35話 違和感
「だいぶ進んだはずなんだが、相変わらず終わりが見えないな」
「魔物はシビレソウ以来でてきませんね」
「ああ」
あの戦闘が終えると俺たちは再び先に進み始めた。しかし、魔物とも遭遇せずに進み一時間、今も同じ道を進んでいる。トラップも見当たらない。
これは……
俺はある可能性を感じ取り、足を止める。木原はそんな俺に疑問の声をあげた。
「そうしたんですか?」
「いや、最悪な可能性を考えてな」
「?」
俺は壁に向かってカシウスを使って傷をつけた。もちろん、木原はそんな俺の行動に驚く。
「とりあえず、もう少し進んでみるぞ」
「何をしたんですか?」
「ただ印をつけただけ。まぁ、少し歩けば分かるさ」
俺は木原に軽く説明すると、再び歩き始める。そして十分後。
「この印って……」
「やっぱりか……」
俺はこの現状に思わずため息を吐く。これで確信した。奴らは俺たちを倒そうだとか仕留めるなんて思ってはいない、奴らは俺たちをここに閉じ込めるきでいるようだ。
「閉じ込められた?」
「ああ、しかもこの手の結界は穴があるもんだが、超能力だからなぁ~。穴を見つけるのに時間が掛かりそうだ」
とりあえず何をするか決めたが、ここまでの時間を無駄にしてしまったのは大きい。一刻も早く穴を見つけなくては。まず、今まで俺たちが進んできた道を思い出す。
「これまでの道に何か変わったものはなかったか?」
「いえ、特になにもない道でしたけど」
「だよなぁー。とにかく穴を探す。今度はそこら辺を注意して進んで行こう」
「はい」
穴というがまぁいろいろある。ほころびやヒビ、さらにはスイッチなどだ。それとこういう空間の魔法だが闇の魔法使いの上位魔法、ダンジョンクリエイトにあたる。以前メランのやつがこういう風に発動しなかったのは目的が違ったからだろう。つまりこの魔法は色々と使い方があるのだ。
「やっぱり異世界でもこういった魔法を使う人はいたんですか」
「ああ、といってもこんなものが出来る魔法使いなんてごく少数だよ」
「なるほど……」
「そういえば……」
俺は向こうでダンジョンではなかったが似たようなことがあったことを思い出す。あの時は空間魔法のプロフェッショナルがいたからなんなく抜けたが、あの時あいつがなにか言っていたような……。
『あーあ、閉じ込められたな』
『そのようじゃの』
『というか、もう動いてるし』
異世界であるグランシウス。そこでとある敵と交戦中に空間に閉じ込められた。そして俺は隣にいる我がパーティの魔法使いを見ていた。
『なに、このレベルになると体が勝手に動くもんだよ』
『へぇ』
魔法使いである彼女はダークエルフであり、この魔王を討伐を目的とするパーティで一番年長だった。しかし、ダークエルフだったこともあり、見た目は一番若かったかもしれない。彼女は俺と同じく無属性魔法の使い手だ。……というか、俺が使う身体強化の魔法は彼女から教わったものだ。
無属性の魔法は大きく分けて三つある。時間魔法、空間魔法、身体強化の魔法だ。その中でも彼女は時間の魔法をもっとも得意としていて、時の魔女として名をとどろかせていた。ちなみにこの空間魔法だが、主に操ることを主としている。つまり、切り取ったり離したりなど。ダンジョンとはまた別物なのだ。
『ほら、あっという間だ』
『まぁ、俺はこの手には全く知識がないので分からないが……』
『まったく、このくらい見つけられなくてどうする?』
『ごり押し』
『ディアナそっくりじゃの……』
彼女は俺の回答に溜息を吐く。しかしこの時地味に師匠に似ていると言われ嬉しかっt俺がいる。
『いんじゃ、なにかコツを教えてくれよ』
『ふむ。では君は違和感というものを感じたことがあるか?』
『違和感?いつもと違う的な』
『逆じゃ、いつもと奇妙に同じ過ぎる』
『同じ過ぎる?』
『そう、例えば夕食で出てきたおかずが明らかに依然に食べたものと同じ味がした的な』
『作ってる人が同じだからとか?』
『それを考慮して似た味すぎるんじゃよ』
『?』
『ちょいと、難しかったか』
『いやいや、ちょっとどころじゃないだろ』
『うーん、そうだな……』
彼女はふととある壁を指をさす。そこは何の変哲ない……いや、変哲もなさすぎる?不思議な感じだ。
『変な気分じゃろ。それが違和感じゃ』
『違和感……』
『まぁ、さっきのごり押しも似たようなものか。じゃが、わしはそれから何十にも分析を掛けるが』
『なんだそれ』
結局、ごり押しかい。
『じゃが覚えておけ。決断ろいうのは個人に対してだけではなく、集団に対しても影響を与えるということを』
『つまり、状況によって判断しろと』
『そうじゃ、もしかしたらお前らしい方法も見つかるかもしれないしの』
『ふーん』
彼女はにやりと笑うと壁に向かい解析を始める。彼女は戦闘でも後方支援をしたりするが、どちらかというとこういうことに関しての方が活躍しているかもしれない。
……まぁ、俺の視点の話だが。
ともかく、俺はこのことがきっかけに周囲への観察……というか見方が変わっていったのであった。
「遠藤くん大丈夫?」
「んっ、ああ」
「どうしたの?」
「いや、少し昔を思い出してな」
どうやら、少し回想にふけっていたらしい。まっかく、そんなことをしている暇はないというのに。そして目の前にはあの印。
「二周したな」
「ええ」
「まず、この空間についておさらい」
ここは真っ正面から見て左右、上下の壁。どれもシンプルで模様がないものだ。歩いて行っても同じ光景が続く。だが、歩き続けていると俺が印をつけた壁が出現する。すなわち……
「この空間が幻覚の類ではないことは間違いない。俺がこの壁に傷をつけられて、さらに残ったのだから」
「では……」
「……」
俺はその印をじっと見つめるそして……。
「はっ!」
俺はカシウスを高速で再びその印を切り付ける。そしてその瞬間、眩い光が俺たちを襲った。
「遠藤さん、大丈夫ですか?」
「はぁはぁ。大……丈夫だ」
まったく思ったよりも魔力を使っちまった。
光が出た時、何をやっていたのかだが……まぁ、オペのような精密な作業を聖剣でちょっと。とにかく、目の前にいる木原には光が消えてから、ひどい状態に見えていたかもな。
だが、これで。
「これは……」
「やっとループを抜けたのさ」
空間は姿を変え…いや、元の姿に戻った。
「これで先に行ける」
「さすがですね」
「……正直に言うと運がよかった。まぁ、それより急ごう」
あいつらの目的がなんであれ捕虜を減らすまねはしないと思うが、それでも時間がないのは変わりない。それに多数の人間の気配が敏感になってきたのは確かだ。
「急ぐぞ」
「はい」
俺たちは再び先に進んで行った。




