草むらに飛び込んだ。俺はあれの対処法を考える。最悪、逃げる分だけ温存して、切り札を出さないといけないかもしれない。
「さて、この奴隷と遊んでもらうとしますか。いきなさい!」
冬樹の声に反応し、ケルベロスが突っ込む。
……やはり、速い。
ケルベロスはレットドラゴンとは違い、炎を吐いたりしないが、そのもっともな脅威として挙げられるのが、その速さだ。さらにあの牙に噛まれれば一溜りもない。身体強化している俺でさえ一撃をもらえば最悪、死にいたる。
「ギャル!」
「おっと」
しかし、俺は見えていた。確かにAランクでもトップクラスの速さだが、俺はもっと速い存在を知っている。俺はジグザグに動きながら、ケルベロスを翻弄していく。そして動きが鈍ったところで俺はソウルブレードとは別の片手にカシウスを出して斬りかかった。だが……
「ちっ」
「ぐるぅー」
俺の攻撃は鋭い刃に阻まれる。俺は体勢を立て直そうとするが左右から別の顔が牙をたてながら、近づいてくる。そしてその牙は……。




